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『働くことの人類学』ー現代社会に疲れた人に読んでほしい良書

昨年知人が奨めていた、『働くことの人類学』(松村圭一郎、コクヨ野外学習センター 編)[2021.6.29]を読んでみました。良い本でした。


世界中のいろんな民族の働き方について、研究者の対談とかが10個くらい載っています。普段どっぷりつかっている価値観とは全然異なる価値観に触れることができます。彼らはそれを「当たり前」として生活しています。

現代社会がなんか生きづらいとか、息苦しいとか漠然と思っている人はぜひ読んでほしい本です。そうでなくても日本人は読んでほしいです。

■第1話「お金をめぐる問い」より

抜粋と要約
パプアニューギニアのトーライでは、今でも貝殻のお金「タブ」が流通している。
当地の人々は、タブをたくさん集めることを「人生の目的」だと言ってはばからない。一方、政府が発行する貨幣をたくさん集めることは、人生の目的には決してならない。

当地では社会と経済の分離が西欧社会ほど深刻化していないようです。お金を稼ぐこと=社会の役に立つこと、という考え方、格式ばった言い方だと「経済的価値と社会的価値の両立」が、少なくともタブに限っては現実のものになっています。すばらしい。

■第4話「「その日暮らし」の力」より―SNSの利用目的に関する洞察

抜粋と要約
タンザニア商人のお話。自国だけでなく中国など海外とも行き来して、旺盛な商業活動を展開する。
彼らの間では「ずる賢さ」は価値である。
たとえば待ち合わせに敢えて遅れていく。「お前のコントロール下には入らないぞ」という意思表示であり、タンザニア商人にとっては当たり前である。
彼らは約束を時々敢えて破る。約束が相手と自分の関係を固定し、束縛することを知っているからである。調子に乗っている上司の命令は基本的に聞かない。しかし、上司が元気がない時は120%がんばって、元気づけてあげようとする。
タンザニア商人は、Facebook等のSNSを商売のために利用する。それ以外の目的はほぼない。商売に有益な情報を交換する。自身の仕事の実績を公開するのも、それが信用を生むからである。
日本では大半の人にとって、SNSの利用目的が「ない」。そのためSNSは往々にして自己顕示欲を満たすだけのツールになる。

日本人には「SNSの利用目的がない」というのは慧眼です。

だいぶ前どこかのWEBサイトで、「Facebookはおじさんの仕事自慢になっている」という趣旨の文言を見て、「なるほど若者はそういう風に思うのか(笑)、イタい投稿はしないように気を付けよう」と思ったものでした。

しかし、それは利用の目的の違いに過ぎない。いっそビジネス目的だとはっきりしているほうが潔く清々しい。

いわゆる「SNSづかれ」をしている人は、利用の目的が明確でないまま、なんとなく流されて使っている人が多いのではあるまいか。目的がないと、結局「いいね」やコメントの数だけが気になり、その数を稼ぐこと自体が目的化してしまう。

ビジネス目的のやりとりでも疲れることはもちろんあるでしょうが、それは従来の(オフラインの)コミュニケーションも同じことです。目的があってやっていることと、目的がないままやっていることでは、疲れ方が異なるはずです。

でも、仕事で約束を意図的に破られたらいやだな。

■あとがき

この本はあとがきも良かった。

もともとポッドキャストだったのを書籍化したものですが、ポッドキャストも本も「発信ではない」とのことです。

R&D活動であり、その副産物をついでに発信しているのである。

コクヨは創業100年を超す大企業だが、「誰のための道具を作っているのか、本当にそれを欲している人たちは誰なのか、確信をもつことが難しくなってきている。」それゆえ、「自身に染み付いてしまった文脈から離れ、もう一度、社会で起こっていることにセンスメイクするためのインターフェースを再構築することが必要だ」

(「」内は引用。「センスメイクするためのインターフェース」とかルー大柴みたいだが、そこは目をつむろう 笑)

言い換えれば、「旧来のオウンドメディアが発信に比重を置き」すぎて、外部から社内に新しいものを取り込む経路がない、という問題を解決するための活動の、ついでのアウトプットがこの本だそうです。

すばらしい。うちの会社でもなんかやろうかな。

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