小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 34 原本
陸奥介と奥方は、ある時刀自に「ご夫君のお墓はいずこにあるのか」と訊ねた。
すると、彼女は一瞬、“どうしてこの夫婦はそのようなことを自分に聞くのだろう”と思ったものの、すぐにその場所について語り始めた。
何でも、国府の役宅群から山の方へ少し行って、その辺りでは珍しい竹林の手前にあるとのことであった。
ある日のこと、陸奥介、そして、奥方と二人の子供達、それに刀自の親子、また、何名かの家人達が国府の役宅群を過ぎて、山道に入って行った。
山道と言うには、だいぶ開けていた。
長閑(のどか)な日差しが一行の者どもの髪、肌、衣紋(えもん)、そして、野辺の草々に降り注いでは、至るところで新たに煌めいていた。
それはそれは、人に幸福感を誘わずにはおかない空模様であった。
奥方は、刀自ともう一人の召し使いに大事に見守られながら、一歩一歩歩を進めていた。
とは言え、奥方は経験上“まだ全然大丈夫だ”と自覚していたものである。
子供達はとかく先を急いでいた。
それでも、虫だ花だ何だと騒いでは、まさに道草を食って、決して先に進み過ぎることはなかった。
刀自の娘はと言えば、あの木曽の出の家人のひょろ長い背丈の上で肩車をされながら、子供達がワァワァ騒いでいるのを見ながら、常ににこにこしていたり、彼らが何か手の上に載せて彼女のところまで持ち寄って来たのを、神妙な面持ちで凝視したりして、全く退屈しない時を過ごしていた。
そして、自分も地べたを踏みしめたい欲求を肩車されている者にせがむが、それでは、かえって足手まといになりかねず、何度も言うことを聞かれないままでいた。
が、最後には、肩車ではなく、おんぶの格好に移されたかと見るまに、木曽の家人は鬼ごっこの鬼よろしく、子供達を急に追い回す素振りを見せては、子供達は前にもましてキャアキャアと騒ぎまくるその様子を眺めることに、大変満足げな彼女なのであった。
陸奥介はと言えば、前方の子供達があまり先に行き過ぎぬようたしなめたり、後ろを絶えず気にかけたりと、首を始終振っていた。
経世済民。😑