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受刑者から文芸作品は集められるのか?塀の内と外をつなぐ「刑務所アート展」を目指して

NPO法人マザーハウスも協力している刑務所アート展プロジェクトを、毎日新聞で取り上げていただきました。マザーハウスの文通プロジェクトに関わりのある受刑者に向けて、文芸作品の募集をかけ、展示を目指していこうと考えています。

このプロジェクトは「塀の内と外との交流型公募展」と名づけられています。つまり、作品を介して塀の内と外とのコミュニケーションの回路をひらきたいという意図があります。作品そのものよりも、その交流、対話の場をひらいていくことが重視されています。

モデルにしているイギリスの刑務所アート展

記事では充分にお伝えできませんでしたが、実はモデルにしている取り組みがイギリスにあります。イギリスの慈善団体Koestler Arts(ケストラー・アーツ)は、Koestler Awardという英国全土の被収容者を対象とした大規模な公募展を毎年開催しています。英語ではありますが、字幕付きの紹介動画があります。

もう60年もの歴史があるのが驚きです。またその規模も大きく、毎年イギリス全土の3,500人以上の応募者から、7,000以上の作品のエントリーがあります。応募作品には、約100人の専門の審査員によって約2,000もの賞が授与され、イギリス最大の芸術センターであるサウスバンクセンターに展示されます。

Koestler Artsがこの取り組みにおいて重視しているのは、応募作品への「フィードバック」だといいます。日本でも行われている文芸作品コンクールは、受刑者から応募された作品に対して銅賞・銀賞・金賞という賞を用意し、受賞者には選評も送られているようですが、Koestler Artsは受賞作品に限らず応募作品の95%に対してフィードバックを返しています。表現は、誰かとのコミュニケーションとなって初めて意味をもつと考えているからです。

2010年には、犯罪の被害者グループが受刑者の作品をキュレーションして展示をつくるという取り組みも行われました。サウスバンクセンターの専門家によるレクチャーで、被害者の方にキュレーションを学んでもらい、展示をつくる作品を選定していきます。直接の加害/被害の関係性にある相手とは限りませんが、参加者が作品を選んでいる様子が以下の動画でも見られます。
この対話の場をもたらしていくこの過程が重要なのだろうと思います。


刑務所アート展を目指す過程でのイベント

対話の場をていねいにつくりながらプロジェクトを展開していくため、まずは作品を募集するテーマを考える場をつくったのが、先日毎日新聞に取り上げていただいたイベントでした。第二弾のイベントでは、刑務所で使うことができる物品はどんなものがあるのかを、マザーハウス代表の五十嵐さんに教えてもらいながら参加者とともに共有しました。

刑務所で購入できるとされる物品を前に、その使用上の制限などを説明する五十嵐さん

次なる企画は、応募された作品や応募者(受刑者)への「フィードバック」にもつながっていく、「刑務所との文通、手紙」についてその体験を共有する場をオンラインで開催する予定です。ご関心のある方は、次のページから開催日時やお申し込みなど、ご確認ください。

毎日新聞の記事でも書いていただきましたが、重要なのは展覧会や作品そのものではなく、このプロジェクトを進めていく過程でいったいどんな障壁が見えてくるのか、その課題を共有する場をひらいていくことです。
実際、募集案内をつくっている過程で、「ペンネームでの応募は、偽名使用と思われてできないかもしれない」「応募用紙となる白紙の画用紙は刑務所に入らないかもしれない」など、いろいろなことが議論されました。

※イベントレポートはこちら。

刑務所アートは何を目指すか:回復/修復に向かう表現

「受刑者アート」(あるいはアウトサイダー・アート)ではなく「刑務所アート」と呼んでいるのも、社会における刑務所という場所、制度のもとで表現があることについて想像力をもちながら考えていくためです。アメリカでは、受刑者の過剰収容や大量投獄を問うかたちで、刑務所アートの展覧会が開かれました。その展覧会の紹介を、映画『プリズン・サークル』の監督としても知られる坂上香さんが記事を書いています。

フリートウッドは、監獄アートは「アウトサイダーアート」と呼ばれることが多いが、実際にはその逆だと指摘する。「時を刻むということ 大量投獄時代におけるアート」展で展示された作品は、すべて刑罰制度と人々の関係に関わるものであり、アメリカ社会と投獄との関係を可視化していると。

回復/修復に向かう表現 美術館で語り合う大量投獄の時代
坂上香・ドキュメンタリー映画監督
https://mainichi.jp/premier/health/articles/20210520/med/00m/100/014000c

受刑者が絵を描く、表現活動に取り組むというのは日本でも決して珍しいことではないと思います。先日のTBSの報道特集「死刑を免れた男達」の中でも、高齢の無期懲役受刑者が、今の楽しみは何ですか?との取材者の質問に対して「絵を描くことだ」と答えています。

TBS報道特集「死刑を免れた男達」( https://youtu.be/68_-kbg-3cc )

大変に胸が痛む凄惨な事件としても記憶に新しい、京都アニメーション事件の被告人も小説を書いていたようです。そのことについて、犯罪学者の浜井浩一さんは次のように書いています。

今回の事件の被疑者はこうした環境下で、小説を書くことで自尊感情を維持し、自分自身を保とうと努力していたのかもしれません。それ自体はポジティブなことですが…。一般論ですが、拘禁状態の中で、ひとりで創作したものに関しては、「すごくいいモノを書いた」と思い込んでしまう傾向があります。

「踏みとどまれる社会を」京アニ事件きっかけに考える 龍谷大教授インタビュー
https://nordot.app/535626694957270113 

ひとりで表現活動に取り組むことは、精神の安定や自尊感情の維持に重要ですが、やはりそれが誰かに届いて反応が返ってくるという「コミュニケーション」につながらなければ、拘禁状態の刑務所生活では妄想の世界に生きていくことになってしまいます。そうした人々は、社会にいる私たちとは異なる理解不可能な他者=犯罪者として排除され、孤立・孤独に追いやられ、場合によっては再び罪を犯さざるを得ない状況へと追い込むことになります。

やがては社会に復帰し、同じ社会で共に生きていく(すでに共に生きている)人々だからこそ、この社会で起こった犯罪や暴力、そこからの修復や回復に社会が向き合う場を、小さくてもつくっていくことを願い、プロジェクトを進めています。

人は誰でも加害者にも被害者にもなり得て、誰かを傷つけてしまう経験、傷つけられる経験は大小問わず誰でもあると思います。その経験の先も人は生きていかなければなりません。そのとき、塀の向こうからの表現や、回復・修復を目指そうとする活動がこの社会に存在することの意味があると思います。

(執筆:風間勇助)

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ルワンダから仕入れたフェアトレードのコーヒーであり、生産地ルワンダの生活や産業の発展にも貢献しています。マリアコーヒーが使用しているルワンダコーヒーは、日本国内のコーヒーシェアにおいて大変貴重な希少種でありながらも、近年の世界中のカッピングコンテストでは上位入賞の常連です。最高級のスペシャリティビーンズで、日本と取引実績のある、信頼できる現地サプライヤーより購入しています。

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