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小さな本屋

第5章 本屋をダウンサイジングする(1)

 これから本屋をはじめるのであれば、できるだけ小さくあったほうがよい。

 前述のとおり、ある時代まで本屋は「大きいほどよい」という感じ方が一般的だった。そこに行けば、探している本が必ず見つかる。広大な坪数、途方もない冊数が、宣伝の決まり文句だ。いまも、そのような大きな本屋がない地方に行くと、それを渇望している住人は少なからずいる。

 たとえば自分の生まれ故郷にそういうニーズを見つけたら、自分が開店しようと考える人もいるかもしれない。けれどそれは、残念ながらかなりの冒険だ。大きいほど家賃も人件費もかさみ、在庫もものすごい金額になる。大手チェーンが出店していないのは、つくっても商売が成り立たないからだ、と考えるほうがよい。そのくらいには成熟した業界だ。

 日本人は小型化することが得意だと言われてきた。一九八二年には、『「縮み」志向の日本人』(学生社、のちに講談社学術文庫)という日本文化論がベストセラーになった。しかしその当時、出版業界はまだ右肩上がりで、書店はどんどん大型化していた。それから三五年経ったいま、あらためて小さな本屋がいい、書店をダウンサイジングしよう、というのは遅すぎるだろうか。いや、むしろいまこそ考えるべきだ、とぼくは思う。

 大きな本屋が近くにあり、目的の本がすぐに探せるのは幸せなことだ。しかしそうした領域は、テクノロジーがどんどん解決してしまう。けれど、ふらりと入った本屋で、知らない本、そういえば気になっていた本、なぜだか気になる本に、不意に出会う個別の体験は、本屋がある限りなくならない。その本屋は、必ずしも大きな本屋とは限らない。小さくとも、あるいは小さいからこそ、それができる。

 京都・一乗寺の「恵文社一乗寺店」の店長だった堀部篤史氏が独立して「誠光社」という本屋をはじめるとき、いくつかのメディアで対談させてもらった。「ダウンサイジング」というのは、堀部氏がそのとき自店を説明するために使ったことばだ。

 恵文社一乗寺店の広さは一二〇坪。小さくはないが、決して大型書店というほどではない。「本にまつわるあれこれのセレクトショップ」として、地元でも愛され、遠くからもたくさんの人が訪れる。併設のギャラリー「アンフェール」ができ、雑貨などを扱う「生活館」ができ、堀部氏が退職する少し前に、イベントスペース「コテージ」もできた。充実したオンラインショップもある。堀部氏が抜けたいまも、すばらしい本屋だ。

 けれど多角的に店を展開させていけば、抱える人の数も、見るべき広さも、商品の数や種類も増え、それに伴ってやるべきことが増えていく。独立した堀部氏は、まずそれらを一度、自分ひとりで抱えられるようにダウンサイジングすることにした。

 日本はもちろん、世界を見渡してみても、元気な本屋の多くは、小さな本屋であるように感じられる。それらの小さな本屋は、どのように経営されているのか。なぜ元気なのかを、本章で明らかにしたい。

 堀部氏は「今のお店で一番良かったのは、最初に小さく設計したこと」「最低限で考えたのがよかった」と語っている(二五九頁を参照)。なお、一九八二年にベストセラーとなった日本文化論の英語版タイトルは “Smaller is better” である。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P186-P188より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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