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比較は恥だが役に立つ(のか)

タイ古式マッサージのサロンでセラピストデビューしてから1ヵ月半。仕事内容そのものは楽しさもやりがいもあり、やっぱり性に合ってるな~イエイ☆と思えているのだけど、それ以外の部分で早くもメンタル骨折の気配を感じていて正直まあまあ焦っている。

原因は、毎度おなじみ他者比較である。

お店では、ウェブの予約ページを見れば誰にどれだけ指名が入り、好意的な口コミを獲得しているのかがひと目でわかる。長年この業界にいるベテランさんは「さすがっす!」のひと言だが、中にはほぼ同じ時期にデビューしたのに早々にリピート指名やお褒めの口コミを獲得している方もいる。

ああ、○○さんは今日も指名をもらっている。わたしまだ1件もリピートもらえてないのに、今日も今日とて指名も口コミもこないのに、すごい、てか、え、これ思った以上にキッツいな……!

という具合で、施術やお客さんとのやり取り、合間でのセラピスト同士のおしゃべりなど日々楽しいことの方が多いはずなのに、いつも退勤するころには胸がムズムズするような焦燥感に見舞われてしまう。たった1ヵ月でこのザマ。早い。早いよパトラッシュ。
 

比較と焦燥感といえば、思い出すのはフリーライターデビュー初期。あの頃はオウンドメディア全盛期のライター戦国時代。近い時期にデビューした同世代のライターも多く、誰がどこでどんな記事を書いてどれほどバズった云々がSNSで惜しげもなく流れてきたものだ。

仕事が増えようと、原稿料が上がろうと、当時の私はいつも焦燥感でいっぱいだった。なんせ東京には、私よりもうんと活躍し、うんと稼いでいる同世代のライターがたくさんいる。ひとたびSNSを開けば、彼ら彼女らの輝かしい実績がタイムラインを埋め尽くした。

有名なメディアでの執筆、イベント登壇、出版、バズった彼女はあの著名人からコメントをもらっている。私が「そこそこ」のライターをやっている間に、私以外の全ライターがスターダムをのし上がっているように見えた。
もっと実力をつけなきゃ。もっとビッグな仕事をしなきゃ。もっと評価されなきゃ。もっと売れなきゃ。もっと稼がなきゃ。もっとバズらなきゃ。もっと。もっと。もっと。もっと頑張らなきゃ。

そんな焦燥感をガソリンに走って走って走りまくった。フリーランスだろうが好きを仕事にしようが、不安と焦燥感をモチベーションに走り続ければ短時間で心が死ぬ。会社員時代に学んだはずなのに、私はまた同じ失敗を繰り返す。ある日突然ガス欠して、糸が切れたようにベッドから起き上がれなくなった。

『あなたのキャリアはどこから? わたしはクビから』より

  

メンタルがぶっ潰れて仕事ができなくなったあの時、復活のきっかけになったのは沖縄移住だった。

大都会東京と物理的に距離ができ、沖縄でのんびり、かつ精力的に新しい人間関係と仕事を築いていくうちに自分なりの武器が増え、記事も反響を得られるようになって結果的に仕事も増え、あとは同年代や活躍しているライターおよび業界人のSNSアカウントをすべてミュートしたことで、ようやく比較から逃れて心の安寧を得られた。

 
ちなみに、新卒からこれまで会社員として5社に勤めたが、仕事の失敗に落ちこむことはあれど比較に苦しむことはなかったと思う。同期もいなければ同じ業務ポジションの人もいないことが多く、お得意の比較を発動させずに済んだのだ。

就活のときは大手の人材会社をたくさん受けたけど、同期の多いあの世界で横並びのいっせーのーせで営業競争でも始まった日には、たった1週間でメンタル壊死していた気がする。新卒が社長と2人の会社でよかった。2ヵ月でクビになったけど。
 
  
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今はオフラインのお店勤務なので、ミュートで情報遮断ができないつらみがある。
 
幸い、お店のセラピストさんたちは揃いも揃って優しくて穏やかで喋りやすい、ので、特に先輩方には遠慮なく「デビュー早々めちゃめちゃ他の人と比べてしまってアホほどしんどいんですけど!!!!!」と堂々たる泣き言を聞いてもらっている。

すると、大体の方が励まし、そして「いやめちゃくちゃ分かりますよその気持ち!!!!!」と共感を示してくださる。このセラピスト同士の比較による苦しみは、全員が全員ではなくとも、まああああ多くの人が通ってきた道だという。
 

「ものすごく分かる、分かるけど、この間(超大先輩の)〇〇さんとも話してたんですけど、ほんっっっっっっっっっっっっっとうに、この世界で、誰かと比較するのって、まったく意味がないんですよ。実力はもちろんだけど、相性やタイミングってものが確実にある。真崎さんに合うお客さんだって必ずいるんですよ。あと、苦しくても続けてるうちに『あ、これ比べても仕方ないな』って割り切れるときもきます。時間はかかるかもしれないけど、大丈夫なんですよ」
 

この言葉で比較が消えるわけではないけど、内心5リットルの涙を流すほどには大いに励まされた。

「そしたら、今の苦しみから逃れるために大谷のメンタルコントロール術学びますううううううう」と我ながら雑すぎる決意を告げ、先輩は「それめっちゃいいと思います!」と真剣に背中を押してくれる。職場環境に救われている。


「比較しなくていいとはよく言うけど、比較することは悪いことばかりじゃない。奮起するモチベーションになる」

みたいなことを、かつて勤めた会社の社長が語っていた記憶がある。それはなんとなくわかる。ライター初期も比較からの焦燥感をモチベに、我ながらよくよく頑張れた。結局潰れはしたものの、あの頃の自分が頑張ってくれたことで得た業績、スキル、繋がりといった財産があるのも間違いない。

その上で、やっぱり「比較は役に立つ」は、わたしにはちょっと脳筋すぎて性に合わない。

セラピストの先輩がくれた「比較にはまったく意味がない」という清々しいほどの比較全否定論のほうが、わたしの貧弱すぎる精神にはよくよくフィットするのだ。

 
ということで今からもう比較しません!
ドン!はい比較が終わりました!

なんて簡単にいかないことは、34年目のプロ比較ニストとしてよくよく分かっている。が、とりあえずは先輩の言葉を胸に刻み、朝と夜にそれぞれ100回復唱し、粛々と目の前のお客さんに向き合い、他の人の指名数などはできる限り見えないよう薄目を心がけながらスキル向上と解脱を目指していきたい。
 


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34歳の波乱万丈お仕事エッセイ
『あなたのキャリアはどこから? わたしはクビから』

フリーライターデビューから比較によるメンタル壊死で沖縄逃亡するまでの経緯などを赤裸々につづっています。

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読んでくださってありがとうございます◎