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子どものウェルビーイングにつながる居場所とは?

「小学生の放課後の現状と課題」シリーズでは、日本の小学生の放課後の現状と課題をひも解いて、解決のためのヒントを探っていきます。今回は、子どものウェルビーイングと居場所の関係について考えていきましょう。


日本の子どもの幸福度と居場所の現状

近年、日本の子どもたちを取り巻く問題は複雑で多様化しています。中でも注目すべきが子どもの幸福度の低さ、そして学校や地域に居場所がないと感じている子どもの増加です。

日本の子どもの幸福度が国際的に見ると低い?

ユニセフが発表した「レポ―トカード16」(2020年度)によると、精神的幸福度、身体的健康、学力・社会的スキルの3つの側面から分析した日本の子どもの幸福度は38カ国中20位でした。

しかも、身体的健康は1位であるにもかかわらず、精神的幸福度は37位という結果が出ており、ここから、日本の子どもの精神的幸福度が国際的に見ると高くはないということが分かります。

精神的幸福度

「レポートカード16」(公財)⽇本ユニセフ協会(2020年度)

学校に居場所があると感じる子どもの減少

「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(文部科学省、令和4年度)によると、小学校におけるいじめ認知件数、不登校児童数は年々増加しています。

児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(文部科学省、令和4年度)

また、「子供・若者インデックスボードver.4.0」(こども家庭庁、令和5年8月)によると、「次の場所が、ほっとできる場所、居心地のよい場所等になっているか」という質問に対して、「学校が居場所になっている」と回答した割合が3年前よりも減少していることが分かりました。ここから、いじめや不登校等の増加によって学校を居場所と感じられなくなっている子どもが増えていることが読み取れます。

▼「次の場所が、ほっとできる場所、居心地のよい場所等になっているか?」

子供・若者インデックスボードver.4.0」(こども家庭庁、令和5年8月)

地域に居場所があると感じる子どもの減少

こども家庭庁の同調査によると、地域を居心地がよい場所と感じる子どもも3年前と比べて減少していることが分かりました。

▼「次の場所が、ほっとできる場所、居心地のよい場所等になっているか?」

子供・若者インデックスボードver.4.0」(こども家庭庁、令和5年8月)

これには様々な背景が考えられますが、その1つに子ども・若者の地域での付き合いが減っていることがあげられるのではないでしょうか。
例えば、こども家庭庁の同調査では、地域での付き合いについて5年前と比べて減少傾向にあることが読み取れます。

子供・若者インデックスボードver.4.0」(こども家庭庁、令和5年8月)

さらには、習い事や塾に通っている子どもの増加などによって、子どもが親や学校・習い事の先生以外の大人と関わる機会が減っていることや、子どもが放課後に自由に行動する時間が減少していることも地域に居場所があると感じる子どもが減少している理由の1つと考えられます。

ウェルビーイングと居場所の数の相関関係

ここまで、日本の子どもの幸福度が低いことや学校や地域を居場所と感じると回答する子どもが減少していることなどの問題を提示してきました。では、ウェルビーイング(幸福度)とはそもそも何か、居場所の数が多くあることは子どもにとってどのような影響があるのかについて、ここから考えていきたいと思います。

ウェルビーイングとは何か?

公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事の石川善樹氏によると、幸福度とも訳されるウェルビーイングは、これまで教育・健康・資産の豊かさから測る客観的ウェルビーイングと、「本人がどう感じているか」に比重を置き、日本では生活満足度とも訳される主観的ウェルビーイングの2つの軸から捉えられてきました。ただ、昨今の日本ではより「主観的ウェルビーイング」が社会的に重視され始めていると指摘します。

さらに石川氏は、「ウェルビーイングは選択肢と自己決定で決まる」と述べています。自ら選択して、やりたいことを決められるかどうかがウェルビーイングの向上において重要だということです。

居場所の数が多いほどウェルビーイングが高まる

「子供・若者インデックスボードver.4.0」によると、「安心できる場所」を仮に居場所と捉えたときに、その数が多いほど自己肯定感や幸福感、チャレンジ精神などが高まるという結果になりました。

またそれだけではなく、「相談できる人がいる場」と「助けてくれる人がいる場」も数が多いほど、同じように自己肯定感や幸福感などが高まる傾向にあることが分かりました。

子供・若者インデックスボードver.4.0」(こども家庭庁、令和5年8月)

石川氏はさらにこのグラフから読み取れることとして、「子どもにとって複数の居場所があることが幸福度や自己肯定感につながると同時に、1つの居場所にあまりにも執着しすぎている状態はよくないとも言える」と指摘しています。

家庭や学校に選択肢を増やすことはなかなか難しいですが、地域に多様な居場所の選択肢があることが子どものウェルビーイングにつながるのではないかと考えられます。 

ウェルビーイングにつながる居場所とは

ここからはそもそも「居場所」とは何か、そしてその場が子どもにとっての居場所となるにはどうすればいいのかについて考えていきたいと思います。

居場所とは何か

こども家庭庁が発表している「こどもの居場所づくりに関する指針」では、居場所について次のように記されています。

こども・若者が過ごす場所、時間、人との関係性全てが、こども・若者にとっての居場所になり得る。すなわち居場所とは、物理的な「場」だけでなく、遊びや体験活動、オンライン空間といった多様な形態をとり得るものである。こうした多様な場がこどもの居場所になるかどうかは、一義的には、こども・若者本人がそこを居場所と感じるかどうかによっている。その意味で、居場所とは主観的側面を含んだ概念である。したがって、その場や対象を居場所と感じるかどうかは、こども・若者本人が決めることであり、そこに行くかどうか、どう過ごすか、その場をどのようにしていきたいかなど、こども・若者が自ら決め、行動する姿勢など、こども・若者の主体性を大切にすることが求められる

