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一人じゃできない指相撲




左手親指の“スマホ指”疑惑から一週間経つ。
なるべく左手の利用を控えながら保冷剤で冷やすようにした結果、違和感は自然に消えていった。無事に全快した──と言うと大袈裟だが、一応そういうことにしておこう。




しばらく自由が奪われていた反動で、俺は普段以上に指をあれこれ動かした。
思いっきり手を広げて、指の間に“水かき”を出してみる。
エアピアノを奏でる。ちなみにピアノはさっぱり弾けない。
指を大きく動かすことで、手の甲に浮き出た血管をくねくね踊らせてみる。
ひたすら両手をぐちゃぐちゃ撫で回し、少し膨らんだ関節の感触を確かめる。
──こんな手遊びを繰り返すうちに、親指は無意識に“エア指相撲”の動きをとっていた。




指相撲は“1P対戦”ができるゲームではなく、対戦相手がいて初めて成立する遊びである。
もし自分の両手同士をしっかり握ろうとすれば、哀れにも親指は敵を見失い、正反対の位置へと離れ離れになってしまう。
対戦相手がどこにもいない以上、俺の指は文字通り“一人相撲”しか許されていないのだ。




そんな俺は先日、30歳を迎えた。
世間的にはもう、手遊び程度ではしゃぐ年柄ではないのだろう。
しかし様々な人たちと戯れ合って指相撲をしてきた過去は、今の俺にとって無性に懐かしく、暖かく、そして瑞瑞しい輝きとともに記憶されている。




今日も俺はコインを握り締め、椅子に座って対戦相手を待ち続ける。
正面に対戦相手が現れた際は、再び親指が腫れるほど、思いっきり遊ぶことにしよう。


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