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寝台特急「サンライズ瀬戸」へ乗る前に気を付けたかったこと


・はじめに 唐突に始まった寝台特急の旅



 11月上旬。出張で香川県へ行った帰路、寝台特急「サンライズ瀬戸」(以下「サンライズ」)に乗車した。


 きっかけは先輩の一言だった。

「おれ寝台で帰るけど、のざわ君もどう?」
「えぇ寝台……そこまで豪華なものはちょっと」
「いや、そこまで高いわけじゃないって。それに滅多に高松来る機会ないでしょ」

 先輩の誘いに乗せられスマホで詳細を調べた俺は驚いた。比較的居心地が良さそうな個室:シングル B寝台は、乗車券・特急券併せて22650円。決して手が出ない金額ではない(雑魚寝の大部屋「ノビノビ座席」であれば尚のこと安い)。更に、発車約7時間前の時点で座席が半分以上空いていた。
 「日本で定期運行している寝台特急はまだ現存する」との知識はあったが、てっきり自分とは無縁の「超高級路線」な世界、そして滅多に予約できないプラチナチケットだとの偏見を持っていた。先入観とは恐ろしいものだ。



 最後に寝台特急に乗ったのは、家族旅行で「カシオペア」に乗った約20年も昔。幼き日の記憶が薄れつつある今、改めて寝台列車の旅を味わってみるのもいいかな……と思い、俺は意を決して「サンライズ」のチケットを取った。
 高松駅近辺で仕事の打ち上げを終えたのが20時頃。発車は21時頃。慌てて高松駅構内のコンビニで最低限の準備(飲み物やお土産の購入等)を済ませた後、いよいよ旅が始まった。




 闇夜を駆ける列車に揺られて過ごす約10時間の旅は、とても新鮮な経験となった。
 だが……残念ながら「もっといい旅になったはずでは?」との後悔の念もある。それは断じて電車のせいではなく、俺が「快適な寝台特急ライフ」への準備を怠ったことが原因だ。
 これより「サンライズ」で旅をしようと思っている方々へ向け、俺が体感した後悔や注意点を、自戒を兼ねて挙げていきたい。詳しい方なら「何を今更?」と言いたくなる情報ばかりと思われるが、「寝台特急ビギナーの初見感想」として受け止めて頂けたら幸いである。

※本稿で述べるのは、俺が経験した高松発東京行き「サンライズ瀬戸 シングルB寝台」のケースです。他の部屋や路線(「サンライズ出雲」)では、また別の注意が必要と思われます。ご了承ください。


・普段電車で酔わない方も注意




 最初に強く言っておきたい。車体が揺れる。予想以上に揺れる。
 呟きの通り、俺は見事に酔った。「ふだん電車では酔わないから(車と飛行機では酔う)」と完全に調子に乗っていた。覚醒も熟睡もできず、朝4:00頃までベッドで横になり、せっかくの旅を無為な時間に堕としてしまった。


眠れず過ごした夜2:00頃。真っ暗が落ち着かず灯りを点けていた。



 決して「サンライズ」を糾弾する意図はない。電車は揺れるのが当然だ。それに、「サンライズ」だけが特別強く揺れていた訳ではないだろう。他の電車、例えばJR中央線・山手線とそこまで大差はないはずだ。
 しかし、シートに座るか立って過ごす在来線と、ベッドで寝て過ごす寝台特急で味わう感覚は異なる。寝転がっている間はお尻と背中だけでなく、絶え間ない揺れを全身で味わう羽目になる。その影響で三半規管がダメージを喰らってしまったのだろう。
 ……という訳で、俺のように三半規管に不安のある方は、念のため酔い止めを用意しておくに越したことはない。

※以前フェリーに乗った際は酔わず、かつ安眠することができた。船の揺れ方は滑らかで大きくゆっくり、電車の揺れ方は固く小刻みに早く。個人的には後者の方が身体への影響が大きかったようだ。


・机に物を置きすぎない


 本題に入る前に、俺が泊まった部屋の話をしておきたい。
 ベッドの右側(進行方向側)に枕・布団・館内着が置かれていた。右側には小さな机(15インチのノートPCで作業ができなくはなかったが、かなりはみ出ていた印象)。見切れてしまっているが、机の奥には小さな紙コップ、そして車体の揺れ対策の「紙コップホルダー」も付いていた。なお、足元にはスリッパと、下足用と思わしきビニール袋も置かれている。

 さて、先に述べた通り「サンライズ」は揺れる。
 話題が前後してしまうが、俺は机の上に4本のペットボトル飲料を置いていた(前項写真参照)。当初はさほど揺れる様子がなかったので気にしていなかったものの、急な減速により車体に負荷が掛かった瞬間、机に置いたペットボトルが倒れて足を直撃した。まだ起きていた(眠れなかった)から良いものの、就寝時ならば大切な睡眠が妨げられていたところだ。机の上のものは最低限に留め、ベッド横のスペースに置くが吉だろう。


