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#エッセイ 記事まとめ

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noteに投稿されたエッセイをまとめていきます。
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2020年11月の記事一覧

バファリンくらいの優しさが欲しい

指先から新しいシャンプーの香り。指がそこにあることに気づいたのは何分か経ってから。 目の前の細く、小さな手は。いつも握ることをためらわせる。清潔じゃなきゃいけないような気がして。そんなほんの少しの緊張の糸に気づくと、ふみとどませるには十分で。 夢の中へゆっくりと溶けていくような、うっすらと明るい部屋であなたの息づかいに気づく。 かわききらない髪のつやめきが、たまらなく顔をうずめたくする。 白いキャンバスに毎夜繰り返されるその姿に一つとして同じものはなく、ただあなたが夢

感傷なんてもんじゃないけど

え?意外。二人は結婚するんだと思ってた。 午前二時、どこからか降ってきた声に抗うように、ニラを切る。ニラを切るのに必要ないくらいの力を込めて。ざく、ざく、ひとつに束ねられていても、ほら、いずれはバラバラじゃない。結局そうなんだよ。 ニラを切り終えて、玉葱の皮を剥く。鼻の奥がツンとする。持っているエネルギー全てを包丁を持つ右手に集中させて、玉葱を切る。ざく、ざく、五回ほど包丁をおろしたところでじわじわと涙が溢れる。ひとつを切り終える頃には、涙は頬を伝ってぼとぼととまな板にまで

インスタントな会話に、もう逃げない

「会食」と呼ばれる場所に顔を出すことが、昔からよくあった。 だいたい、その場所にはプロデューサーやキャスティングの権限がある人、「なんかよく分からないけれど偉い人」が沢山いた。 偉そうにしていて、実際に偉い人。 笑い声に嘘がまざっている人。 スノッブな雰囲気に流されている人もいた。 そういう人が十把一絡げに集まっている空間は、謎のエネルギーがある。 そういうオーラを浴びるだけでほんとうに苦痛で、だから私は「会食」と呼ばれるものが苦手だった。 しかし「その場所に染

サンタクロースは、いるんだよ。

それはまだ、私達姉妹が、サンタクロースを信じていた頃のお話。 ◇◇◇ 私が小学生になったばかりだったと思う。我が家でセキセイインコを飼い始めた。最初の二羽は、父がインコブリーダーの上司からもらってきた、水色のオスと黄緑色のメスだった。 なぜ、父の上司はインコブリーダーだったのだろう。事業所の敷地に鳥小屋をつくって、たくさん育てていた。私も父に連れられ事業所にお邪魔したときに、見せてもらったことがある。おおらかな時代だ。 二羽のうち、水色の、ちゅちゅくんと名付けたオスの

困った。読みたいことが分からない。

このタイトルは、実に罪だ。 0.1秒目は、「はっ!なるほど!」となれるのに、1秒後には頭を悩ませる。 読みたいってなんだ? 一体どれだけの人が、「俺、こんな文章読みたいんだよねぇ~」と説明できるだろうか。少なくとも、僕は説明できたこともないし、そもそもそんな感情を抱いたこともない。 だから、読みたい文章を書けばいいと言われても僕は分らなかった。 書こうと思って本を開いたのに、約一か月悩ませたこのタイトルに、やっと解決策をくれた救世主の言葉を借りて、僕なりの解を導き出

アシスタント時代に、やっておけばよかったこと

最近立て続けに、自分が文章を書いているときの頭の中の動きを、公開することが続いた。  先日はラジオトークさんのオフ会で、私のエッセイやコラムの書き方(フレームワーク)を公開し、 昨夜は宣伝会議さんで、私が「文章の書き方を教える」ことをどう捉えているかについて、話をさせてもらった。 私が、こんなふうに考えて文章を書いている、書くことをこう捉えていると、図解し見える化して伝えると、驚かれることも多い。 文章を書くことについては、私は、相当しつこくいろんなことを考えて

妙齢のひとりごと(大人になること)

かつての私にとって40歳以上の人はすごくしっかりとした大人だった。その年齢を超えた今精神的に大人になりきれているのかわからない。 大きい人と書いて「大人」と読む。肉体的には間違いなく大きいし(むしろ贅肉をとり小さくなりたい)、内臓もある程度の年数を使っているので疲労気味で人間ドックで引っかかることが多い。精神的な部分は数値化できないので実際のところはわからないが、大人になりすぎてしまった部分と、大人になりきれない部分の両方が混在しているような気がする。 大人になりすぎた私