こどもの居場所づくりに関する指針」(こども家庭庁、令和5年12月)

ここでは、居場所とは物理的な「場」だけでなく、時間、人との関係性すべてを指すものであり、子どもがそこを居場所と感じるかどうかによって決まるものだということが記されています。

例えば、「学童のスタッフには何でも話すことができるからスタッフに会いに学童に行きたい」「ピアノを弾くことが大好きでレッスンに行くことが楽しみで仕方がない」など、その「場」だけでなく、人や体験活動をする時間自体が子どもにとって居場所となる可能性があります。

逆に、「勉強したくないけど行けと言われるから塾に行く」「学童に行きたくないけど行かなければならないから行く」など、子どもが「行かなければならないもの」だと思っているものはその子どもにとっての居場所とは言えません。

つまり子ども一人ひとりに合った居場所は異なるもので、子ども自身がその場・人・時間を「居場所」と感じていることが重要なポイントとなるのです。

子どもにとっての居場所をつくるには?

放課後NPOアフタースクールの代表理事である平岩国泰は、15年間子どもの声を聴きながら居場所づくりを実践してきた中で見えてきた、子どもにとって行きたいと思える居場所をつくるために求められる4つのキーワードをあげています。

1.「ありのまま」の自分でいられること
あなた自身がすばらしい存在であるということが認められている。
2.自分で選んで決められる「自己決定」
自分でやりたいことを選んで決められる。
3.人への貢献
誰かの役に立てているという実感が持てる。
4.「伴走者」の存在
何かあった時に頼れる・相談できる人がいる。

その場・人・時間が居場所であるかどうかを決めるのは子ども自身ではありますが、この4つのキーワードを重視していくことが居場所づくりを進めていくうえでポイントになってくると考えられます。

この4つのポイントをふまえながら居場所づくりをしていくために、まず起点となるのは「子どもの声を聴く」ことです。子どもの声を聴き、子どもと対話しながら一緒に場をつくっていくという視点があることが重要となってきます。

また、こうした観点は実際に子どもの居場所づくりに取り組んでいる自治体や放課後事業者だけでなく、家庭での子どもとのコミュニケーションや、学校運営においても取り入れられることがあるのではないでしょうか。

居場所づくりに必要な4つのキーワードについては、平岩が下記記事でも解説しています。

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「子どもの育ちに必要な放課後の時間とは?〜ウェルビーイングってなんだろう〜」

地域に子ども一人ひとりに合った多様な居場所があることが、ウェルビーイングにつながる

これからは、学校や家庭だけではなく、地域に子どもたちにとっての居場所を増やしていくことが求められます。一人ひとりの子どもにとって多様な居場所の選択肢が持てる、自分に合った居場所が複数存在していることは、子どものウェルビーイングを高めていくことにつながるからです。

地域では、フリースクールや子ども食堂など様々な形の場を増やして子どもの選択肢を広げていくと同時に、今ある放課後子供教室や学童、児童館などをより子どもが行きたいと思える場にしていく必要があります。

現在、国の動きとしても、こども基本法に基づくこども大綱やこどもまんなか実行計画の策定など、すべての子どもが将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を目指したこども施策が総合的に推進されつつあります。今後は、社会全体で子どものウェルビーイングにつながる居場所づくりに向けて行動していくことが重要です。

そのためにも、放課後NPOアフタースクールは、放課後の居場所が子どもたちにとってもっと行きたいと思える場になるよう、そして子どものウェルビーイングにつながる居場所づくりを進めていくためにも活動を続けていきます。


【オンラインフォーラムのご案内】 小学生のいるご家庭・教育現場・地域の関係者の方へ

放課後NPOアフタースクールでは、8月24日(土)にオンラインフォーラム「尾木ママと一緒に考える『子どものウェルビーイング』」を開催します。
 
近年、「子どものウェルビーイング」と社会の関わりへの関心が高まりつつあります。
本フォーラムでは、子どもたちが自らの力で今も未来も幸せに生きていくためには家庭や学校、放課後はどうあるといいか、長年教育に携わってこられた尾木直樹さんと共に、子どもたちとの対話を通じて考えます。

【フォーラム概要】
尾木ママと一緒に考える「子どものウェルビーイング」
開催日時:2024年8月24日(土)10:15~11:30
開催方式:ZOOM ウェビナー
参加費:無料
対象:小学生の保護者、教育現場や地域で子どもに関わる方、テーマに関心がある方どなたでも歓迎
申込締切:8月24日(土)10:00

お申し込み方法などの詳細はこちらからご覧ください。


〈小学生の放課後の現状と課題〉シリーズの記事はこちらから
 
Vol.1「データからひもとく『小1の壁』~原因と解決へのヒント~
 
Vol.2「インクルーシブな放課後の居場所づくりを進めるためには?」
課題理解編】【実践編