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110.わがままは愛の裏返し、 わがままは子どもの特権、 わがままは親孝行の証。

 たましいの居場所2.

もし、あなたがあと数か月の命だと医師から告げられたらどうしますか?

もし、あなたの大切な人が余命宣告を受けたらどうしますか?

あなたは他人事でいられますか?

あなたには娘さんがいますか?


亜音さん(仮名)、三六歳。
私の親友の娘さんのお話しです。

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©NPО japan copyright association Hiroaki

ある日、いつもの検診に出向きました。先月もガンの検査し何も問題がなかったのですが、突然背中が痛みだし改めて検査をするために病院に出向いたのです。

検査の結果は、全身の骨にガンが転移し、手の施しようのない状態だといわれました。

医師の診断は、「治せない…」、という結論でした。

家族にとっても突然の出来事ですからうろたえ、慌ててしまいました…。
治らなくても薬を投入する、それにより少しでも寿命が延びれば、わずかでも生きる事ができるのなら、ギリギリまで最善を尽くしたい…そう考えるのは誰も同じかもしれません。

このような話をすると、人は他人事のように、

「歳を取って死ぬのも、若くして死ぬのも同じ、人には寿命があるのだから」「延命治療など必要ない…自然のままでいい…」と悟ったようなことをいう人も多いのですが、現実はそう簡単ではありません。

それは去る人の気持ちと、残る人の気持ちがあるからです。

彼女は幼き頃から父や母の苦しみ、苦労を目の当たりに見て来ました。

小学生の女の子なのに、大好きなお父さんとお母さんを守ろうと、守り続けて来ました。それは、お父さんの経営していた会社が潰れ、債権者や取立人が厳しく、日々、残された病気のおじいちゃんと、おばあちゃんが対応していたからです。

生命の危険を感じた私は彼を逃がしました…

残念ながら。当時はそれ以外に彼を救う方法がなかったからです。

彼女はそのことを充分に理解できる子どもでした。
私は、彼女の子どもの頃からひたむきな姿を見てきました。


だから、絶対にお父さんやお母さんにわがままを絶対にいわない、心配かけないこと幼きながら感じていたのです。それがこの世に生んでくれて、育ててくれた恩返しだからです。

そして、年老いたおじいちゃんと、おばあちゃんを子どもながら守ろうと決心するのです。

彼女の夢は結婚して幸せになること、父や母を安心させて喜んでもらうこと、それが夢でした。

そして、可愛い孫を産んで家族一緒に写真に映ることでした。
その理由は子どもの頃、家族で一緒に写した写真が一枚もないからです。


友だち達は次々に結婚し、子どもを何人も授かり、彼女に見せます…。そのたびに早く自分もそうなりたいと願っていました…。
回りの人たちはみな孫自慢、きっと父や母も友人たちからの孫の誕生の喜びの話を聞きながら楽しみにしているはずです。

でも、人の幸せは自分に、不幸を与えてしまう場合もあります…。

孫ができない人、孫のいない人には孫自慢は失礼なことかもしれません。
孫のいる人たちはみな、孫自慢しながら、まだできないの?と催促します。
彼女にしてみれば、とてもプレッシャーを感じていたようです。

早くそのようになりたいと神さまに祈り続けていました。

しかし、結婚を前にして乳がんとなり、お婆ちゃんとお爺ちゃんは亡くなり、乳ガンを患いわずか一年後にそのガンは全身の骨に転移してしまいました…。

彼女の望みは、父や母に心配かけないこと、幸せな結婚をして安心させて、早く子供を産んでみんなで記念写真を撮ることだけでした。

他には何の望みはありません。

しかし、結婚式を中止し婚約者とは別れ、医師からの検査結果のあとすぐに入院をすることになりました。

気丈な彼女は一切の抗がん剤投与、薬を拒否していました…。

もう、二度とあのような苦しみを味わいたくなかったことと、医師から宣告によって、生きることを諦めたからです。

しかし、背中の痛みと急激な血液の不足が生じ、緊急で輸血するために入院を余儀なくされてしまったからです。


痛みに苦しむ我が子の姿、血液不足で苦しむその姿を見ていて、一切の治療を拒否したままではすみません…。

それは、娘がどのような希望を持ったとしても、現実はそれで終わるわけではないからです。患者本人の意志、それで良いのでしょうか?

そんなに患者は冷静に物事を判断できるのでしょうか?

