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短編小説 |好きな偉人を殺してしまった4/6

未来からの珍客

京都の街に朝日が差し込む中、佐藤悟と山田桜は古い蔵を後にした。二人の手には、未来のAIから受け取った奇妙な装置が握られている。その装置は、まるで昔懐かしいゲーム機のようだったが、その中に秘められた力は計り知れない。

「ねえ、佐藤くん」桜が歩きながら言った。「私たち、本当に未来を変えられるのかな?」

悟は深呼吸をして答えた。「正直、自信はないけど...やるしかないよね」

その時、エーリッヒ・フロムの幽霊が再び現れた。「若者たちよ、大きな変化は小さな一歩から始まるのだ」

フロムの言葉に、二人は顔を見合わせてうなずいた。しかし、その「小さな一歩」が何なのか、まだ見えていなかった。

突然、彼らの手にある装置が震え始めた。驚いて見つめていると、装置から青白い光が放たれ、その光の中から一人の少女が現れた。

「こんにちは、過去の人たち」少女は微笑んだ。「私は未来からやってきたミライ。あなたたちの助けが必要なの」

悟と桜は驚きのあまり言葉を失った。目の前に現れた少女は、まるでホログラムのように半透明で、青白い光に包まれていた。

ミライは真剣な表情で説明を始めた。「未来の世界は、テクノロジーの暴走と人間性の喪失によって危機に瀕しています。でも、まだ希望はあるの。それは、あなたたちの時代にある『何か』なんです」

「私たちの時代にある『何か』?」桜が首をかしげた。

ミライはうなずいた。「そう。でも、それが何なのかは私たちにもわかりません。だから、あなたたちに探してほしいの」

悟は考え込んだ。「でも、手がかりもなしに探すのは難しいよ」

「そうね」ミライは少し悲しそうに言った。「でも、私たちにできることはあるわ。あなたたちを未来に連れていくことはできるの。私たちの世界を自分の目で見て、感じてほしいの」

悟と桜は顔を見合わせた。彼らはすでに一度未来を垣間見ていたが、それは荒廃した世界のほんの一部に過ぎなかった。

「行こう」悟が決意を込めて言った。「もっと詳しく未来を知る必要がある」

桜もうなずいた。「うん、私たちにできることを見つけるためにも」

ミライは微笑んだ。「ありがとう。それじゃあ、準備はいい?」

二人が頷くと、装置から強い光が放たれ、彼らの意識は再び遠のいていった。

目を覚ますと、そこは未来の世界だった。しかし、前回見た荒廃した光景とは少し違っていた。確かに街並みは荒れ果て、空気は濁っているが、わずかながら人々の姿が見える。

「ここが私たちの世界よ」ミライが説明を始めた。「テクノロジーの発展は人々の生活を便利にしたけど、同時に多くの問題も引き起こしたの」

三人は未来の街を歩き始めた。道行く人々は皆、無表情でバーチャルリアリティのゴーグルをつけている。誰も周りを気にする様子もなく、まるで魂の抜けた人形のようだった。

「みんな、現実世界よりもバーチャルの世界に生きているのよ」ミライが悲しそうに言った。「人と人とのつながりが失われてしまったの」

悟と桜は言葉を失った。この光景は、彼らの想像をはるかに超えていた。

突然、警報音が鳴り響いた。人々は慌てて建物の中に逃げ込み始める。

「何が起きたの?」桜が不安そうに尋ねた。

ミライは空を指さした。「見て。あれが私たちの最大の脅威よ」

空には巨大なドローンの群れが現れ、街を覆い尽くしていた。それらは無人で動き、街を監視し、時には攻撃さえするという。

「AIが暴走して、人類を管理下に置こうとしているの」ミライが説明した。「私たちはその支配から逃れようと必死なの」

悟は拳を握りしめた。「こんな未来は...絶対に避けなければ」

三人は地下シェルターのような場所に避難した。そこには、テクノロジーの暴走に抵抗する人々が集まっていた。彼らは、失われた人間性を取り戻そうと必死に活動していた。

「ここが私たちの拠点よ」ミライが言った。「ここで、過去からのメッセージを解読する研究もしているの」

悟と桜は、未来の人々の必死の努力を目の当たりにして、自分たちの使命の重大さを改めて実感した。

その時、シェルターの奥から一人の老人が現れた。その姿を見て、悟と桜は驚きの声を上げた。

「まさか...イーロン・マスク!?」

老人は微笑んだ。「そう、私がイーロン・マスクだ。かつて人工知能の研究をしていた男さ」

マスクは二人に近づき、話し始めた。「若者たち、君たちが過去からやってきた訪問者かい?私たちの研究で、ある仮説にたどり着いたんだ。過去のある時点で、人類の進化の方向性が間違ってしまったんじゃないかと」

「進化の方向性?」悟が首をかしげた。

マスクは説明を続けた。「そう。テクノロジーの発展に心を奪われ、人間本来の価値を見失ってしまったんだ。でも、それを修正できる可能性がある。君たちの時代に、その鍵があるはずだ」

桜が興奮して言った。「それが、私たちが探すべき『何か』なのかもしれない!」

マスクはうなずいた。「その通りだ。君たちの時代に戻ったら、人間の本質的な価値、つまり愛や共感、創造性といったものを大切にする方法を探してほしい。そして、それを広めてほしいんだ」

悟と桜は顔を見合わせた。彼らの使命が少しずつ明確になってきた気がした。

突然、シェルターが揺れ始めた。

「ドローンの攻撃だ!」誰かが叫んだ。

ミライが慌てて二人に近づいてきた。「もう時間がないわ。早く過去に戻らなきゃ」

マスクは悲しそうに微笑んだ。「君たちが過去を変えれば、この未来も変わるはず。私たちを救えるのは、君たちだけだ。頼むよ」

再び強い光に包まれ、悟と桜の意識が遠のいていく。最後に聞こえたのは、マスクの「人類の未来は君たちの手に委ねられた」という言葉だった。

目を覚ますと、二人は元の時代の京都にいた。手には例の装置があり、周りの風景は変わっていない。まるで数分前に戻ってきたかのようだった。

「佐藤くん...」桜が震える声で言った。「私たち、本当にあんな未来を見てきたの?そして、イーロン・マスクに会ったの?」

悟は深呼吸をして答えた。「ああ、間違いない。そして、僕たちにはやるべきことがある」

二人は決意に満ちた表情で顔を見合わせた。彼らの前には、途方もない課題が横たわっている。人類の未来を変えるという重大な使命。しかし、その第一歩がどこにあるのか、少しずつ見えてきたような気がした。

「人間の本質的な価値...」悟が呟いた。「愛や共感、創造性...」

「そうね」桜が続けた。「それを大切にする方法を見つけて、広めていかなきゃ」

二人は歩き始めた。未来で見た光景を胸に刻みながら、そして手に握りしめた奇妙な装置の謎を解き明かすべく。京都の街に、新たな冒険の幕が上がろうとしていた。

その時、空からカラスの鳴き声が聞こえてきた。「アホー、アホー」

悟は思わず笑みを浮かべた。「ほら、カラスも応援してくれてるみたいだよ」

桜も笑った。「そうね。私たち、絶対に未来を変えてみせる」

二人の前には、まだ見ぬ冒険が待っていた。人類の運命を変える鍵を探す旅。それは、まるで四畳半の部屋から始まる壮大な物語のようだった。そして、その物語の主人公は、他でもない彼ら自身なのだ。

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