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精神科夜間救急③~「私、患者さんに刺されました。」(後編)~

暴れる老人患者は、対応者(看護師)が一人になったことをいいことに、一旦静まった大声を再び張り上げて叫び始め、抑制(抑える手)の届かない下肢を激しくバタつかせていました。

私は膿盆に乗せた注射器を持って、二人の傍に駆け寄ります。患者の方は何をされるか既に知っています。抵抗は激しくなりますが、相勤者は患者を腹這いにさせて上体を抑制します。床に直にですから、良い形とは言えませんが、確かそんな形になっていたと思います。

私は患者のズボンをずり下げると、殿部(お尻)を剥き出しにさせて、「ホリゾン1A(アンプル)です!」と相勤者に伝える。実は膿盆の中には、注射器以外に薬液を取り終えた空のアンプルがあって、これ(薬液名を叫ぶ)が形式上のダブルチェックになります💦(何度も言うが、マンパワーの無かった25年程前の話しです)。

アンプルと呼ばれる薬液を入れた小瓶、本来は胴廻りに薬液のネームシールが貼られる。

何せ目下、患者は絶賛不穏状態ですから、悠長に二人でアンプルを目視という状況ではありません💦

そして相勤者から、「大丈夫!行って!」と施注にゴーサインが出ます。この大丈夫は、「薬液の確認をしたよ」ではありません。「しっかり抑えているからな!」の大丈夫です💦

これらの筋肉注射💉などは、即効性のある経口薬が無かった当時は、1日2本や3本は打っていた(新人の当時、経験数を上げる為、私は優先的に施注の担当者になっていた)ので、まあ暴れていても手馴れたものです✨

「ちょっとだけチクッとしま~す」というお決まりのセリフと伴に施注💉!もちろん、ドラマの様に直ぐには効きませんが、それでも5分、10分もすれば興奮は鎮静し始めます。

そうすると、患者を床に座らす形に戻して、ズボンを上げて、もう一度上体と下肢に分かれて抑制します。

ようやく、私たちが「(抑えるの)もういいかな?」と思ったその時です。

いきなり、「ガシャーン!」と遠くで何かが破損する?というか倒れるような大きな音がしました💦

それは本当に一瞬でした。その音の直後です。いきなり「ガバッ」と正面の患者が床にある膿盆の中を掴みました。「しまった!」と思った時には、私は左大腿上部に強烈な熱さ(痛み)を感じていました!

「うっ!ぐっ…」

即、下を見ると、先程自分が暴れている患者に打った注射器が深々と私の大腿部に刺さっています💦膿盆は勢いに弾かれ、処置室のドア前に飛ばされています。

「へへっ、やった、やったったわ…」

と、鎮静がかかり始めた患者が鈍い呂律で話しながら、私の前でへらへらと笑っています。

うかつにも相勤者は、その大きな音に気を取られて、しっかり患者の上体を抑えられてなかったようです💧鎮静がかかり始めて力を緩めていたのもあるでしょう。

もちろん、私自身が施注後に足を抑えるより先に、膿盆ごと処置室に返すべきでした💦今ならミニハザードボックスを持参して直ぐ注射器を廃棄できますが、当時は設置型の大きなハザードボックスしかなかったんですって言うのは言い訳ですね💦

当然、私に刺さった注射器💉は、直ぐに抜きました。

様々な種類のハザードボックス。小型の物は、一旦感染性廃棄物を投入すると再び取り出すことはできない仕組みになっている。(こじ開ける場合は別)。

幸い激しい出血もなく、外傷としては、見た目に大きな損傷はありませんが、実はそれ以上に問題がありました。それは…

「吉津単くん、この患者B肝(B型肝炎)やで…」

まさに絶望的な言葉です💧が、状況もかなり絶望的です💦
①目の前の鎮静が来始めている患者を自室のベッドに戻して(鎮静したので隔離は不要)、
②先程の「ガシャーン」という音の確認(明らかに何か問題が発生している)と、
③自分自身の誤針(患者に刺された)の対応をしなければなりません💦

ひとまず①は相勤者にお願いして、③の刺された部分の状態確認と洗浄(といっても部位的に、おそらくアル綿で拭く程度だったか?)を実施して、その後②の確認と処理に当たりました。しかし…

「吉津単くん、こいつ部屋で寝るのはおかしいで!保護室やろ?保護室にしてもいいで絶対!」

「いや、懲罰的な使用はしませんよ。早く部屋に連れて行って貰えませんか?私も人だから、手が出るかもしれない…」

「すまなかった。もっと俺がしっかり…」

「さぁ、早く…」

ちょっと美化し過ぎですが、保護室の使用に関してこんな感じのやり取りがあったのは事実です。

結局のところ、①はその後、フラツキながら自室に帰り、夜間良眠されましたし、②は喫煙所🚬のタワー型灰皿が倒れただけでしたので、やはり③が、最大の問題になりました。

当時病棟にあったものと同様のタワー型灰皿🚬消灯後は睡眠薬の影響を受けた患者がぶつかり、倒れることがしばしばあった。現在は健康増進法により病院内での喫煙は出来ない。

で、B型肝炎の誤針はさすがにヤバいです💦激症化(急性肝炎化)しますからね。誤針後の感染率も低くはない…💧

私は初めて使う「誤針マニュアル」のファイルに沿って各所に連絡します💦結局、当直医にはお願いして、直ぐに病棟に来ていただく形になりました💦(テキパキと処理していた分、これはカッコ悪い)。

そして何と病棟婦長(師長)が連絡を受けて、こんな深夜なのに来てくださったのです💦しかもノーメイクで!ノーメイクなのに凄い美人✨だったのを今でも覚えていますが、それ以上にいつもメイクばっちりな方が、ノーメイクで慌てて来てくださったのを見て、私は感激して泣きそうになりました。(本当に素晴らしい婦長さんでしたが、この事件の後少しして、秋の定期異動があり、別の病棟に異動されました)😢

また婦長の話しでは、幸い
患者自身はキャリア(罹患者)とは言え、感染力はほぼ喪失している状態のようで、カルテの背表紙にある、赤丸シール(赤丸だとB型肝炎、青丸だとC型肝炎のキャリアを示すシール)もそろそろ外そうか?という段階だったそう。確かにカルテ上の血液検査データも、数値的に感染力がない状態でした。

かつて使用していた物と同型のカルテ、背表紙にシールが付いていると、棚から取り出す際に感染症を持っているかどうかがわかる。
電子カルテがなかった時代は、このシールが感染症を直ぐに見分ける大切な指標だった!

でも、やっぱり安心という訳ではありません💦労災ということで、次の日、専門外来(血液だか?肝臓だか?)を受診。その後、一年間はフォロー(採血で感染の有無を見る)していただくことになりました。

で、結果は感染なし💨本当に嫌な体験でした💦精神科の慢性期病棟の夜勤も、結構いろいろあるんですよ💧私の忘れられない夜勤体験の一つでした。

終わり


※下に誤針(針刺し)に関する資料を添付📎しておきます。宜しかったらご参考にしてください。

何処の資料だったかな?💦
ハザードボックス持参は大切
「日常生活における偶然な外来の事故?」外来に応援に行った際の事故の補償と言う意味ではない?日常生活上の転倒などの補償だろうか?損保ジャパンという大手なのは安心感がある。ちなみに私は別会社の同様の保険に加入していた。(現在は病院勤務ではないので未加入)。