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一等地ではない立地

第5章 本屋をダウンサイジングする(4)

 家賃は広さだけで決まるわけではない。当然のことだが、一般的によいとされる立地は、そのぶん家賃も高い。上階や地階より、路面の一階。裏通りより表通り。できるだけ駅近。そう考えたくなる気持ちもある。

 先に述べたように、かつて本屋の立地は、商圏の売場面積やアクセスなどによって分析され、判断されてきた。けれど、個人ではじめる小さな本屋において、もはやそうした分析は意味をなさない。本屋はとっくに、一等地にて老若男女、できるだけたくさんの人に来てもらうような、景気の良い商売ではなくなった。

 そのため、どこに出店するかということは、どんな店にしたいかということと、密接に重なってくる。たとえば「誠光社」は、路地裏の物件だ。ぼくの経営する東京・下北沢の「本屋B&B」は、雑居ビルの二階でスタートし、移転した現在は地下一階で営業している。「本屋Title」は、荻窪駅から徒歩で一〇分以上離れた場所にある。どこもとても一等地とはいえないが、近所の人はもちろん、遠くからもそこを目がけて、人がやってくる。

 一等地にあり、誰でも入りやすい店にすると、それだけいろいろな客が入ってくる。あらゆるニーズが向けられるようになり、それに応えようとすると、結果、個性の薄い店になりかねない。意志をもった人しか来ないような、あえて一歩引いた立地にすることで、ゆるやかに客を選び、その人たちに心地の良い場所をつくることに集中できる。時間はかかるが、近しい感覚をもった客が増えていく。

 そう考えると、むしろ家賃の高い一等地は、あえて外したほうが良いとも言える。例としては極端だが、隠れ家的なバーなどをイメージするとわかりやすい。そのほうが、濃密なコミュニケーションが生み出しやすいのは自明だ。

 とはいえ、分かりにくい立地であれば、通りすがりの客が期待できないぶん、店の存在を知ってもらわなければならない。そのためには情報の発信力が必要だ。たとえばSNSで、入荷した本を紹介するだけでなく、頻繁にイベントや展示などを開催していればその情報は店独自のものになるので、より拡散力がある。遠くから目がけて来てくれる客も、最初はそうした情報によって店を知る。その人たちに少しずつ、常連になってもらえるように努力する。 

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P191-P193より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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