ハーバード大の卒業生・寄付金ドナーの子女優遇入学制度が訴えられる...BBC, CNN,ABC,NBC,NYTimes,WSJ etc.

2024年10月8日 14:31

表紙写真Harvard生４７％は卒業生や寄付金提供者などで入学した白人と訴えるプラカード（ Legacy admissions: Harvard accused of favouring mostly BBC News Sam Cabralより。

Harvard の7兆円の寄付金とlegacy admissions

拙稿「巨額寄付金ランキング、Harvard７兆円！Yale6兆円！揺らぐ学の独立、言論の自由」にて Best Universities in the World - US Newsなどのランキングで上位５位を占めるエリート大学が、日本の東京都予算に近い巨額寄付金を集めていると述べました。拙稿「Post-Pandemicアメリカ大学事情「光」「真実」などモットー再起動なるか,使命を終えるかの瀬戸際（前編）(中編）（後編）」で述べた、「世の光」を照らすべく真理、自由、平等を追求し学の独立をモットとするエリート大学の理念がこれにより今や風前の灯火と言ってよいでしょう。巨額寄付金の中に、拙稿「米エリート大学の卒業生や多額寄付者の子女優遇入学制度 (Legacy Admissions)全面禁止の動き...ABC Newsほか」で触れたlegacy admissionsが絡んでいることは明白であるからです。かくして正々堂々と実力で入学を勝ち取った学生から糾弾する声が上がっています。

連邦最高裁2023年積極的差別是正措置（affirmative action)による入学制度を禁止

Harvardをはじめこれらの大学はdiversityを掲げ学生の多様性を促進するという名目で、積極的差別是正措置による入学許可制度（affirmative action in college admissions）を採用し、アフリカ系アメリカ人、ヒスパニック系アメリカ人、アジア系アメリカ人などを積極的に受け入れてきました。

ところが、この制度が軌道に乗り始めた2023年6月、突如、連邦最高裁判所がこの制度をアメリカ合衆国憲法に反する違憲であると禁止したのです。人種的背景に依拠しており憲法で謳う平等と公正に相反するというのがその理由です。周知のとおり現在連邦最高裁判所は共和党系保守派の判事で大方占められていることからこうした決定がなされたのです。Biden大統領をはじめ民主党政権は一斉に反対しましたが司法判断は覆されません。

HarvardやUniversity of North Calorina は、人種による格差が是正されておらず、学生の人種的diversityが後退することを懸念し、最高裁の決定に従わずにこの制度を継続しようとしました。しかし、Supreme Court Rejects Affirmative Action at Harvard and UNC (The New York Times)が伝えるように、最高裁の警告を受けてしまったのです。

Legacy Admissionsで寄付提供者（主として白人）の子女を優遇入学制度の続行,Diversityに逆らう制度

ところが、Harvardは、その一方でlegacy admissionsで卒業生と寄付金提供者の子女を優遇する入学制度を取り続けていたのです。しかもその制度で入学した学生の大部分が白人家庭の子女です。すなわち、2023年6月以前、学生のdiversity(多様性）を促進するという名目で積極的格差是正制度(afffirmative action)による入学を実施ておきながら、相対立する"university"（単一性）を促進するlegacy admissionsを同時進行で実施していたことになります。

穿った見方をすると、legacy admissionsで集金し、その一部を格差是正制度で入学した学生の奨学金に当てることにより、積極的格差是正制度による入学制度の効力期間の暫定的措置とし帳尻を合わせようとしたのではないかと勘繰りたくなります。更に穿った見方をすると、上記2023年の最高裁の格差是正制度による禁止令に従うのを渋った理由は、その禁止令に従って止めてしまうとブーメランのようにlegacy admissionsに跳ね返ってくるのではないかと恐れたからでは？と思いたくなります。すなわち巨額寄付金の一部（とは言え1～２兆円？）を確保する上で、legacy admissionsは無くてはならない資金源であると思われます。

主要報道メディアによると、案の定、最高裁の格差是正制度による入学禁止令に反対する３つのマイノリティー支持グループ(minority advocacy groups)が、最高裁の人種問題の基づく入学制度に強固に反対し訴訟を起こしています。これは無視できません。以下、Legacy admissions: Harvard accused of favouring mostly ...（BBC)の報道をまとめます。

＊訴状は、シンクタンク（think tank)国立経済リサーチ（National Bureau of Economic Research/NBER)の調査を引用し、卒業生と寄付金提供者子女への優遇入学制度合格者のなんと70％は白人で、正規入学者と比較すると6倍から7倍の確率で合格。白人合格者の内訳は、45%以上がlegacy admissionsなどなんらかのコネによる。

＊こうした優遇制度は志願者の資格と功績に何ら関係せず組織的に有色人種に不利益をもたらすもので、New Englandのアフリカ系アメリカ人とラテン系アメリカ人社会に代わり、連邦教育局はHarvardのlegacy admissionsによる依怙贔屓を調査し、違法と認定し直ちに止めさせること、さもなければ連邦政府基金を切るべきと訴えている。

＊各界からの反応：

「最高裁判が言及する人種的差別を排除とは全てのケースにおける人種差別を排除することである。よって、前世代からの利権、家名、銀行預金は大学入学判定の尺度にすべきではない。」市民権擁護弁護士協会（Lawyers for Civil Rights）会長のIvan Espinoza-Madrigal 氏

「最近最高裁が禁止した積極的格差是正措置は白人には legacy admissionsという呼び名で残っていることがはっきりした。」カリフォルニア選出民主党下院議員Barbara Lee氏　

Harvard この訴えに具体的な反応をせず、Harvardは様々なバックグラウンド、見解(perspectives)、人生体験(lived experiences)を持つ学生の入学を歓迎し続けるとの声明を出している。

＊Legacy admissionsはカリフォルニア大学やコロラド州全公立大学が廃止している。米国トップ大学の幾つかでは、今年度新入生の４分の１がlagacy admissionsで入学している。この入学制度の賛同者曰く「この入学制度が強力な卒業生会と寄付金の礎となっている。」

（Legacy admissions: Harvard accused of favouring mostly ...BBC　　　　　　
　筆者編訳）

最高学府大学の礎はacademic honesty

これらの記事および関連記事から、legacy admissionsは、各界著名人を輩出してきた全米トップエリート校に、legacy、すなわち、まさに遺産として根付いてしまっている様子が分かります。日本の政治の世界での世襲制は最近内外共に批判の対象になっています。アメリカでは一番あってはならない学問の最高学府において、lagacy admissions制度の下一種の世襲制いるこのような規模でそれも制度として存在している実態を見てショックです。

筆者は1968年から1978年までアメリカに留学していましたが、そこで会ったアメリカ人の友人の中にこれに該当する人は居ませんでした。出自、出身校関係なく互いにフェアに競い合いました。

帰国後日本の大学で教えながら、アメリカの大学がいかにフェアであったかを話してはアメリカ留学を勧めました。それに応えて何人もの学生が留学しました。全員勉学に励み、TOEFL, GRE, GMATのスコア、成績証明書、志望事由書（statement)を添えた願書を各大学の入学係窓口に提出しました。提出書類には情報に偽りがなく真実であることを誓わせるために著名していました。筆者も推薦事由に偽りがないことを誓って著名しました。こうして数多くの大学に応募しても合格するのは至難の業、その一方で、legacy admissionsを通し大甘な(leniant)な入学許可を結構な数で乱発していたのかと思うと怒りがこみ上げます。これら大学はこの不正な遺産を根絶すべきです。モットーに「光」と「真実」を掲げていますが、それらが消えたらその時点で使命を終えるでしょう。