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アートを通して塀の内と外との関係性について考える-「刑務所アート展」の開催に寄せて

あなたは”刑務所”と聞いてどのような場所を思い浮かべるでしょうか。あるいは”受刑者”と聞いて、どのような人々をイメージするでしょうか。

「刑務所アート展」が、2月17日から3月5日まで、東京都小金井市にある「KOGANEI ART SPOT(コガネイアートスポット)シャトー」2階で開かれています。

企画したのは、受刑者と出所者の社会復帰支援をするNPO法人「マザーハウス」理事の風間勇助さんです。
マザーハウスのほか、被害者・加害者双方の支援者が共に支援に取り組む団体「Inter7(インターセブン)」の協力のもと、昨年7月からこの公募展に向けてイベントを開催してきました。

あわせて10回に渡るイベントでは、公募展の内容を考えることから始まり、実例をもとに被害と加害の距離と対話についても考えてきました。

受刑者とはどのような人々なのか、罪を犯した経験から立ち直る、更生する、回復するとはどういうことなのか、そこにどのような表現がありうるのか。そして、社会はその回復や表現にどう向き合うのか。

「刑務所アート展」を企画した風間さんのコメントを紹介しながら、このプロジェクトが目指し、取り組んできたことをお伝えします。

刑務所の内と外との交流をアートで行う

風間さんは、もともと美術館やギャラリーから外に出てアートと社会をさまざまな方法でつなぐ「アートプロジェクト」を東京藝術大学で学んでいました。あるとき偶然に「刑務所アート」と出会います。

風間さん「卒業後、会社員をしていたのですが、あるときたまたま入った本屋で、連続ピストル射殺事件で死刑が確定し、執行されるまでの間、獄中で小説家として創作活動を続けた永山則夫の展示が行われていました。そのときに彼の手書きのノートを見て衝撃を受けました。『刑務所にも表現がある』と改めて思いました。事件や裁判が終わっても、その人の『表現』が残ることで、その人について、この社会で起きた暴力について、それがどういう社会背景にあったか、司法制度にどんな問題が感じられたかなどを語っていく活動は続くんだなと」

風間さんはそれをきっかけに刑務所アートを大学院で研究し始め、マザーハウスと出会います。マザーハウスでは、「孤独」が再犯の最も大きな要因と捉え、受刑者との文通プロジェクト「ラブレター・プロジェクト」を展開しています。今回、そのネットワークを活かし、交流を重視した本プロジェクト「塀の内と外との交流型公募展プロジェクト」を企画しました。

本プロジェクトでは、受刑者から詩や短歌、エッセイや絵画といった文芸作品を募集し、審査員や会場で作品を見た人のコメントを、応募した受刑者に返すことで、刑務所の内と外との交流をつくりだします。このことが受刑者にとって社会とのつながりを感じる契機となり、塀の外にいる私たちにとっても、刑務所やそこに生きる人々について想像を巡らす機会になると風間さんたちは考えています。

被害者と加害者が「表現」を通して対話を行う例も

本プロジェクトを実施する中で、風間さんは加害者と直接対話を行ってきた被害者遺族・原田正治さんに話を聞く機会がありました。

加害者である長谷川敏彦さんは、死刑が確定してからも、ずっと原田さんに手紙を送り続け、たまにそこに絵を添えていました。原田さんはその絵を今も保管しています。

原田さんは長谷川さんに対し、はじめは極刑を望んでいたそうです。「会うこと赦すことは違う。事件については今でも赦してはいないし、赦せるようなことではないと思う」と原田さんは語ります。それでも、会って事件のことを話せる相手、原田さんの気持ちをぶつけられる相手は加害者である長谷川さんしかいないのではないかと考えたそうです。長谷川さんと対話する経験を経た原田さんは、2007年に「Ocean 被害者と加害者の出会いを考える会」を設立し、ご自身の体験を踏まえて死刑制度を問い直す対話を、今も続けています。

刑務所や拘置所の中で文化的活動がなされ、その表現がモノとして残ることで、対話の可能性や時間が生まれることもあります。それは、たとえ当事者が寿命や死刑で亡くなったあとも続きます。

「刑務所や受刑者について、SNSやマスメディアを通して入ってくる情報は限られている」と風間さんは話します。
風間さんたちは、刑務所アート展を、犯罪や刑事司法の問題について議論するオルタナティブな場としても機能させたいと考えています。

人は誰もが加害者にも被害者にもなり得る

2月17日にはじまった「刑務所アート展」では、二部構成を取っています。前半では、「塀の内と外との交流型公募展」で全国の受刑者から応募された作品を、後半では被害者遺族との対話をしてきた二人の死刑囚の絵を展示しています。

風間さんは「普段、自分たちが刑務所やそこに生きる人々にどういう目線を持っているのだろう、ということを疑う、問い直すことを大事にしたい」と話します。

来場者の中には、千葉や埼玉など、都外からも足を運んでくださる方もいて、作品を黙ってじっくり見ていらっしゃる方が多いそうです。若い方から年配の方まで、幅広い年齢層の方が訪れています。観覧後に記入するアンケートも時間をかけて書く方の姿が目立ちます。
アンケートには、来場者から次のようなコメントが寄せられています。

「この展示を見るまでは、多少怖いという気持ちがありましたが、絵や作品を見て心が暖かくなる気持ちがしました。刑務所の暮らしは辛いことも多いと思いますが、希望をもってがんばってほしい」
「映画などで観たことはあっても、このように実際本人の字で作品をみるとまた違った角度から存在していることを実感できました。知ることを重ねることで人としてみることがよりできるようになったと思います。今後も展示を続けていって欲しいです」

人は誰もが加害者にも被害者にもなり得ます。誰かに与えてしまった傷や誰かから受けた傷の大小を問わずです。しかし、その先も人生は続いていく時にどう生きていくのか、あるいはそのような人生に周囲や社会がどう関わることができるのか。刑務所アートが、塀を隔てていても同じ社会に生きる人々の存在に想像を巡らせ、塀の内と外とをつなぐ回路となればと私たちは願っています。

「刑務所アート展」の開催期間は2月17日(金)〜3月5日(日)12時~18時、月曜・火曜は休廊、入場無料です。刑務所やアートに関心がある方、加害や被害について考えたい方はぜひ足をお運びください。

執筆:黒木萌


「刑務所アート展」チラシ画像

「刑務所アート展」
展示期間:2023年2月17日(金)〜3月5日(日) 12:00-18:00
※月・火は休廊、入場無料
場所:KOGANEI ART SPOTシャトー2F 
〒184-0004 東京都小金井市本町6-5-3 シャトー小金井 2F
JR中央線武蔵小金井駅南口から徒歩5分

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