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精神疾患療養環境の今昔(前編)

先日、現代日本を代表するような精神科の大先生の著書をご紹介いたしましたが、今回はそんな大先生よりもっと偉大かもしれない大先生、呉秀三先生の著書であるこちら👇をご紹介致します。


「精神病者私宅監置の実況」呉秀三・樫田五郎著 (現代語訳)金川英雄訳 2012年9月初版 発行 医学書院

お恥ずかしながら私、初めてこちらの名著を手にいたしましたが、この本📖凄いですね💦全く古さを感じさせません!もちろんのことなのですが、こちらの原本は大正七年七月が初版のようです💦

①当時の内務省衛生局、保健衛生調査室の説明文。本書の序章の始まりのページにこちらの説明文(訳)がある。

内容としては、様々な精神科疾患患者の自宅療養(私宅監置)の実際を丁寧に詳しく調査したものです。今回は、こちらの書籍から、精神科疾患、療養環境の今昔の「昔」を考察したいと思います。

②氏名、年齢、住所は元より、資産状況や療養(私宅監置)環境、保護責任者、警察の巡回状況なども調べられている。

もちろんのことですが、内容は現代語訳なので読み易く、スムーズに理解が可能です✨何より詳しく調査された内容と、わかりやすさに脱帽🙇

③、②の裕福な資産を持つ家の私宅監置(隔離)施設。当時としては、見た目も良く、良質の木材が使われているようだ。
④裕福でない家庭の監置(隔離)施設。防寒の設備などなく、劣悪と言えなくもないが、本人の状態によっては、本宅に寝かしてもらえる日もあったようだ。
⑤呉秀三先生に残酷な処置とまで言わしめる劣悪な環境の患者。四肢の拘縮も始まっていると文中にはある。左手首より先に注目!
⑥こちらも裕福ではないが、食事や沐浴状況、医師の往診があることなどから、患者自身が家族から大切にされているのがわかる。
⑦詳しく図にされた、私宅監置(隔離)の実際!方角の記載は、日光の射し込み具合を考察させる為だろうか?
⑧現場(私宅監置)の状況だけでなく、それらを集計したものも本書には情報として付けられている。年齢や性別だけでなく、資産状況なども集計化されている。
⑨全国ではないが、県別に受診状況を比較している。n数は確かに少ないが、一軒一軒を訪問したと考えると、交通手段や連絡手段の少ない当時としては、大変な作業だっただろう💦
⑩当時の民間療法も紹介されている。こちらは、水療法(滝行)による治療。

いかがだったでしょうか?ご紹介したのは、ごく一部ですが、当時の酷い状況が伝わって来ると思います。

本書は、現場(私宅監置)のレポート📝✒️としても、緻密なできですが、それを集計して統計を取ったことで、一個事例としてでなく、「この不幸(私宅監置)が、この国に蔓延している現状」であることを明らかにした、「まさに時代を動かした一冊」だったと言えます。

呉秀三先生の余りにも有名な名言、「我が国十何万の精神病者は…」も、第七章「意見」にその全文が載っているので、この名言が生まれた背景をぜひ知っていただきたいと思います。

次回、後編では、今昔の「今」にあたる部分、「現在」の精神科疾患の療養環境の実際がわかる書籍をご紹介したいと思います。

次回もよろしくお願い致します。

終わり

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