データからひも解く「小1の壁」~原因と解決へのヒント~
日本の小学生の放課後にはどんな課題があるのか、皆さんご存知ですか?
現代の子どもたちは忙しさに追われ、かつての放課後にあった好きなことに打ち込む時間・自由に遊ぶことのできる空間・時間を忘れて遊べる仲間が失われつつあります。
「小学生の放課後の現状と課題」シリーズでは、日本の小学生の放課後の現状と課題をひも解いて、解決のためのヒントを探っていきます。
第1回目は、近年注目されている「小1の壁」について見ていきましょう。
小1の壁とは?
「小1の壁」とは、小学校入学を機に子どもの放課後の居場所に困り、仕事と子育ての両立が難しくなる社会的な課題です。
共働き世帯の増加によって学童の利用希望者数が増えているのに対して、受け皿の整備が追いつかず、待機児童数が増加傾向にあることが1つの要因とされています。
2023年5月時点の待機児童数は16,200人以上、2019年以降は学童の待機児童数が保育園の待機児童数を上回る状況です。
また、子どもが小学生になると多くの企業で時短勤務ができなくなります。厚生労働省が実施した「令和4年度雇用機会均等基本調査」によると、約72%の事業所で子どもの小学校入学以降は短時間勤務ができないということが分かっています。
子どもの小学校入学を迎える保護者の現状
こうした社会的背景がある中で、保護者は子どもの小学校入学を機に働き方の見直しをせざるをえない現状があります。
働き方の見直しを検討する保護者
放課後NPOアフタースクールが2023年2月に実施した「小1の壁に関するWEBアンケート調査」では、子どもの小学校入学にあたって働き方の見直しを検討した保護者は50.7%でした(調査結果①‐1)。そして、12.4%の保護者が実際に「正社員から別の雇用形態に変更した」と回答しています(調査結果①‐2)。
実際に働き方を変えた方の理由としては、「育児と仕事のバランスを取りたい」、「子どものリズムに合わせたい」などが上位を占めているため、保護者は柔軟な働き方を求めていることが分かります(調査結果①‐2)。
保護者のリアルな声
こうした保護者の声から、子どもたちが安心安全な場所で様々な体験ができたり、友達や家族以外の大人とかかわったりするなど楽しく過ごすことのできる居場所が求められていることが分かります。
また、学年が上がると学童に入れなくなってしまうことが多く、特に小学4年生以上の子どもの放課後の居場所が求められていることも分かりました。
「遊びたいように遊べない」子どもの現状
一方で、小学校に入学した当人である子どもたちはどう考えているのでしょうか?
「小1の壁」というと保護者の声が注目されることが多いですが、子どもたちの声を聞いてみるとここからも課題が見えてきました。
多くの小学生が「友達ともっと遊びたい!」
放課後NPOアフタースクールが2023年8月に実施した「小学生の放課後の過ごし方に関するアンケート調査」では、76.2%の小学生が放課後に「もっと友達と遊びたい」と回答(調査結果①)。
さらに現在、放課後にどれくらいの頻度で友達と遊んでいるかを聞いたところ、70.9%の小学生が「週1回以下」と回答しました(調査結果②)。
なぜ放課後に思うように友達と遊ぶことができていないのかを聞いたところ、48.7%が「友達と予定が合わないから」、次いで35.2%が「自分が習い事・塾・宿題で忙しいから」と回答しました(調査結果③‐1)。
学童を1年生のうちにやめる子が多数?
また、放課後NPOアフタースクールが2024年2月に実施した「放課後児童クラブ利用に関するWEBアンケート調査」では、学童退所者のうち、約30%が1年生の4月~9月(そのうち16.1%が4月)の間にやめているということが分かりました(調査結果3‐1)。
退所した理由については、1年生での退所者によると「子どもが行きたがらなくなったから」が最多の35.7%、次いで「働き方を変えたから」が28.6%となりました(調査結果3‐2)。
子どもが行きたがらなくなった理由としては、最多の「学童に通っていない友達と遊びたかったから」をはじめとして、活動・過ごし方、子ども同士のトラブル、環境・設備など様々な要因があがってきました(調査結果3‐3)。
子どもたちのリアルな声
子どもたちが学童に「満足していない」理由としては、「楽しくない」「仲のいい友達と遊べない」という声が多くあがりました。また、「先生がよく怒る」「自由がない」などの声もありました。
この調査結果から、学童が必ずしも子どもが行きたい場所になっていないということが分かり、これこそ「小1の壁」を深刻化させている要因とも考えられます。
また、「放課後に仲のいい友だちと遊びたい」と声をあげる子どもの視点に立ってみると、保護者の就労で「入所できる子ども」と「入所できない子ども」を分けることは子どもの声に寄り添えていないといえます。これは学童の制度上の課題ではないでしょうか。
「小1の壁」という社会課題の解決に向けて
保護者や子どもを取り巻く「小1の壁」。保護者だけでなく子どものためにも放課後のあり方を再考していく必要があります。
データから「小1の壁」をひも解いていくと、量的な課題だけでなく、子どもにとって放課後が自由に遊べる時間になっていない、学童が必ずしも行きたい場所になっていないなどの本質的な課題も見えてきました。
子どもたちは「放課後は仲がいい友達と遊びたい」、「もっと自由に遊びたい」という声をあげています。まずはその声をしっかりと受け止め、どうしたらそれが実現できるのかを子どもと共に考え、取り組むことが重要です。
さらに、企業側も「小1の壁」について理解を深めていくとともに、従業員が柔軟に働ける環境整備・制度づくりを進めていくことが求められています。企業をはじめとする社会の理解と参画が子どもたちの安心安全で豊かな放課後づくりに、ひいては子育てしやすい社会づくりにつながっていくはずです。
「小1の壁」という社会課題の解決に向けて、社会全体で取り組んでいきたいですね。
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