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本屋×雑貨

第6章 本屋と掛け算する(9)

 イベントや教室、読書会など、ここまでしばらく書いてきたものには形がなく、それらは本棚や平台に並べることはできない。けれどもちろん、本屋に並べることができるのは、いわゆる本だけではない。あらゆるものを扱うことが可能だ。

 一般的な新刊書店において、長らく併設されてきたものは文具だ。レジ横に少しのボールペンが並んでいることもあれば、店の半分が文具売り場になっているようなところもある。また、手帳やカレンダーは、定番ともいえる季節商材だ。店の外に飲み物の自動販売機があったり、レジ近くで飴やガム、タバコなどが売っていたりするのも、昔ながらのよくあるスタイルといえるだろう。とくに他に小売店の少ない地域であれば、そこに洗剤や缶詰など、需要に応じて様々な日用品が追加されて、その街の総合小売店のような立ち位置になっている本屋もある。

 本と一緒に並べられるそれらのものを、文具も食品もあらゆる日用品も含めて、本書では雑貨とよぶ。雑貨は近年、必ずしも前述のように地域の需要に応じる形だけではなく、積極的な提案として、本の横に並べて売られるようになった。それらは大抵、本よりも利益率がよいということも、導入の背景にある。それらの雑貨は、ある本に描かれている対象そのものであったり、ある本を使って何か実践するときに必要な道具であったり、何らかの形でその本と関連している。

 主として本が並ぶ中にひとつの雑貨があれば、それが異物として目を引く入り口となり、売り場に立体感を出すことができる。どんな本の隣でも、関連性を無理やりであってもひねり出せば、置くべき雑貨は無数にみつかる。たとえば本書『これからの本屋読本』であれば、本屋の絵が描かれたポストカードを売ってもよいし、本屋で使うエプロンなどの道具を売ってもよい。特徴的な装丁に似た形をしたオブジェを売っても、似たカラーリングのポーチを売っても、何でもよい。もっと何の関係性もなくてもよいかもしれない。けれどそこに何らかの文脈があれば、本屋として棚を眺めている客に、面白い品揃えの店だと感じてもらえる。せっかく無数の可能性があるのだから、その店なりのアイテムを見つけて展開したい。

 一方、主として雑貨が並ぶ中に少しの本があれば、本は雑貨をことばで説明するような役割を果たすことができる。たとえばタイ料理向けのキッチン雑貨があるとして、それをただ並べて展開してもタイ料理に必要なものだということはわかりにくい。しかし、そこにタイ料理のレシピ本が一緒に並んでいさえすれば一目瞭然だ。もちろんタイ料理向けである旨のPOPを書いてもよいが、本であればよりスマートに、商品だけに語らせることができる。さらにそこにタイの文化や歴史についての本、タイでの暮らしを描いた小説などがあれば、ただ料理して食事するだけではなく、それを通じてより深い体験をすることの可能性を示すことができる。

 また、ここまで述べてきたのが一冊の本やそのジャンルと関係する雑貨だとすれば、読書という行為そのものに関係する雑貨もある。しおりや文庫本のブックカバー、本を運ぶためのトートバッグなどだ。広義には、ペンやノートといった文具全般も、そのような雑貨だといえるだろう。どんな本屋とも相性がよく、置く場所を選ばない。

 そうした雑貨を本屋オリジナルでつくるのもよい。海外、特にアメリカの本屋には、必ずと言っていいほど店オリジナルのトートバッグがある。わざわざ遠くから訪れる客や、言語が違う外国人の観光客などには、そこでしか買うことができないお土産的な商品として人気が出る。

 また、必ずしも本と直接の関係がなくとも、地元のアーティストのギャラリー展示に合わせて、ポストカードやステッカー、ノートなどのグッズをつくるのもよい。つくる過程でアーティストと店との間に関係性が生まれ、それを中心によいコミュニティを生み出せる可能性がある。

 あるいは、必ずしも地元でなくとも、自ら雑貨をつくって売っている個人には、各地のクラフトマーケットやインターネットを通じて、いくらでも出会うことができる。雑貨を扱うというと、雑貨メーカーのカタログを眺めたり、雑貨卸を探したりするところからはじめたくなる人も多いかもしれないが、手づくりの雑貨には、大きな市場を想定してつくられた雑貨とは違うよさがある。客にとっては他の店では見たことのない商品となり、その本屋の特色を示すことにもなる。

 さらにいえば、いわゆる雑貨に限らず、缶詰でも野菜でも、共感できるものさえ見つければ、何でも扱えるのも本屋の魅力だ。そのとき大切なのは、なぜそれを自分の本屋で売るのか、その理由を説明できることだろう。当然だが、雑貨ならば何でも本よりも売れて、利益が出るということはあり得ない。他の雑貨店などで売れているからといって扱ってみても、本を買いに来ている客に雑貨を売るのは、それほど簡単なことではない。なぜこれを売るのか。せっかく本屋なのだから、できれば本にそれを代弁させることで、雑貨屋とは違う魅力を出して相乗効果を狙えるとよい。そういう組み合わせを生み出し続けることができれば、本だけでなく雑貨も面白い店、雑貨だけでなく本も面白い店として、ひろく認知してもらえるようになる。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P220-P222より転載


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ブック・コーディネーター、クリエイティブ・ディレクター。新刊書店「本屋B&B」(東京・下北沢)と出版社「NUMABOOKS」を経営しつつ、「八戸ブックセンター」「神保町ブックセンター」「BIBLIOPHILIC」などの仕事をしています。散歩社取締役、バリューブックス社外取締役も。
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