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本屋×ギャラリー

第6章 本屋と掛け算する(5)

 美術館や博物館、ギャラリーなど、何かを展示するスペースでは、そもそも少しの本を売っていることが多い。つまり広義の「本屋」であるといえる。美術館や博物館にはミュージアムショップがあり、そこで展示の図録や関連書籍を売っているし、小さなギャラリーであっても、展示中の作家の作品集を売っていたり、自社で出版を行っていたりする。

 展示をすることと、関連する本を売ることは、相性がいい。展示物は貴重な一点ものであることが多いから、いくら気に入っても、買って帰ることはなかなかできない。けれどそれが本にまとまっていたり、少しでも掲載されていたりすれば、その本を買うことで、展示を見た記憶とともに、複製としての本を持ち帰ることができる。また、展示に合わせてオリジナルで出版された図録であれば、展示だけではわからなかった背景について、より深く知ることができる。そのため、ミュージアムショップの売上においては圧倒的に、開催中の展示の図録と関連商品がその大半を占める。 

 またギャラリー展示のよいところは、一定の期間に区切って違う展示をすることで、客の来訪を促し、それが循環していくことだ。ギャラリーの常連客は、展示が代わるたびに来てくれる。そのうちの誰かは、作家のファンになるかもしれない。一方、作家のほうも大切な新作展示の機会であるから、自分の顧客や友人知人に、見に来てほしいと幅広く声をかける。そのうちの誰かは、ギャラリーの常連客となるかもしれない。ギャラリーにとっても作家にとっても、これまでの客が訪れ、新しい客も増やす、大切な機会となる。

 そのため、いわゆる新刊書店や古書店にとって、店内にギャラリーを設けることは、よい相乗効果を生む。関連の本を売ることができるだけでなく、常連客に定期的に来てもらったり、新しい客に知ってもらったりするきっかけにもなる。作家と直接やりとりしてオリジナルの企画にすることができれば、図録を編集・出版して販売してもよい。作品自体の販売を行ってそこから手数料を取ったり、あるいは期間に応じて一定の使用料を取ったりすることで、ギャラリー自体を直接的な収益源にすることもできる。こちらからお願いする場合には無料で使ってもらい、持ち込みの場合には有料のメニューを用意しておくなど、差をつけてバランスよく運営していく方法もありだ。

 また、前述のように、本屋は品揃えが日々変化しているとはいえ、それは生き物のように「動的平衡」を保っているため、風景としてはそれほど大きな変化は起こりにくい。そんな中、ギャラリーが店内空間のうちそれなりの割合を占めていれば、展示がガラッと入れ替わることで、全体の風景にも大きな変化を起こすことができる。

 もちろんそのキュレーションを行うのは大変だ。ギャラリーに勤務した経験があればよいが、少なくともそうした展示を観に行くのが好きで、自分なりの目線で良し悪しを判断できる人でなければ、よい相乗効果を生み出すのは難しいだろう。

 けれど、何もないところにいきなりギャラリーをつくるよりは、本屋との掛け算であるほうが色々とやりやすいのも確かだ。そもそも本屋として本を見に来る一定の客がいれば、作家側としては普段とは違っていろんな人に作品を見てもらえる機会になるといえる。また絵本や写真集を出版している出版社に、出版を記念した原画展や写真展が開催できる場所として活用してもらうこともできる。

 悩ましいのは、本もギャラリーも、壁を使うことだ。本屋の空間の中で、一番たくさんの本が置けるのは壁面だ。店内の全体を見渡せるような高さにしたいと考えても、壁面だけはどれだけ高さのある本棚でも置ける。そしてギャラリーも、主に平面作品を扱おうとすると、壁面がよい。そのため本屋にギャラリーをつくりたいと思えば、本のための重要な売場を、ある程度削らなければいけないことになる。

  最も潔い例は、東京・銀座の「森岡書店」である。「一冊の本を売る本屋」として、いまや世界的に知られている。店主の森岡督行氏は、神保町の老舗古書店「一誠堂書店」に勤めた後、独立して写真集や美術書をメインとした古書店を東京の茅場町に開き、そこにギャラリーを併設していた。現在、この茅場町店は閉店しているが、その後に開店した銀座店は、約五坪の小さなスペースで、毎週、一冊の本を中心に据えて展示を行っている。言い方を変えると、本をもとにした展示だけを行うギャラリーであるわけだが、長年にわたり古書を扱い、様々な分野に造詣の深い森岡氏がその業態を「一冊の本を売る本屋」と位置づけたことで、本屋の究極の形のひとつとなったといえるだろう。

 もちろん一切キュレーションをせずに、お金を払えば基本的に誰でも使えるような、貸しギャラリーとする方向性もあるかもしれない。近隣にそうした展示を行える場所がなく、地域コミュニティに求められているような場合は、それもありだろう。しかし本屋としては大事な壁面のスペースを使うのだから、展示内容の良し悪しを選べない、あるいは選びたくないという消極的な理由でそうするのであれば、無理にギャラリーを併設しなくてもよいかもしれない。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P211-P214より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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