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今こそ!名曲「この素晴らしき世界」"What a Wonderful World"のメッセージ (その3) "I hear babies cry. I watch them grow. They'll learn much more than I'll ever know."



「この素晴らしき世界」"What a Wonderful World "今こそ伝えたいルイ・アームストロングのメッセージ (その2)の続きです。

曲リリース1967年から約20年後にリリースされた「グッドモーニング・アメリカ」のBGMに使用されたことにヒント

Louis Armstrong -What a Wonderful World (Good Morning Vietnam Soundtrack)にそのヒントがあります。Vietnam戦争下の緑の大地と人々が破壊されて行く様は、バックに流れるこの曲の歌う世界と真逆のものです。この映画はそうした状況へのアンチテーゼとして痛烈な批判をしています。Stanza 1とStanza 2で描かれた緑と色とりどりの花に覆われた美しい大地は、人々がStanza 3で描かれた行動をする場であることを訴えている、と解釈しました。

歌詞全体に“I see”と“I hear”という無意志の知覚動詞(involuntary verbs of inert perception)が、その意味は?

単純現在形(the simple present tense)の一つの用法である無限的用法(unrestrictive use)と相まって、見ること聞くことが永遠に続くことを示唆していると述べました。関連して、当然、“see”と“hear”の目的語、即ち、何を見たり聞いたりするかも重要です。“trees of green”, “red roses”, “them bloom” “the bright blessed day” “the dark sacred night” “the colors of the rainbow…also on the faces of people going by”は、それぞれ、“trees are green” “roses are red” “they bloom” “the day is blessed” “the night is sacred” “the colors of the rainbow are also on the faces of people”という文で言い換えられます。周知の様に、be動詞の“is”と“are”は状態を表すstate verbで、その状態が永遠に続くことを示唆します。また、“bloom”はStanza 4の“grow”と同じく、過程を示す動詞(process verb)です。これら状態および過程を表す動詞は無意志の動詞で、単純現在形the simple present tenseを取ると、そのunrestrictive useが顕著となり、それぞれの動詞が指示する状態や過程が永遠に続くことを示唆します。それらが、同じ効果を持つ“I see”と“I hear”の目的語となることにより、文全体の永遠の持続性が相乗効果的に強調されるのです。

"I see" と"I hear"の目的語+動作動詞進行形がかもす儚さ、脆さ

とは言え、同じ“see”、“hear”の目的語でも、“friends shaking hands saying how do you do”では違います。この部分は“friends are shaking hands saying how do you do”という文に言い換えることができます。“Shake”は行為や出来事を表す動詞(event verb)(*18)です。この種の動詞がthe simple present tenseで使われると、通常、その行為が短期で収束すること(instantaneous use)を意味します。有意志なので、命令形にも進行形にも使用できます。これらevent verbs進行形は「その行為がいつかは止まる」ことが想定されています。“I’m swimming”では、現時点では泳いでいてもいつかは止まることが想定されています。“They’re shaking hands”にはいつか止めてしまうかもしれないという危うさが想定されています。“They’re really saying I love you.”ではその対比が更に厳しくなります。“I love you”のloveは心理的状態を表すstate verbですから永遠に続く筈ですが、“They’re really saying…”の目的語であり、いつかは言うのを止めてしまうかもしれないという危うさに委ねられていることが分かります。

希望を感じさせながらもどこか憂いを感じさせる世界の脆さ故か

サビ(hook)には、そんな杞憂があっても、過去の歴史では考えられなかった“They’re really saying I love you.”という状況に代わりつつあり、だから“I think to myself what a wonderful world.”と結んでいるのでは?筆者はそんな思いを込めてこの曲を歌うことにしています。別稿「今でも新鮮プロコル・ハルムの青い影A Whiter Shade of Pale」で、その解釈をめぐり述べたとおり、歌も含め言説の解釈は解釈する側がその時々の状況に基づいて新しい世界を作り出すことです。勿論、作者の真意を探ることは大切ですが、これに正しい解釈というものがあるかどうかは疑問です。この曲においても、基本的なものは抑えながらも様々な人達によって様々な歌い方で受け継がれてきました。

Satchmoは、この曲がリリースされた1967年から亡くなるまでの1971年まで、南部州中心にアメリカ各地を訪れました。1876年に施行され1964年まで効力を持ち続けたジム・クロウ法(*19)による人種差別、そして、Vietnam戦争の惨状を頭に描きながら、平和を願いつつ歌ったものと思います。(*20)1987年にリリースされたVietnam戦争を痛烈に批判したコメディー映画“Good Morning Vietnam”で、Satchmoが歌うこの曲をバックで流したのはその為でしょう。原作者Mitch Markowitzと監督Barry Levinsonは、恐らく青春時代にVietnam戦争を経験し、Vietnam戦争の愚かさをこの曲が描く世界と対比させて皮肉ったものと思います。

この映画がリリースされた1980年代もまた激動の時代でした。1978年に勃発したアフガニスタン紛争(1978-1989)で米ソの対立は激しくなり、1980年のモスクワ・オリンピックのボイコットに発展し、1986年にはチェルノブイリ原発事故、そして、現在の(The)Coronavirus Pandemicのように、HIVとAIDSの猛威が世界を震撼させました。アフリカの各地で内紛が勃発し、その結果飢饉に見舞われました。1960年代の世界的不和は場所を変えただけのことです。この映画はVietnam戦争を題材にしていますが、実際にはこの時代の状況をVietnam戦争に擬えており、この曲は1980年代にも平和を訴える曲として鳴り響きました。各国でTVコマーシャルに使用され始めたのもこの頃で、日本では1983年Honda Wonder Civicのコマーシャルで流されました。グローバル企業は、国際協調、世界平和、人権を尊重する企業であることを訴える必要があり、そのメッセージを伝えるためにこの曲はとても効果的であったと思われます。