・水は無理に買い過ぎなくても良い



「サンライズ」乗車前の注意点をWeb上で調べると、よく「食糧の買い込み」が挙げられている。食べ物の車内販売が行われていないためだ。俺は「乗車前にたらふく食べたし、朝までお腹は空かなそうだ」と予想し、水分補給用のペットボトル飲物(緑茶1本と水3本)のみを購入して乗り込んだ。


 しかし、乗車後に車内を散策している最中に気付いてしまった。たとえ喉が渇いたとしても、車内に自販機があるのでさほど困らない……と。サイズが小さいものしか売っていないが、そこまで法外な価格でもない。無理に買い込まず、車内でで現地調達をするのもアリだったように思える。

ラウンジ室に置かれた自販機。


 先述の通り、俺はペットボトル飲料を大量に買ってしまった。結果的に水を1本半分飲んだ程度で旅を終え、帰り道の荷物を余計に増えてしまう結果となった。
 お酒を嗜まれる方・水やお茶等以外の飲み物が欲しい方は事前準備の必要があろう。一方、「水分補給ができればいい」位のスタンスであれば、無理に買い込む必要はないかもしれない。


・おやつは一応買っておいた方が良い


 前項で述べた通り、「サンライズ」車内で食べ物は販売していない。
 確かに事前の予想通り、空腹に陥ることはなかった。しかし、気分転換用のお菓子(例:タフグミ)があってもよかったかな……と感じないこともなかった。残念ながら、その欲求は我慢するしかない。売っていないのだから仕方ない。


 持ち帰っても荷物の肥やしにならない程度のお菓子は、買っておいても損はしないだろう。もし食欲等に耐えかねた場合、家族や知人用に購入したお土産を、泣く泣く自らむさぼる羽目になってしまう。

高松駅内コンビニで売られていた、キュートなヤドン(香川県観光大使ポケモン)のお土産。
ポテト菓子「ヤドンのしっぽてと」がお薦め。

 余談だが、ポケモンを全く知らない知人から「ヤドンって何の生き物なの?」と言われ返答に困ったことがある。カモノハシか……?


・冬季は寒さ対策に注意




 俺が「サンライズ」に乗ったのは11月上旬。全国的に急激な冷え込み──冬の到来をも感じさせる寒気が襲う真っ只中だった。
 有難いことに、個室にはヒーターが常設されている。部屋の入り口の足元付近に送風口が付いており、結構な勢いで熱風が吹き出す。30分もすれば、個室内は問題なく暖かくなった。

操作パネル・右下のツマミでヒーターを入れる。
気になるのは「エアコン」ではなく「ヒーター」一択な点。夏場の温度が気になるところ。


 室温が適度に維持される一方、掛け布団は比較的薄く、肌を温めるには少々心もとなかった。部屋は暖かくても身体が寒い……。
そのように思いながら、自分の二の腕を掌で抱いて寒さをやり過ごしていた。
 流石に布団や毛布は持ち込めない。肌を冷やさない長袖のインナーを持参していれば、個室での長旅を快適に過ごせただろう。


・タオルは何枚有っても良い


 車内にはシャワーが設置されている。部屋にシャワー室が付いている訳ではなく、チケット代わりのカードを購入して利用する仕組みだ。

電子マネーは使えないので注意。また、カードはすぐに売り切れるようだ。シャワーを浴びたい方は早めに確保すべし。


 俺が乗車したBシングルにはタオル等のアメニティグッズが付属しない※。それらを貰えるのはA寝台「シングルデラックス」のみになる(こちらはシャワーカードも付いてくるそうだ)。
 事前情報で知ってはいたが、元々シャワーを浴びるつもりがなかったため、タオルを用意しようとは微塵も考えていなかった。


 ところが、車内で気が変わった。シャワーを使わないとしても、せめて洗面台で顔くらいは洗ってサッパリしたい。ハンカチではサイズが足りない。タオルが欲しい……と。
 結局ポケットティッシュをタオル代わりに何枚も使い、余計な消耗をしてしまった。コンビニでタオルを買わなかった俺の失態だ。気分転換で何度も顔を洗いたくなった時のため、一枚と言わず数枚のタオルが有っても良いだろう。

※アメニティが無い=歯ブラシも無い。しかし、非常時でも「虫歯ゼロ」の現状を維持したい俺は、帰宅困難時用に歯ブラシを常備している。想定していたシチュエーションとは異なるが、このような形で役立つと思わなかった。常備していない方は、こちらもしっかりと用意しておく必要があろう。


・おわりに 快適な寝台特急の旅を!


 以上で、俺の浅い知識に基づいた体験談を終える。
あれこれ書いたものの、「サンライズ」に乗ったことを俺は全く後悔していない。誘ってくれた先輩にも多大に感謝している(東京駅下車後、ちゃんとお礼を述べてから解散した)。
 せっかくの希少な寝台特急だ。少しでも良い環境を整え、良い思い出ばかりが残る旅を味わって頂きたい。今回の体験談が、その一助となることを心より願っている。

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