これからの

最初に配るアンケート

第3章 本屋になるとはどういうことか (2) 

 ぼくは「これからの本屋講座」という、「本屋」になりたい人向けの講座を不定期で開催していて、以下のような告知文を出している。

 本をめぐる環境が大きく動いている今こそ、様々なスタイルの「本屋」の可能性があります。
「飲食業界の未来」と「食の未来」、「アパレル業界の未来」と「ファッションの未来」とが別であるように、「出版業界の未来」と「本の未来」とは、別のものです。「出版業界の未来」は、少し暗いかもしれないけれども、その中で生き残っていくための方法はあるはずだし、「本の未来」に至ってはむしろ明るく、可能性の海が広がっています。
 この講座は、これから広い意味での「本」を扱う人=「本屋」をめざす人のための講座です。
「今はまだ難しいけれど、いつか書店を開業してみたい」「仕事の傍ら、何か本に関わる楽しいことをやってみたい」というゆるやかな関心を持っている人から、「開業すべく準備をしているので、情報や仲間が欲しい」「勤めている会社に、本に関わる新規事業を提案するための、アイデアを練りたい」という具体的な目標を持っている人まで、広く対象としています。現在の本をめぐる環境についてレクチャーしながら、参加者それぞれ個別の「本屋」のイメージを具体的な事例として、実現に向けて踏み出していただきます。
 卒業生は、既に実際にリアルの店舗を構えて営業している人、開業に向けて仲間集めや物件探しをしている人、リトルプレスの創刊に向けて取材をはじめている人、本好き向けのイベントの企画やアプリの開発を進めている人から、まずはイベント出店やネットショップなど小さな活動からスタートすべく準備をしている人、未来に向けてとりあえず引き続き妄想を膨らませ続けている人まで、多種多様です。
 たくさんの「本屋」の妄想が、少しずつ現実のものへと進んでいくプロセスを目の当たりにできるのが、この講座の一番の醍醐味だと思います。

これからの本屋講座 第一〇期 http://bukatsu-do.jp/?eventschool=honya-10th

 いまのところ横浜でやっていて、一~一〇期までの受講生がいるが、必ずしも東京や横浜近郊に住む人ばかりではない。盛岡の雑居ビルで平日夜と週末だけ本屋をやりたいという人、名古屋在勤だが実家のある高松で本屋をやりたいという人、大阪で一軒家を借りて主夫として子育てをしながら本屋をやりたいという人、倉敷で自宅の一階に絵本専門店を開業したいという人、和歌山や沖縄で既に書店をやっているが、店をよりよくしたいという人などが、新幹線や飛行機や夜行バスに乗って来ている。

 また、告知文にも書かれている通り、必ずしもそのようなリアルな店舗を開業する人だけが対象ではない。それぞれの受講の動機を知るために、その講座の第一回で、最初に以下のようなアンケートに答えてもらうようにしている。よろしければ本書を読む動機として、読者のみなさんにも考えてみてほしい。

A どうしてあなたはこんなところに?
1.何らかの「本屋」を、すでにやっていて、それをよりよいものにしたいから
2. 何らかの「本屋」を、これから(    ヶ月/年)後に、具体的にはじめる予定があるから
3. 何らかの「本屋」を、これから(    ヶ月/年)後くらいに、はじめられたらいいと思うから
4. 何らかの「本屋」を、まだいつになるかはわからないけど、いつかはじめられたらいいと思うから
5. 何らかの「本屋」を、はじめるつもりもないけれど、人の話を聞いたり、妄想したりしたいと思うから

B あなたの生活における、Aで答えた「本屋」の位置づけは?
1. その「本屋」は、独立した本業(生計を立てるだけの収益が必要)
2. その「本屋」は、最初は個人的な副業(少々の収益もひとつの目的である)で、いずれは独立した本業
3. その「本屋」は、あくまで個人的な副業(少々の収益もひとつの目的である)で、本業とは別
4. その「本屋」は、あくまで個人的なライフワーク(収益を目的としない)で、本業とは別
5. その「本屋」は、本業として所属する組織の、直接的に収益を上げる事業(収益事業)のひとつ
6. その「本屋」は、本業として所属する組織の、直接的に収益を上げない事業(宣伝・広報、ブランディング、CSR、R&D、教育、社内コミュニケーション、福利厚生など)のひとつ

 Aで確認しているのは、具体性だ。さきほど挙げたような遠方から通う人たちは、受講料よりもはるかに高い交通宿泊費を払ってでも来るぶん具体性が高く、1や2を選ぶ人が多い。一方、近郊の受講生は必ずしもいますぐ店を始めたい人ばかりではなく、もちろん1や2を選ぶ人もいるが、3や4や5を選ぶ人も多い。

 Bに進むと、「本業」や「副業」、「ライフワーク」といったことばが出てくる。申込時に告知文をじっくりと読んでいない場合はとくに、言われて初めて「そういう考え方もあるのか」と気づくこともあるだろうと考えて、イメージを膨らませてもらうためにこの項目を入れている。

※『これからの本屋読本』(NHK出版)P90-94より転載


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