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文体の舵をとる─『文体の舵をとれ』第二章


※ ↓前回の記事です。


●問題


第二章 句読点と文法

<練習問題②>ジョゼ・サラマーゴのつもりで

一段落〜一ページ(三〇〇〜七〇〇文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)。
テーマ案:革命や事故現場、一日限定セールの開始直後といった緊迫・熱狂・混沌とした動きのさなかにに身を投じている人たちの群衆描写。
『文体の舵をとれ』P.49より引用。



 祭りだ祭りだ祭りが始まったとばかりに大勢が騒ぎ立てる入手困難な大人気プラモデル1/144HGガンドムエアリエル大量入荷の情報を知った輩どもが家電量販店7階に集う1人1つの個数制限があるにも関わらず両手一杯にパッケージを抱える不届き者たちで売り場は埋め尽くされている混沌の最中で彼が命からがら手に取ったパッケージは何者かに掠め取られた彼は理解したこれは祭りなんかじゃない戦だ争いだ戦争だ血で血を洗う闘いだ誰が味方か敵かもわからないいや全員が自分の敵だと脳味噌が発火した彼は両腕を振り回し周囲の者を殴り付けていくプラモデルの入手が目的ではない客全員を自らの拳で打ち滅ぼさんがために



●追加問題


ここでようやく、ワークショップで取り組んだ作品を再検討して、句読点をつけてみるのも面白いだろう。句読点のない文章は、句読点なしでも何とかわかりやすくなるようにしていたはずだ。そこに句読点をつけるとなれば、書き直しが必要かもしれない。どちらの原稿が、うまくいっているように思えるだろうか?
『文体の舵をとれ』P.50より引用。


 祭りだ!祭りだ!祭りが始まった!──とばかりに大勢が騒ぎ立てる。入手困難な大人気プラモデル・1/144 HGガンドムエアリエル大量入荷の情報を知った輩どもが、家電量販店7階に集う。1人1つの個数制限があるにも関わらず、両手一杯にパッケージを抱える不届き者たちで売り場は埋め尽くされている。混沌の最中で彼が命からがら手に取ったパッケージは、何者かに掠め取られた。彼は理解した。これは祭りなんかじゃない。戦だ!争いだ!戦争だ!血で血を洗う闘いだ!誰が味方か敵かもわからない。いや、全員が自分の敵だ──と脳味噌が発火した彼は、両腕を振り回し周囲の者を殴り付けていく。プラモデルの入手が目的ではない。客全員を、自らの拳で打ち滅ぼさんが為に。


●振り返り


※例として名が挙げられたジョゼ・サラマーゴの作品。未読。


 この文体、確かに読み辛いが謎の“ドライブ感”はある。心なしか筆も乗った(勢い任せ、とも言えるが)。あくまでも句読点の重要性を認識する例題……ということで、同様の形式で小説を書くつもりは毛頭無い。操るには相当な筆力が必要な文体だろう。俺には荷が重い。


 さて、前回の問題が“喜”の感情を扱ったので、今回はあえて“怒”の要素を強調した。俺は“怒”の意思表示が凄く苦手なので(そもそも激怒するような機会は4〜5年に1度程度しか訪れないので)、フィクションの文章くらいは上手に怒っていたい。文体の舵をとること、それ即ち喜怒哀楽の舵とることに繋がる。そんな気がする。


【続く】

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