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小説 ふじはらの物語り Ⅱ 《陸奥》 5 原本

当初は、陸奥介のまだ四歳でしかない姫君が、この長い長い旅路に耐え得るかが、最大の懸案であった。

けれども、車が使えるところは、奥方ともども姫はその中に居って、自らの足を使うことはなかった訳であるし、皆が徒でなければならない時は、従者の誰かにおぶわれて、ひたすら目新しい光景に目をパチクリさせて飽かなかったものである。

時として、兄上の背中におぶわれるなどということもあったが、それはご愛敬というところである。

結局のところ、この旅路で、姫のことは何ら障害を孕(はら)まなかった訳である。

休息の時など、大人達が無駄に動き回ることを控える中にあって、子供達は、思いのままに遊び回ることしばしばであったものである。



この旅路では概(おおむ)ね国府を通過したので、その折りには、当地の官人らと親しく交流することもままあった。

そして、その際の話題は、何と言っても最新の京の様子、「種々(くさぐさ)」であった。

中には、陸奥介ら一行の殊(こと)の外の少人数ぶりを見かねて、隣国に到るまでの道中、家人、または官人を同行させてくれるような国司もいた。

時に、それで、陸奥介らは、自ら一行の頭数の少なさに気付いたのであった。

また、国府に寄る毎に、先々の道の様子を詳しく知ることのいかに大事であるかを、重ね重ね悟り行くのであった。


そして、一行の者達に朧ろげに、陸奥はまだまだ遥か先にあることが分かられていったのであった。

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経世済民。😑