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出版社から直接仕入れる――新品の本を仕入れる5つの方法(4)

別冊 本の仕入れ方大全 2(4)

直取引とは

 新品の本を仕入れる第四の方法は、取次や書店などを介さず、出版社から直接仕入れる、すなわち直取引を行うことだ。

 方法は簡単で、ただ出版社の代表電話に電話をかけて、直取引をしたい旨を伝えればよい。その出版社が全く応じていない場合は別だが、柔軟に対応してくれる出版社も増えてきているので、大抵の場合は担当者につないでもらえる。もちろん、条件はケースバイケースだ。少額の取引であれば、条件は出版社の側で決められていることも多く、たとえば八掛で買切、といったものである。出版社の側の事情としては、より低い掛率で出しても利益は出るのだが、そうすると取次経由で書店に入るときの掛率よりも安くなってしまうので、特に保守的な出版社は、他の一般書店に対する配慮と考えるようだ。けれど当然、交渉することもできる。

 出版社ごとに個別に取引するのは手間がかかるが、扱いたい本を自分で選ぶことができ、その出版社の本だけで下代で数万円以上、一定の量がまとまるようであれば、直取引は一番合理的な方法だ。

 また、中小取次と口座を開き、それと直取引とを組み合わせる方法もある。中小取次に直接の取り扱いがないところや、直取引のほうが条件がよいところなどは直取引にして、出版社ごとに使い分けることで、より多くの出版社の商品を適正な価格で仕入れることができる。

直取引出版社とリトルプレス

 出版社の側が、直取引での流通を主としていることもある。当然、そういう出版社の本は仕入れやすい。よく知られるところでは、ディスカヴァー・トゥエンティワン、永岡書店、ミシマ社、トランスビューなどである。数多くの書店と取引をしているため、委託か買切か、何掛か、送料はどちら負担かなど、基本条件が定められている。ウェブサイトで公開されているか、問い合わせれば教えてもらえるはずだ。

 また近年、出版流通に乗っていない、個人が発行するリトルプレス、あるいはZINEや同人誌などと呼ばれる出版物も、充実した内容のものが増えている。質の高いものや人気のあるものであれば売上も見込めること、他の書店ではあまり扱っていないため品揃えに独自性を出せることなどから、取り扱う書店も増えてきている。こうした本にはISBNさえ付いていないことも多く、原則的に作り手との直取引で仕入れることになる。

 流通に乗っていないそれらの商品は、網羅的なリストなどは存在しないため、書店は自力で探すしかない。そうした本を積極的に扱っている他の書店に行き、気になる本を見つけたら、まずは買って帰る。そのどこかに、発行者の住所や連絡先が記載されているはずだ。あるいは、ウェブサイトやSNSがあることが多いので、そこからコンタクトを取り、取り扱いたい旨を伝えればよい。

 条件は様々で、作り手側できちんと定めている場合もあれば、売り手側から希望条件を提示する場合もある。あくまで個別の取引だ。目安としては、買切の場合は六~七掛、委託の場合は七~八掛。送料は発送時は作り手負担、返品時は売り手負担、という形が一番よくあるパターンだろう。一対一の関係性なので、作り手と売り手が近所である場合は、直接手渡しでの納品とすることもある。基本的には、一般的な流通ルールがあるわけではないので、委託の場合は精算のタイミングなども含め、最初にきちんと取り決めておくことが大切だ。

トランスビュー取引代行

 直取引を主とする出版社のうちの一社、トランスビューには、取引代行という仕組みがある。当初は自社の本を卸すために、たくさんの書店と直接口座を開いていったが、のちに他の出版社と書店との直取引を代行するようになった。この仕組みを利用している出版社の本には「取引代行 TRANSVIEW」のマークが入っているか、シールが貼られている。

 トランスビュー扱いの商品は委託で、掛率は六八~七〇%、一冊からでも送料無料と、書店にとってはよい条件が提示されている。また、注文してから本が届くまでも、一~四日とスピーディーだ。すべての情報がウェブサイトで開示されていて、問い合わせて簡単な覚書を交わすだけで、口座もすぐに開設できる。大取次との取引が主で、直取引口座を増やしたくない書店のために、各取次からも、中小取次の八木書店を経由して仕入れられる。ただしその場合は買切となり返品ができない。なるべく直取引を捉すような仕組みになっている。

 とはいえトランスビューは、大手のように毎月たくさんの本を出版している出版社ではない。書店側からすると、少ない種類の本を少部数仕入れるために、個別に直取引をしていたら、手間が増えてしまう。そのため、トランスビューは複数の出版社の商品を同じ取引口座で扱うことで、書店向けに毎月の商品をより充実させようと考えた。それが、トランスビュー取引代行である。

 参加している出版社は、本書執筆時点で五〇社を超えている。書店の利益を第一に考えた仕組みであり、それに賛同し参加する出版社が徐々に増えている。小さな規模でも、いい本を作っていきたいというスピリットを持つ出版社が多い。各出版社とトランスビューとの間では、倉庫や宣伝活動などを共有し、それをトランスビューが取りまとめて、各出版社が実費をトランスビューに支払う仕組みになっている。

 トランスビューに関してより詳しく知りたい場合は、『まっ直ぐに本を売る ラディカルな出版「直取引」の方法』(石橋毅史著、苦楽堂)という本がある。

組み合わせて小売らしい形を

 このように、取次や書店を介さなくても直接、多様な本を仕入れることができる。手間もかかるが、作り手やその担当者とお互いに顔の見える関係になりやすいのも、醍醐味であるといえる。

 他の業界から見れば、大取次という存在は、むしろ特殊だ。もちろん現状では、まとまった数の多様な本を売ろうと思えば、大取次と契約できるに越したことはない。一方で、複数の取次と口座を開き、直取引も積極的に行うような形、すなわちいくつかの卸業者やメーカーとそれぞれに付き合う形のほうが、本来の小売の姿に近いともいえる。

 ただし、そもそも本という商品の粗利率は低い。それは先にも述べたように、一般的に流通している大多数の本が、大取次での流通を前提として、定価や掛率が決められているからだ。それが基準となって、読者にも「こういう本はこのくらいの値段」という価格感が浸透している。商品に対して、その価格感は安すぎると考える人もいる。出版業界の存続のためには、書店の粗利率を上げていくことが必要である、そのためには本の定価を相対的に上げていかなければならない、という議論に行きつくことも多い。

 これから本屋をはじめるのであれば、できればひとつの取引先に依存したり、決まった条件に慣れてしまったりすることなく、積極的にいろんな取引をしていくほうがよい。そのほうが小売らしい小売として、変化に強く、結果的に長く続けられる力がつくだろう。

※『これからの本屋読本』P142-146より転載


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