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ヨーロッパの政治経済

意外と知らないEU成立の経緯と巨大な影響力

EUとユーロ圏とは?

 普段から何気なく使っているが、EU加盟国とユーロ圏は、必ずしも同一の概念ではない。EUに加盟すると、ユーロを通貨とするための一番大きなハードルを越えたことにはなるが、即時ユーロの使用ができるわけではない。一定の条件を満たして、加盟国の承認を経ることで、ユーロ導入が可能となる仕組みになっている。
 現在、EU加盟国は、27か国を数えるが、その内、ユーロを導入済みの国は、20か国にとどまっている。リストのように、EU加盟国のうち、7か国は、ユーロではなく、独自の通貨を使用している。最終的には、ユーロ圏に入ることになると見られるが、それなりの期間を経てということにはなりそうだ。

EU形成やユーロ導入の背景と過程

 ヨーロッパの歴史は、非常に長く複雑で、日本人にも詳しい人はいるものの、多数派とは言い難いだろう。そこで、本稿では、EUやユーロの形成過程につながる部分に焦点を当てて、概略を簡単にまとめておきたい。
 現代の世界の標準やルールは、ヨーロッパが決めてきた面がある。ヨーロッパの17、18世紀に決められたり、作られたりした組織形態や規則などが、今の世界標準につながっているケースは多い。
 18世紀後半から19世紀にかけて、産業革命が起こり、蒸気機関や機械化などの技術革新が進み、工業化が進展した。これにより、貿易や商業が発展し、国家間の競争も激化した。この時期には、フランス革命やナポレオン戦争など、多くの重要な政治的・社会的・軍事的事件が起こった。
 19世紀後半には、植民地主義が発展し、ヨーロッパ諸国は世界中に植民地を持つに至った。また、近代的な国家や政治制度の形成が進み、国家主義や民族主義が高まった。19世紀末までには、世界の陸地の40%以上、世界人口の30%以上を、その支配下に置いたとされている。
 20世紀に入ると、第一次世界大戦が勃発し、多くの国々が戦争に巻き込まれた。第一次世界大戦後、多くの国々が苦難の時期を過ごし、ドイツのワイマール共和国は深刻な不況や政治的混乱に見舞われた。その混乱の中で、ナチスが台頭していった。
 そして、第二次世界大戦が勃発し、ヨーロッパでも多くの犠牲者を出してしまった。第二次世界大戦後、ヨーロッパにおいては、多くの国々が新たに独立し、東西冷戦が進行した。米ソの主導権争いは、ヨーロッパのみならず、全世界的に広がった。アメリカは、ヨーロッパの復興にも協力し、自国側の勢力の拡大に努めた。日本も西側の一員として、その後の復興、高度成長を経験している。
 長く続いた冷戦構造は、1980年代後半には揺らぎを見せ始めた。1989年には、ベルリンの壁が崩壊し、東側諸国が雪崩を打つように、旧ソ連の影響下を脱して、民主化することになった。
 そして、1990年代に入り、東西ドイツの再統一、ヨーロッパ連合(EU)の設立など、多くの歴史的出来事が起こった。現在のヨーロッパは、文化などの多様性を保ちつつも、政治経済の面では、統合化が進み、国際社会において重要な役割を果たしている。イギリスがEUを脱退したのは、ヨーロッパの統合の後退ではあったものの、元々大陸諸国とは利害関係に異なる面があったとも解釈される。
 さらに、ロシアは、ヨーロッパ全体から見れば、辺境と位置付けられる。文化、経済の両面において、ヨーロッパの中心的な国々に比べて、遅れているという見方をされていた。ただ、政治や軍事面では、以前から大国であり、旧ソ連時代には、アメリカと世界を二分して覇権を争っていた。現在のロシアは、経済的には、大国とは言い難い規模だが、政治的な影響力は強く、軍事的にも大きなパワーを有している。実際、ウクライナに侵攻し、1年以上も戦争を遂行しているほどの軍事力や国力は維持している。

EU拡大の歴史

 ここで、現在のEUに至る経緯について、時系列でまとめておきたい。
1952年 フランス、ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクにより、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立される。
1957年 欧州経済共同体(EEC)と欧州原子力共同体(Euratom)が設立される。
1965年 EECが既存の条約を改定して、ECとなる。
1973年 デンマーク、アイルランド、イギリスが加盟。
1981年 ギリシャが加盟。
1986年 スペイン、ポルトガルが加盟。
1993年 マーストリヒト条約が締結され、ECが欧州連合(EU)に変更される。
1995年 オーストリア、フィンランド、スウェーデンが加盟。
2004年 エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランド、チェコ、スロバキア、ハンガリー、スロベニア、マルタ、キプロスが加盟。
2007年 ブルガリア、ルーマニアが加盟。
2009年 リスボン条約が締結され、EUの枠組みが再定義される。
2013年 クロアチアが加盟。
2020年 EUが27か国からなる連合体として機能している。
脱退:
1985年 グリーンランド(デンマーク領)がECから脱退。
2016年 イギリスがEUからの脱退を決定。
2020年1月31日 イギリスがEUから正式に脱退。
 こうしてみると、イギリス以外は、(前身の組織を含めて)EU加盟後、完全に脱退した国はない。グリーンランドは、自治領であり、デンマーク王国の一部である。デンマークは、一貫して加盟国にとどまっているが、グリーンランドは、現在でも1985年の(前身の)EC脱退後、EUには加盟していない。ただし、EUとの間に、漁業に関する協定や、経済協力に関する協定を締結してはいる。

世界のルールを勝手に作っているという批判

 「ヨーロッパが世界のルールを勝手に決めている」という批判は、主にEUが持つ大きな経済力や政治的影響力を背景に、EUが他国や地域に対して自己の利益を優先することを指摘するものである。
 EUは、世界最大の単一市場を有する巨大な経済圏であり、加盟国間での自由貿易や共通の法規制、外交政策の調整などを行っている。また、EUは環境問題や人権問題などについても強い立場を持ち、世界各国に影響力を行使している。
 一方で、EUの政策や決定が他国に与える影響が大きいことから、EUが独自に決定を下すことに対して批判が集まっている。例えば、EUが掲げる気候変動対策の目標が高く、それに従った規制や制限を他国にも求めることで、他国の経済活動や産業に影響を与える可能性があるためである。
 また、EUが独自に制定したGDPR(一般データ保護規則)や、地球温暖化防止のためのカーボンニュートラル(CO2排出量ゼロ)目標など、EUの規制や目標が世界的な標準となるという面が指摘されている。これにより、EUが他国に対して自己の価値観を押し付けることになるという懸念が生まれている。

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