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《第一巻》侍従と女官 11 ふじはらの物語り   原本

そもそも、内大臣は、藤原北家の同族として、閑院左大臣家と親しく交際していた。

閑院左大臣が、近親に対してさえ猜疑心を隠さないことがあるに比べて、内大臣を常に厚遇するかのごときであったのには、大きく二つの具体的な理由があった。

一つは、内大臣とその一派が貿易に食指を動かさないこと、そして、もう一つは、内大臣に“不幸にも”娘がいなかったことである。

閑院左大臣としては、内大臣の一派との親密ぶりをすぐの身内や宮廷内に誇ることで、足元からの離反に対して、因果を含める意味をも目指していた訳である。

そのような都合の良い一群の中から、降って湧いたように、一女子の入内話しが上がって来た。

“聞けば、実の父は、一時(いっとき)陸奥に左遷されたような「お人好し」で、今は神祇官になど勤めているという。

とっても後ろ見など出来まい。

大納言(当時)にしても、所詮は形だけの養い親でしかない。

ここはいっそ、藤原北家としての後宮における手駒の一つということで、これを後押しするのも悪くはない。”

そう、この入内話しについて、閑院左大臣は考え、特に横車を押すようなことはしないでいた。

そうこうする内に、大納言の娘は、更衣として、後宮の一隅に入ることになった。

そして、彼女が、お上と初めて晴れてのご引見に与(あずか)るとなった時、どこでお聞き及びになったものか、更衣が真名仮名の道に優れ、知性と品性において極めて人並みにあらざるということを、ご自分の目でお確かめになろうと躍起におなり遊ばすお上であった。

一目彼女をご覧になり、まず、その可憐な美しさに心を奪われたかと見る間に、ご聡明にして、ご炯眼でいられるお上は、彼女の内に、決してほかの女性(にょしょう)にはない芯をお認めになったのである。

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