できるわけがありませんよね。

それは、誰もが、たとえ医師が無理だと言っても、わずかな希望があるのなら、最善を尽くしたいと思うからです。
彼女は最終的に、父や母の願いを聞き入れ抗がん剤投与を始める決心をします…。残念ながら、病のことで両親に心配かけたくない、心配させたくないと思えば思うほど心配をかけてしまいました。

ある日、彼女は母を怒鳴りました…。

それはあまりにも心配するからです。

病院のベッドで物を投げつけたり、狂ったように怒り暴れました…。
母はその場で泣くだけしかありません…。

「もう病院には来ないでほしい…」、彼女はそう言い放ちます。

彼女には、どうしていいかわからないのです。


死ぬことは覚悟している、もう怖いことなどない…。
(実際に死を覚悟できる人などいませんが)延命治療も抗がん剤も薬も拒否したのに拘わらず、父や母はうろたえ、まだ諦めないよう説得します。

どうしたらいいのでしょう…。

彼女のできる事、それは怒ること、突き放すこと、それを選択しました…
どうしてって…


だって、悲しませたくないのに悲しませてしまうから…

父や母を感謝とともに見送るのではなく、見送られてしまうから…


こんな親不孝はないから、

こんな酷い娘なのだから、

わがままは愛の裏返し、
わがままは子どもの特権、
わがままは親孝行の証、

母は自分のせいだと責任を感じ、
娘は自分のせいだと信じ、
まるで噛みあわない愛情、

母は病院の外でひとり泣き続け、
娘は病院のベッドでひとり泣き続け、

泣き続ける事しか何もないのでしょうか…。


彼女は、病院の窓から外を見ると、駐車場には母の車が見え、その車の中には母がいる、決して動こうとしない母の姿を見続けていました…。
車の中から娘のいる病棟のわずかな光が見えます、そこには愛する一人娘がいます…。

その光を頼りに娘に語り続けている母がいます…。

運命に諦め、泣き続ける事しかないのでしょうか…。

彼女の脳裏は、いつも死ぬことだけを考え続けます…。
今までいつ死んでもいいと思って来ました…。
わずか三〇数年の人生を走馬灯のように鮮明に想い出させます。
自分は何のために生まれて来たのか、何のために生きて来たのか。
何も答えなどそこには存在しません…。

でも、思い出せば、いつもそこには、優しいお母さんとお父さんがいました。一緒にいた時間は少なかったけれど、嬉しかった想い出がありました。
とても幸せな日々がありました。

お父さんとお母さんに甘えました…。
お父さんとお母さんが喜んでくれました…。
よく覚えています。

それが彼女のしあわせ、
それが彼女の喜び、
あとは何もいらない、

今日もお母さんを怒ってしまいました。
何も私の気持ちをわかってくれないから、
もう、そんな顔しないでほしいから、
哀しそうな、心配な顔を見たくないから。


家に変えると母は一人で泣いていました…。
毎日毎日ただ泣き続けています…。

「…もう病院には行くな…」
夫は静かに妻にそういいました。

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私には亜音さんの気持ちが良くわかります。
私は、子ども時代の長い闘病生活に食べ物を受け付けなくなり、栄養失調となり全身が骨と皮だらけになりました。

身体中には管が刺さり、日々薬漬けの闘病生活の中で、誰を恨むこともできず、自分の病と自分を呪うことしか希望がなかったことを。

しかし、心配かけてはいけない、いい子でいなければいけない、わがままなどいってはいけない、と心に念ずるのですが、身体の苦しみは自分でコントロールできなくなり、たまに来る父や母を怒鳴り飛ばし、怒りで自分の気持ちを伝えることしかできなくなるのです…。

まるで精神の病のようでした。

日々、死と隣りあわせ、不安と恐怖で死ぬことしか考えられなくなるのです。そう、父や母を傷つけて来ましたが、それが唯一の甘える方法、わがままだったからです…。

彼女のわがままや怒りは、最後の甘えでした…。
私はその話を彼とその妻に伝えました。そして、甘えさせてほしい、わがままをいわせて、聞いてあげてほしい、と。

彼は翌日、仕事の帰りに病院に出向きました。
私も同席することになりました…。

娘はまだ怒り続け彼にも八つ当たりをします。

彼はひと通りの話を静かに聞いた後、その姿を見て、とても大きな声で怒鳴りました…。

「ばかやろう!ぐずぐずしているんじゃあない、いつまでも…」
娘は驚きました…。

「おまえはオレの娘だろ…大切な娘だ!負けるな、負けるんじゃない!しっかりと死んでみろ!誰がいうんだ、もう時間がないなんて、医師を呼べ、俺がはっきりといってやるから!」彼は、絶望だけを処方した医師に対して怒っていました。

このとき、彼は彼なりの娘の甘えとわがままを聞き入れたのです。

あまりの大声に驚いた看護師はすぐに医師に伝えました。
「先生、誰がもう無理だというのか?全身の骨に転移したら終わりなのか?娘は命をかけている、俺も命がけで話している、本当に、本当に駄目なのか…この場ではっきりいってくれ、そしてあんたたちは命がけで娘のことを考えられるのか…」

