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シンガポール:ベーシックレポート

観光ならお勧めだが、移住となるとそうでもない

明るい北朝鮮」の異名を持つ都市国家

 シンガポールは、非常にイメージが良い国だと感じる。私も以前は、ポジティブなイメージしか持っていなかった。しかしながら、実際に居住してみた経験や、複数の移住経験者とじっくりと話してみた結果をもとに考えてみると、海外生活の場としては、あまり積極的にお勧めしたくはないというのが本音である。一言でいえば、一種の息苦しさを感じる面があるからだ。シンガポール居住の在留邦人の間では、随分前から、「明るい北朝鮮」であるとの評判が広がっていた。私も同意する部分がある。
 一方で、国家としてのシンガポールには、非常に優れた点も多々ある。例えば、観光目的で短期間滞在することについては、非常に高いレベルの快適性が認められる。都市国家なので、観光名所が多数あるというわけではないが、数日から数週間程度の滞在であれば、十分楽しめる場所ではある。
 また、経済的繁栄については、世界的にも広く知られているところである。本稿においては、シンガポールの基礎的情報も含めて、その実態を概説したい。

基礎情報

 シンガポールは、都市国家であり、国土面積は720㎢となっている。これは、東京23区とほぼ同程度の広さである。人口は、2021年時点で約545万人となっているが、その内、シンガポール国籍を持つ者と、永住権を持つ者は、合計400万人程度とされている。それ以外は、1年以上の長期滞在をする外国人となっている。長期滞在の外国人には、富裕層や専門的スキルを持つ高度人材に加えて、肉体労働を含む、幅広い労働者が含まれている。
 公用語は、英語、中国語(北京語)、マレー語、タミル語の4言語になっている。国民と永住者に限ってみると、中国系が全体の4分の3程度を占めるが、次いでマレー系が13.5%、インド系が9.0%等といった構成になっている。
シンガポールの政治体制は、立憲共和制を採っている。1院制の議会では、1965年の独立以来、与党人民行動党が圧倒的多数を占めており、政治的安定性は高い。

経済データ

 シンガポールの名目GDP規模は、2021年時点で3,970億米ドルという規模であった。また、同年の一人当りの名目GDPは、72,795ドルとなっており、極めて高い水準にたっしている。
 コロナ禍は、シンガポール経済にも多大なる影響をもたらしてきた。2020年は、実質GDP成長率が、マイナス4.14%ということで、大幅なマイナス成長を記録している。ただし、立ち直りも早く、翌2021年には、実質7.61%成長と急回復を遂げている。この辺りの経済運営は、非常に高く評価されている。
 雇用の面も、優れた数値が見られる。失業率は、コロナ禍の最中の2020年でも3.0%であったし、2021年には、早くも2.6%程度まで回復している。ほぼ完全雇用に近い状況と言って良いだろう。
 シンガポールは、貿易依存度が、世界でも最も高い部類に入る。2021年の貿易依存度は、230.1%となっており、香港に次いで、世界第二位にランキングされている。要するに、世界の貿易の中継地点になっているため、国内総生産の2倍以上の輸出入が発生している。シンガポールの豊かさの、一つの背景であると考えられる。なお、2021年時点の外貨準備高は、名目GDP規模を上回る、4,161億ドルに達している。

厳しさを増すシンガポールのビジネス環境

 シンガポールは、ASEANのほぼ中央付近に位置する国であり、先進国企業のASEAN進出の際、本部機能を置くことが多くなっている。ただ、近年は、人件費の高騰や、オフィスコストの上昇、各種手続きの煩雑さなどから、シンガポールのビジネス環境に対する不満も多く聞かれるようになっている。
 税制面もシンガポールの魅力の一つだとされてきたが、その面での優位性は、近年やや衰えていると考えられる。ドバイのような、ほぼ無税に近い国へのシフトが進む背景でもある。実際、シンガポールでビジネスをした経験を踏まえて言えるのは、意外と規制が厳しく、政府の強権を常に意識せざるを得ない面があるということだ。窮屈な感じは、否めない部分があるのは確かで、自由がないと感じても不思議ではない。もちろん、シンガポール政府としては、必要な規制を課しているという認識であろうが、ビジネス環境としては、やや魅力が失われつつあると感じる。

金融センターとしての優位性

 金融センターとしての側面も、シンガポールにはある。従来、新しい取引やスキームを柔軟に受け入れる姿勢が評価されてきた。そして、金融取引のインフラ面での優位性も、確かに認められる。
 比較的自由な金融取引が可能で、人材や資金の集積もあり、金融センターとしての競争優位は認められる。
 近年は、香港が、中国本土からの規制強化で自由度を喪失したため、世界的な金融機関のアジア本部は、シンガポールに移転する事例が目立っている。そうした意味では、シンガポールは、東京のライバルであり、東京の金融センターとしての機能強化が急がれる所以でもある。

日本人の移住先としては疑問

 シンガポールは、アジアの富裕層の移住先として人気が高いとされている。日本の富裕層の一部も、シンガポールに移住をしたり、長期滞在をしていたりする例が散見されている。
 しかし、ここ近年は、新規移住者があまり多くないという話も聞かれるようになった。コロナ禍の影響も確かにあるかとは思うが、やはり、ドバイなどとの競合が影響しているのだろうと考えられる。ライバルは、ドバイだけではない。マレーシア等にも、日本人の富裕層が海外生活の拠点としている事例が目立つようになってきた。
 シンガポールは、安心、安全、清潔という点で、アジアの他の地域や都市に比べて、優位性があるのは確かである。ただ、コストの高さや、政府の力が強すぎる面等が嫌われている可能性を、私は感じる。
 金融純資産が数十億円を超えるような超富裕層にとっては、インフラが整って、ターゲットを絞った高度なサービスを受けることができる、シンガポールの魅力は、あるものと考えられるが、普通の日本人にとっては、あまりメリットがないようにも見える。
 生活面でも、都市国家であることから、社会インフラの充実度は高いが、国土が狭く、ちょっとした気分転換に旅行するとなると、他国のリゾート地に出かけるか、日本に一時帰国して温泉などの観光地に出かけるのが現実的な対処方法である。
 シンガポール自体にも、いくつかの有名観光スポットが存在するが、やはり都市国家の限界があるため、数か月で飽きてしまうのも事実である。数日間から数週間程度の観光旅行先としての魅力は、結構あるものの、生活の場として居住するには、やや窮屈な感じは否めない。
 息抜きなど興味がないというなら別だが、気分転換も簡単にはできないような環境に身を置くのは、あまり積極的には勧められない。そうした環境が、息苦しさを感じる原因にもなっているように思える。
 シンガポールは、安心、安全、清潔を確保できるという意味で、ビジネスと観光の場と割り切るのが良いと、私は思っている

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