放課後・学校を子どもの権利実現の観点から見直す
こども家庭庁が創設され、“こどもまんなか社会”の実現に向けた機運が高まる中、これからの学校や放課後はどうあるべきか、池本美香さんにうかがいました。
−こども家庭庁創設、こども基本法が施行されましたが、「こどもまんなか社会」実現に向けて、学校や放課後はどうあるべきですか?
池本:日本ではこれまで親の就労支援や女性活躍推進の目的で保育環境整備などの施策が進められてきましたが、国が「子どもの権利条約」に基づき子どもへの施策を推進していく方向に舵を切りました。学校や放課後が子どもの権利条約の考え方に沿っているか検証し、子どもの意見を聴くことや、遊びの権利など子どもが本来持つ権利をどう保障していくか、という観点で見直す必要があります。
■悪化する小学生の状況と学校・放課後の環境
−現在の小学生の状況や小学生を取り巻く課題について教えてください。
池本:いじめや暴力行為の件数は著しく増加し(*1)、小学生の不登校が増えています(*2)。さらに貧困率や虐待件数も増加、健康面では体力の低下や肥満率の増加傾向も見られ、小学生の状況は悪化しています(*3)。
放課後については、待機児童という量の問題だけでなく質の問題もあります。大規模施設ではすし詰めのように過ごしていたり、長時間過ごすことに子どもたちはストレスを抱えていたりします。そのような状況では丁寧な支援も難しいのではと感じます。
■ハード・ソフト両面から子どもにとって魅力的な空間設計を
−現状や課題を踏まえて今後、放課後ではどのような施策が重要ですか?
池本:子どもに何を保障すべきか、何が必要かという視点から「自分たちで自由に過ごせる放課後」を取り戻していくべきです。そのためには遊びの「時間」とともに、「空間」を考える必要があります。
校庭や空いている教室を利活用することも重要ですが、そこで遊びたくなるような、子どもの好奇心を刺激する空間にしていくことも必要。イギリスでは国が主導して進めています。
地域の人と子どもたちが日常的に接点を持てる場や仕掛けづくりも大切。ドイツでは母親たちが学校内でカフェをしていたり、日本でも図書室を地域に開放しているところも。学校の中に保護者や地域の人が日常的に入っていき、子どもたちと自然に出会い、関係性ができていくことに期待しています。
−こども家庭庁創設により、子どものことが一元的に行われる期待がある中で、地方自治体に期待されることは?
池本:「自分の自治体の子どものために何をすべきか」と考えれば、様々な人たちと連携していくことになります。連携すると財源の無駄遣いが減りますし、情報を共有した方が早期に支援ができます。
子どもが求めていること、必要なことを考えるには、余裕をもった人員配置と、行政や学校・放課後現場の方々の連携・情報共有を当たり前にすることも必要かもしれません。
★コラム
【イギリスの事例】子どものための、子どもによる校庭デザイン
イギリスでは政府が主導し、子どものための校庭づくりを進めています。緑が多く、座っておしゃべりする空間が設けられていたり、子ども自身がチャレンジしたくなる飛び降りや木登りができたりするところも。そんな多様な遊びができる居場所づくりには、子どもたちも参加。そうすることで「自分たちの場所」という愛着が湧きます。
【オーストラリアの事例】進む学校と放課後児童クラブの連携
オーストラリアでは放課後児童クラブの指針の中で、学校と放課後児童クラブの協力関係構築が促されています。公式・非公式な場での学校職員・放課後児童クラブ職員間のコミュニケーションが積極的にされることで、子どもへのよりよい対応や双方のスキル活用が見出せます。また、この指針を受け、小学校長会代表と放課後児童クラブの全国団体代表の連名で望ましい連携についてのあり方をまとめた文書が教育・雇用・職場関係省から公表されました。
■プロフィール
株式会社日本総合研究所 調査部 上席主任研究員 池本美香氏
1989年日本女子大学卒業、三井銀行入行。2001年より日本総合研究所。博士(学術・千葉大学)。海外との比較を中心に、子どもに関する政策について調査研究。著書に『失われる子育ての時間』『子どもの放課後を考える』『親が参画する保育をつくる』『保育の質を考える』など。現在、千葉大学客員教授、東京都こども未来会議委員、神奈川県子ども・子育て会議委員。2014年より放課後NPOアフタースクールアドバイザリー・ボード メンバー。