そして1990年代から現代に至るまでも、数多くの映画やテレビ番組で使用されています。

特に、西暦2000年以降、以下のサイトが示す通り、多くの歌手に歌われています。

“Rod Stewart —What a Wonderful World” (2004)

What a Wonderful World—Sarah Brightman

Katie Melua and Eva Cassidy—What a Wonderful World (2007)

What a Wonderful World—Susan Boyle—Lyrics

それぞれの歌手が、それぞれの思いを込めてこの曲を歌っていますが、そのコア(core)、核心にある心象はSatchmoのそれと同じです。

Satchmoには子供は居ませんでしたが大の子供好きでした。ハーレムの自宅玄関先で近所の子供たちにトランペットの吹き方を教えていたようです。現在その家はLouis Armstrong House Museumになっており、そこを訪れたニューヨーク在住の筆者の友人Janet Martin & Scott Flag夫妻が筆者に送ってきたポストカードには次のように書かれています。

“Louis never had children but always made time to hang with the neighborhood kids on his front stoop.” ©Louis Armstrong Museum(ルイには子供が有りりませんでしたがハーレム自宅の石段に座り近所の子供たちといることを楽しみにしていました)

Louis Armstrong Museum購入ポストカードの表面と裏面の写真


曲のStanza 4に描かれている子供たちは大人が想像以上に物事を学び体験

そんなSatchmoが今生存していたら喜びそうな光景が次のサイトにあります。世界中の子供たちが一緒になってこの曲を歌っています。子供たちの世界には壁はありません。

この素晴らしき世界―Playing for Change

そして、現在2020年、世界は未曾有の病魔に襲われ、今や、それをどう収束するか、色々な利害が交差する中、全人が結衆して知恵を絞らなければなりません。まさにglobal collaborationが不可欠です。世界の各地の民衆の間ではそんな動きが芽生えているようです。(*21)そんな時この曲が自ずとあちこちから鳴り響いてくるのです。オーストラリアのミュージシャン達の声です。1985年の“U.S.A. For Africa – We Are the World”と同じスピリットです。(*22)

“Aussie Pop Orchestra Phoned it In- What a Wonderful World”(2020)COVID-19

読者の皆さんもこの曲の歌詞を振り返りながら、YouTubeにあるカラオケに合わせて歌ってみましょう。

What a Wonderful World Karaoke


Louis Armstrongは夫人とともに数度日本を訪れてコンサートを行い、日本をとても愛したようです。そんな日本訪問の際、筆者の知り合いのプロの写真家小塩寿夫氏が撮った貴重な写真があります。この騒ぎが収まったら是非、Louis Armstrong House Museumを訪ねてみようと思っています。(*23) (2020年5月1日記)

1963年厚生年金ホール小塩寿夫氏撮影

そしてウクライナ、ガザの子供たちに平和が来ますよう祈ります。(2024年5月5日子供の日付記)


(*18)Leechの用語を使いましたが、process verbsとaction verbsを総称してevent verbsとすると有意志動詞“shake”はaction verbに当たります。呼称は分析者によって異なります。別稿でCharles Fillmoreと筆者の恩師Walter CookのCase Grammar(各文法)を取り上げる際に詳しく説明します。
(*19)Jim Crow lawsアフリカ系アメリカ人のみならずNative Americans、褐色人種、黄色人種も差別の対象としました。1962年Alabama知事になったGeorge C. Wallace(1919-1998)は、Jim Crow lawsを肯定した人種隔離政策を堂々と掲げ、民主党の大統領候補選にも参入していました。
(*20)Satchmoは、政治的発言が少ない穏健派でしたが、人種隔離政策に関するアイゼンハワー大統領の姿勢に対しては“two-faced”(どっち付かず)と厳しく批判して注目されました。
(*21)コロナウイルスは状況により変容し、その感染予防と治療薬開発には世界中のデータと知見が必要です。世界の全地域の医療専門家によるcollaborationが無ければ制することができません。自国だけの問題では無いことは明らかです。ウイルスの感染は国境を超えて(beyond nation and state)瞬時に広がるからです。古代オリンピックが一旦戦争をやめて集った平和の祭典であったように、個々の利害を一旦脇に置き一致団結してコロナウイルスに立ち向かい平穏な生活を取り戻すべきです。
(*22)1980年代半に出版された“What’s New 1?”(東京書籍)と称する高等学校英語検定教科書のLesson 12“We Are the World”は筆者が担当・執筆したもので、この曲を紹介しました。Harry Belafonteの要請で集まったアメリカの著名なmusiciansがアフリカ飢饉を救うために募金運動しました。
(*23)Jazz Ambassadorとして来日し、1953年横浜ホテル・ニューグランド、1963年新宿厚生年金ホール、1967年新宿厚生年金ホールで演奏しています。小塩氏の写真は1963年新宿年金ホールでの演奏中に撮影したものと思われます。


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