他人から買い取る——古本を仕入れる4つの方法(2)
別冊 本の仕入れ方大全 3(2)
買取と古物商
古本を仕入れる第二の方法は、人から買取をすることである。自分の蔵書や、勤め先などで不要になった本を、古本屋に売ったことのある読者も多いだろう。いわばその逆の立場として、個人や法人から古本を買い取るということだ。
買取をするには、古物営業法に基づき、それを扱う「古物商」(一号営業)の許可が必要になる。なお、古書組合に入る加入基準には、この古物商を持っていることが含まれている。
古物商の許可を取るには、買取を行う場所を管轄する警察署の防犯係が窓口となる。そこに行って申請を行う。必要書類がたくさんあるので、事前に問い合わせるか、直接窓口で尋ねるのがよい。本以外にも美術品から自動車まで様々な分類があり、必要に応じてまとめて申請することが可能だ。手数料として一万九〇〇〇円がかかる。
そもそも、なぜ古物商が警察庁の管轄になっているのかというと、盗品が流れる可能性があるからだ。窃盗を抑止し、早期に被害を発見するために、古物商は許可制になっている。近所で被害があった場合など、場合によっては捜査に協力することになる。
なお、交換会のような古物商同士の市を自ら主催するには「古物市場主」(二号営業)の許可が、自らネットオークションサイトを運営する場合は「古物競りあっせん業者」(三号営業)の許可が、それぞれ別途必要になる。
どのように買い取るか
買取の方法は、大きく三つあるといえるだろう。本を店頭に持ってきてもらう方法、郵送してもらう方法、そして本のある場所に出張する方法だ。すべてをやっている古本屋もあるし、いずれかに特化している古本屋もある。
たとえば店舗を構えている場合、店頭に持ってきてもらう方法であれば、店の品揃えとの相互関係が生まれる。店の品揃えを気に入ってくれた客からの買取であれば、いい商品が買える確率も相対的に高いといえる。一方、郵送してもらう方法であれば、店舗を持っていなくても、全国どこからでも可能だ。ただし、インターネットを中心に広告を出して大規模にやっている古本屋もたくさんあるので、それらと競合することになる。本のある場所に出張する方法は、何より客にとって便利だ。大量に買い取ることができる可能性も高い。
他にもそれぞれの方法に特徴や魅力があるだろうが、買取全般に共通するのは、値段の付け方が腕の見せ所になることだ。特に店頭や出張でその場で買取価格を提示しなければいけない場合は、自分の知識と感覚を信じて値付けをしなければならない。時間が取れるときは、今はインターネットで相場感がわかるので、検索しながら価格をつけていけばよい。あくまで目安だが、買取の場合は売価の一~三割の金額で買い取っておくのが安全だといわれる。つまり、自分が売るならば一〇〇〇円の値段をつける、と思った場合は、一〇〇~三〇〇円くらいで仕入れる。安いと感じるかもしれないが、新品の本と違い、古本は返品できるわけではなく、常に在庫リスクがある。マーケットも小さく、種類は膨大にあるため、その本を欲しがる人と出会える確率は、相対的に低い。売価の一~三割で仕入れておけば、もし売れ残ったとしても、市でそれ以上の値段がつく可能性が高いといえる。
もちろん、自分の店に並べれば絶対に売れるという確信があれば、売る値段の七割で買い取っても八割で買い取っても、利益は出るのだから、すべては自分次第だ。
蔵書を引き取るということ
買取をするということは、個人の蔵書を引き取るということだ。ある個人が、長い時間をかけてつくってきた関心の地図のような、頭の中身の延長のようなものに、値段をつけることでもある。
古本屋としては当然、できるだけ安い値段で買えれば利幅は大きいのだが、一方、そのような個人の蔵書にあまりに安い値段をつけると、がっかりされたり、人によっては怒り出したりしてしまうだろう。本来は、一冊ずつの本の価値に対して値段をつけているはずなのだが、まるでその人に値段をつけるような、つけられたような感覚になってしまい、買うほうも、売るほうも、気持ちが乱されることが多い。最終的には散り散りになってしまうことがほとんどだが、かたまりとしての蔵書には、それだけの魅力がある。
また、一番多い買取のタイミングは、蔵書の持ち主が亡くなった時である。亡くなった方の遺族が、故人の蔵書を手放すときに、その人が生涯をかけて積み重ねてきたものを引き取ることに対する責任が、古本屋にはある。
こればかりは、自分なりのスタンスを築いていくのに、しばらく経験を積んでいく必要があるはずだ。長く本を扱っていくのであれば、一対一の関係であるぶん、少なくとも自分なりの大義を持っているほうが、気持ちよく仕事ができるだろう。
※『これからの本屋読本』P150-153より転載
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