幸せへの軌跡

昨晩、集まった人たちと別れてひとり帰路についたのは、あと1時間ほどで今日という奇跡的な一日が終わろうとしている時刻だった。 冷たい北風がワインでホロ酔いになった火照った頬に気持ちよく、最寄り駅から家までの夜道を大好きな藤井風の曲を聴きながらゆっくりと歩いた。 スコーンと抜けた真っ暗な高い空を見上げると、明るく輝く月がほぼ真上に浮かんでいる。空気は澄み渡り、上空の風が強いことを示すように月の周りを雲が早足で駆けてゆく。その神々しい姿をじっと見つめていると今日一日の出来事が次

見習いたい物事の捉え方

「生きてる限り、失敗するのは当たり前。」 常日頃からそう思っている私ですが。先日、盛大にやらかしてしまい落ち込む出来事がありました。 ことの発端は、とある平日の朝。いつものように洗濯物を洗濯機に放り込み、洗剤を入れてスイッチオン。洗濯を回してる間に諸々の家事をこなし。洗濯物を干そうと洗濯槽からピンク色のタオルを手に取ったところでピタリ、と動きが止まりました。 「…ピンク色?」 我が家にピンク色のタオルなんてあったっけ?いや、なかったはず。え?どういう事? 軽くパニッ

「鬼が来るよ」と息子に言わない

先日、友達の店に息子たちを連れて行ったら少し騒いでしまった。状況を落ち着かせようとしてくれたその友達が「うるさくすると、そのドアから鬼が出るんだよ〜」とおどかしたら、ふたりとも黙って硬直してしまった。 それに対し友人が「え?ごめん!言い過ぎたかな」と心配していて、そのとき「ごめんこの子たち、鬼が来るとか言われた事なくて耐性がないんだわ!」と私が笑って返したら、帰り道、謝罪のメールが来た。 「騒いではいけない理由をちゃんと伝えるべきだったのに、鬼のせいにして楽してしまった結

18歳差の恋愛において、大切なこと

ぼくの妻は18歳年上です。 出会った時から大切な人で、それは14年経った今も変わりません。むしろ、日を重ねるごとにその想いは強くなっていきます。彼女と出会って、ぼくは大きく変わりました。彼女が好きだった美術や陶磁器、花が大好きになりました。生きる姿勢、人への思いやり、想像力と共感力、誠実であるということ。 彼女の存在抜きに今のぼくは説明できません。彼女のことを誰よりも尊敬し、誰よりも愛おしく想っています。つよさも、よわさも、すべて含めて。 先日、「いい夫婦の日」に二人の

好きで好きで大好きで

むか〜しむかし、大好きな人がいました。 私が二十歳の時です。 あちらは確か一つ上だったかな?いや、3っつくらい?4っつ?わからんけどそのくらい年上でした。 ファッション業界に入って2年目。大好きなブランドの洋服に囲まれて毎日楽しくて楽しくて仕方がなかった。 その人は同じ商業施設の中で別の店にいました。一つ下の階、メンズフロアの憧れのブランドで店長をしていました。 ちょっと中性的な雰囲気とそのスレンダーな身体に繊細な着こなしがめちゃくちゃオシャレでいつも憧れて陰から見

綺麗になったねと爺さんが婆さんへ

 九月の仮決算から二ヶ月が経つというのに、心身の疲労が全く抜けなかった。  帰宅の電車ではスマホを見る気力もなく、呆然と外を眺めるばかりである。  家に帰るとすぐに自分の部屋に飛び込み、電気を消した。  そして夜明け前に目を覚ますと、同棲中の彼女が作ってくれた晩御飯をレンジで温め直して食べる。  そんな日をずっと繰り返していた。  「今度、温泉でも行こうよ」  憔悴した私の様子を見かねた彼女は色々と提案をしてくれた。  でも、どれもなんだがひどく億劫で、私は曖昧な返事をして

嫉妬の鬼だった私が、その気持ちを乗り越えて、穏やかに描き続けられるようになるまで

あの頃私は、嫉妬の鬼だった私には一時期、Twitterが見られない時期がありました。 なぜならそこには、売れてる漫画がじゃばじゃば流れてくるからです。 2018年、私は初めての連載漫画の打ち切りを経験しました。 それはもう、脳が焼けて、体の一部がもぎ取られるような苦しみでした。 SNSには、世の中のイケてる人たちの活躍が日夜怒濤の勢いで流れてきます。 打ちきりを経験し、心がもんのすごく参っている状態でそれを眺めるうちに、私の中にはモヤモヤと黒い気持ちが湧くようになりま