医師たちは下を向いていました…。

「先生、ダメなら一切の治療はいらない、娘もそういっている、だが、可能性があるのなら治療は望む、はっきりしてくれ、その答えによってはこのまま退院させたい…家に帰したい」

「…可能性はある、ただわずかです…」

「何の可能性なのか、わずかとはどのくらいなのか?」

医師は細かな説明を始めました…

「先生、俺にはそんな小難しい説明など聞いてもわからない…命をかけて娘を救うことを約束できるか、全力で治療できるのか…」
彼女はそばで泣き続けていました…

医師は
「やらしてください…最後まで…」
「命をかけれるか…」
「あらゆる可能性を考えて、対処します…」
「そんなんじゃあない!俺の娘を守れるか。救えるか、命をかけれるか、と聞いているんだ…。無理ならこのまま家に帰らせたい…」「やります…」
「よし、それなら抗がん剤治療を認める!それ以外のできる限りの治療をしてもらいたい…」
「はい…」


「いいか、愛音。どうせだめなら、諦めるな、俺は諦めていない、だからお前は、とことん生きろ!大丈夫だからな、いいか、愛音!」

「…はい」

 ここで彼は凄い言葉を吐きました…。

「いいか、愛音。お前はひとりじゃあない、心配することは何もない、恐れる事もない、お前に何かあったら俺はお前と一緒に死んでやるから、だから何も心配するな!先生、俺の命をかける、だからかけてくれ…」

一緒に死んであげる、なんていう言葉なのでしょう…。

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©NPО japan copyright association Hiroaki

親を死なせたいという娘がいるわけがない、しかし、彼の命がけの優しい言葉でした。すべてを受け入れて上げた言葉でした…。

父と医師たちの会話をそばで聞いていた彼女は命をかけて生きようと誓いました…。

父を死なせたくない…。

なんと、彼の激しい言葉なのでしょう…、

あのときに私にかけてくれた言葉と同じでした。
私が生きる希望を失ったとき、どうしょうもないとき、誰からも救いの手がないとき…。
「…死ぬな、生きろ!お前ならできる、俺のようにならないでほしい…」
あのときに私に言った言葉と同じでした。

私は、私の父が医師のいうことを聞かず、無理矢理、病院から退院したときの情景が浮かびました。「息子を治すことができないのなら、このまま死んでしまうのなら家に帰したい。私が息子を治して見せるから…」まさに、わたしの想いのすべて受け入れてくれたいのちの言葉でした。

帰りがけ、彼は私にこういいました。
「人間にはたましいがあるんだ、人間は肉体で生きるのではなく、たましいで生きている、たとえ肉体が駄目でもたましいで生きることができるんだから…」

そう、誰が人の寿命や余命を決めるのでしょうか?
医師が無理だといえば簡単に諦めてしまえば良いことなのでしょうか?
医師が無理だというのだから、もう年寄りだから何もしなくていい、などとそれはいのちに対する冒涜のような気がします。

できる限りのことをする。
できる範囲のことをする、
あらん限りのことをする、

それがいのちの本当の意味ではないのでしょうか?

そう、人にはたましいがあり、
たましいの居場所があるからです。


その後、彼女は一方的に別れた婚約者を呼びました。
彼には入院中、大切に飼っていた犬を預けることにしました。
その子は二人の大切な子ども(孫)だからです。

彼と妻と私の前で二人は二人で生きて行くことと、
父や母と共に生き続けることを宣誓しました…。

これは、世界で一番素晴らしい、結婚式の愛の誓いの言葉でした。
神父さまでもない私が立会人です。
たった六人の小さな式でした…。


きっと、きっと、たましいは奇跡を起こすはずです。
たましいは永遠のものだから。
たましいは互いを支え合うことができるものだから。

私と彼は、そう信じています。

そう、まだ何も終わっていないのだから、
そう、まだ何も始まっていないのだから。

2018年9月記

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coucouです、ごきげんよう!本内容は、~たましいの居場所1.「60.あなたの愛する子どもが、余命を宣告されたら、どうするのでしょうか?」の続編となります。

結末は残念ながら2019年11月3日に愛音ちゃんは天国に召されていきました。来月の11月3日で2年目となります。

私の親友は、「人間にはたましいがあるんだ、人間は肉体で生きるのではなく、たましいで生きている、たとえ肉体が駄目でもたましいで生きることができるんだから…」、そう言いました。

そう、人間にはたましいがある、たましいで生きることができる、私もそう信じています。



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coucou著「~たましいの居場所~愛音」より。本内容は10,000文字でもお話が足らず、一冊の電子書籍となりました。お時間のある方はお読みください。https://www.amazon.co.jp/dp/B08KCNZP9L/ref=cm_sw_em_r_mt_awdo_VZZXRDP5XYF3C199NSHS

ここまで、おつきあい感謝致します。

では、明日。

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