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《第一巻》侍従と女官 24 ふじはらの物語り   原本

皇太后様は後日、藤原大納言某の娘を皇太后宮にお招きになった。

入室して来た彼女、並びにその女房達について、皇太后様は、はなから決して悪い印象をお持ちにはならなかった。

これは、弘徽殿女御の場合に比して、特にそう感じられるのであった。

弘徽殿女御本人の人となりが誰から見ても劣悪であるとは言え、縁者の好(よしみ)を別にして、皇太后様は、彼女に対して一定の親近感を持ってもいらした。

それは不思議なことではあるが。

一方で、皇太后様は、弘徽殿女御の女房達については、言い知れぬ嫌悪感を拭い切れないでもいらしたのであった。

それは、誰のどこがと簡単に断じ得ないものであって、全体的にそう思われるのであったのである。

そして、皇太后様は、結局その原因がその一団の主である弘徽殿女御に求められるとお考えになっては、憂悶に暮れられるのであった。

片や、大納言家の娘の人となりをまるで誰かが知らないとしても、その者は、彼女の取り巻きを目にすることで、主の善良ぶりが手に取るがごとく推察でき得るあろうというものである。

彼女達の育ち、身分、性質、教養の有り無し、年齢は、実にバラバラであるに関わらず、そこに通底しているのは風通しの良さであり、そのゆえか、皆が溌剌としている。

そして、彼女達の実体をよく物語るのは、彼女らが身に纏っている衣装の総体的な印象である。

彼女ら一人一人は、決して自らの個性を殺すことなく、それでいて、どう主を盛り立てるかにつきおさおさ忘れることがないのである。

そして、彼女達は今、主の若々しさ、それを伴う華やかさ、また、彼女の精神的な気高さと慈愛の心をどう表出させるかにつき、以心伝心の状態で、それぞれが欠くに欠けないこの演出の担い手となっているのであった。

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