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子どもの育ちに必要な放課後の時間とは?〜ウェルビーイングってなんだろう〜

子どもたちにとって「放課後」という場はどうあるといいのでしょうか。医学博士の石川善樹さんに放課後NPOアフタースクール代表理事・平岩国泰がお話をうかがいました。

平岩 国泰(ひらいわ くにやす)
1974年東京都生まれ。長女の誕生をきっかけに、2004年「放課後NPOアフタースクール」の活動開始。2019年新渡戸文化学園理事長就任。

石川 善樹(いしかわ よしき)
1981年広島県生まれ。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマに企業や大学と学際的研究を行う。

子どもの育ちに必要なものとは?

平岩さん:昨年6月に閣議決定された「教育振興基本計画」にウェルビーイングの観点が盛り込まれて話題になりました。あらためてウェルビーイングとは何でしょうか。

石川さん:ウェルビーイングというと、これまでは教育・健康・資産の豊かさに関する客観的ウェルビーイングが中心でした。しかし、昨今では「本人がどう感じているか」に比重を置く、「主観的ウェルビーイング」が注目されています。

平岩さん:「教育」の計画や目標には、学力を中心として、客観的に測られるものが記載されることがほとんどでしたが、今回、主観的な感覚でもあるウェルビーイングが入ったことはとても印象的でした。子どもたちのウェルビーイング向上にはどんなことが大切なのでしょうか。

石川さん:まず考えられるのは、居場所の数と質です。これらが増えるほど、ウェルビーイングのみならず自己肯定感やチャレンジ精神、社会貢献意欲などが高まるというデータがあります。そうした意味でも、学校や放課後は、子どもたちにとって大切な居場所になります。

放課後の体験を通して育つ子どもたち

石川さん:居場所という点でいえば、放課後の体験格差がウェルビーイングだけでなく、学力格差にも結びついていることがわかってきています。そこで最近では、放課後の時間を充実させることに関心が寄せられています。

平岩さん:私たちの放課後の活動は、まさに居場所づくりそのものといえます。さらに、その質を高め、子どもたちのよりよい育ちをサポートするために4つのキーワードを大切にしています。ひとつめは「ありのまま」の自分でいられること。あなた自身がすばらしい存在であるということを子どもたちに伝えていくことはとても重要です。ふたつめは、自分で選んで決められる「自己決定」。アフタースクールの価値は、いろいろな活動から自分で選べるところにあります。3つめが「人への貢献」、そして最後に「伴走者」の存在です。

学校より放課後が好きだという男の子との印象的なエピソードがあるのですが、彼は電車が好きで、鉄道写真を1万枚以上も撮りためていたことから、放課後のスタッフの提案で電車の写真の展覧会をしました。人生初の個展です。選び抜かれた12枚の写真が飾られた展覧会には、近所の幼稚園児がやってきて、とても喜んでくれました。その体験をきっかけに彼は、今まで誰かに何かをしてもらうばかりだったのが、自分も誰かに何かをできることに気づき、いろいろなことが好転していきました。こうした出来事は、まわりから見れば小さな一歩かもしれません。しかし、子どもにとってはとても大きな一歩だということを、改めて気づかされました。

またもうひとつ、アフタースクールで料理をつくるイベントを行ったときのことも心に残っています。学校が苦手な男の子が、料理を教えてくれた地域の方から「キミがいてくれないと困るんだよ」と声をかけてもらったことをきっかけに、笑顔を取り戻したのです。あとになって男の子の親御さんから話を聞くと、料理の先生に信頼されたのがうれしかったそうで、それ以来、自分に自信をもてるようになっていきました。この出来事は、居場所とは「人のつながり」だと発見できた、私にとっても貴重な経験でした。

放課後は多様な「自分らしさ」を受け入れてくれる時間

石川さん:ウェルビーイング研究では「健全な多重人格」が重要なキーワードです。人には、自分が何者かになれる場所だけでなく、何者でもない自分でいられる場所も欠かせません。さまざまなグラデーションの自分でいられる場所があって、どこかに必ず自分の居場所があると思えることが大切ですね。

平岩さん:ずっと同じ環境だけにとどまっていると、いろんな自分でいることは難しいですよね。

石川さん:その点、アフタースクールのおもしろいところは、何もしなくてもいいというところ。昼寝したかったらしてもいいよって。学校で自己肯定感を得られないのなら放課後で得てもいいし、その逆でもいい。自分のバランスをとれる場があることが大切だと思います。

平岩さん:確かに、子どもたちにとってバランスは大切です。その結果として、「何者でなくてもいい」という感覚が持てたらいいですよね。

まずは子どもの声に耳を傾けることから

平岩さん:より良い放課後をつくるために、まず何から始めるのがいいと思いますか。

石川さん:最終的に子どもたちがどんな状態になってほしいのか、全国共通の物差しを持つことが、やはり必要だと思います。また、社会は世代交代を経て30年もあれば変わっていきます。例えば、家庭科の授業は子どものウェルビーイング向上に果たす役割が大きいといわれていて、最近の若い男性が家事や育児に積極的なのは、1994年から家庭科の授業を男女一緒に行うようになった成果だという研究結果も出ています。つまり、人の考え方が変われば社会も変わるわけで、長いスパンでの変化を見すえながら、子どもたちとじっくり向き合う姿勢が大事です。そのためにもまずは子どもたちの声に耳を傾け、しっかりデータをとったうえで、知見の共有化を進めることから始められるといいですよね。

平岩さん:子どもたちの声を聴くことは、本当に大切な第一歩だと思います。石川さんのお話をうかがっていて、放課後という時間がウェルビーイングに寄与できていることを改めて実感できました。先生たちは、学校で実現しなければ!と気負い過ぎずに、放課後という味方がいることを忘れないでほしいと思います。行政の皆さんは、ぜひ放課後も含めたウェルビーイングの計画設計をお勧めいたします。私たちはこれからも子どもたちに寄り添いながら、すべての子どもたちに豊かな放課後の扉を開けるよう活動を継続していきたいです。


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