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186.私の若い頃はね、とても可愛くて人気者だったのよ!

夢売人⑤捨てセリフの男


こんにちは!

またまた、宝くじ売り場の「夢売り娘」のおばちゃんです。

 

私は若い頃、信用金庫の窓口嬢でした。結構、可愛くて人気者だったんですよ!私の旦那は、信用金庫の顧客でアプローチをかけて来た男です。

今考えると、まるでストーカーのようにしつこくつきまとい、同僚からも「あの人は注意した方がいいわよ!」と助言を貰っていたくらいです。店内に入れば私を探すような仕草で受付に順番を待つときも私の顔をじっと見ていたわ。

私は他のお客様と同様に笑顔でその男性を見つめたら、顔を赤らめて目を背けるのです。(本当は怒った顔で見返そうとしたのですが、ついつい営業スマイルになってしまいました)

でもね、可愛らしいなあ、と思ったのよ!だってね、しつこい割にはあまりにも純情クン。私と直接目を合わせられないストーカーなんて笑っちゃうでしょ!

©NPО japan copyright association Hiroaki

ある日、受付で私にクレームをつけるお客様がいて、上司まで同席する羽目となり、店内は他のお客様に迷惑がかかるくらい大声で怒鳴り始めたのです。「処理が遅い!」「時間がかかりすぎる」という理由でした。

 

店内で収拾が効かなくなり私が困り果てていたとき、そのストーカー男性は、「あなたのせいで待たされている。他のお客様だってあなたのせいで待たされて困っている、もういいかげんにしろ」と大声で怒鳴ったのでした。

そのクレーム客は驚いたのか、その言葉でおとなしくなり用事を済ませて「二度と来ないからな!」という捨てセリフを残して、その場を立ち去りました。

 

私はこのときにそのストーカー男性とお付き合い始め、やがて結婚をすることになりました。同僚たちは逆に応援してくれるようになったことも大きいかもしれません。

結婚後、一人娘が生まれたと同時にストーカー夫は癌に冒されて娘の結婚式にも出ることもできず、孫の顔も見ずに、この世を去りました。そしてその孫もいなくなりました。同僚や友だちが孫自慢するたびに胸が締め付けられるくらい悲しくなりますが、歳を重ねるということは沢山の人と別れを告げるときなのですね。

 

宝くじ売り場のバイトは未経験でも可能ではありますが、もと銀行等の金融機関経験者が優遇されやすくなります。

大金というほどではありませんが、5万円程度までのお金を扱うので(それ以上は銀行換金)お金の管理や釣り銭計算に慣れている人が求められます。

 

宝くじ売り場のバイトの時給はいくらぐらい?とよく聞かれますが、普通です。宝くじ売り場はほとんどがバイト、パートタイム等の時短勤務がメインとなっています。

私は七時間勤務で週2日だけの勤務ですから月給ベースで4~5万円程度いただいています。私の場合、金融機関経験者のため他の人よりも時給は多いかもしれません。また、緊急要員を兼ねていますので誰かが急に休む場合、週3日~4回の場合もあり、いつも待機しています。

売り場としては30代~60代程度の女性が多く、どちらかと言えば若手よりも中高年女性が多く勤務しており、2年3年と働いていくと若干ながら時給が上がっていく事もあります。

ただ、銀行と同じでクレーマーもいます。宝くじの場合は賭け事でもありますし、外れるだけでも文句をいう人もいます。売り場に長時間滞在し、宝くじ一枚で数百万、億単位の価値があるわけですから当然かもしれません。また中には酔っ払いや当選しなかった腹いせを売り場に文句付けてくる顧客もいたりなど、やはりお金を扱う職種だけにきつい部分もあります。もちろん、恐い場合もあります。一人きりの狭い売り場ですから逃げる訳にはいきません。

©NPО japan copyright association Hiroaki

 

ある日、いつものように宝くじが外れたことに対してクレームをつける人が来ました。

「おい、10万円も買ったのに当たりがないというのはどういうことか?インチキしているのじゃあないか?10万円だよ、10万、大金だ!あんた当たると言ったろ!どうしてくれる」

「お買い上げ下さりましてありがとうございます。でも申し訳ありませんが私どもにはどうすることもできません…」

「ふざけんじゃねえ、どうしてくれるんだ!」

このようなクレーマーは随分と経験してきましたがそれでもきついものです。

私はただお詫びを続ける以外ありませんし、お客さまがそのまま引き上げてもらう以外方法はありません。

「申し訳ありませんが、どうかお引き取り下さい。他のお客さまも並んでいますし、迷惑になりますので…」

「迷惑だと!」

なかなか終わりません。私はこのときに夫と孫の姿が浮かびました。もう、助けてくれる夫はいませんし、傍には上司も同僚もいないからです。そのとき、

「おい、いい加減にしろ!他の客が迷惑しているじゃあないか!」と、サラリーマン姿の男性が大声を出しました。

「何だよ!お前には関係ない、俺はこのばあさんと話しているだけだ!」

すると、並んでいた他のお客さまたちが一斉に声を張り上げました。

「出て行きなさい!」「おばさんが可哀想だろ!」「あんたは酷い」「人に迷惑をかけるな!」「警察を呼ぶぞ!」

実はお客様同士が争いとなり、私は警察に連絡することにしました。すぐそばの交番から二人の警察官がその男を交番に連れて行ったのです。信じられない事ですが、並んでいたお客様たちはみなで拍手しました。

クレーマーは「二度と買ってやらないからな!」と捨てセリフを残しました。

あれ、この言葉ってあのときの言葉と同じ…。

 

「おばちゃん、良かったな…」

「頑張れよ、おばちゃん…」と皆さんが言うのです。

そのときの私は涙でいっぱいでした。怖さではなく嬉しさからです。

残っていたお客様たちは続けて宝くじを買い求めてくれました。

私は泣きながら1枚1枚数えながら手渡しました。

 

「当りますように!」

「幸せでありますように!」と。

 

私は、あのときの夫が助けてくれたときのことを思い出しました。

純情くんで、おとなしいクレーマー。

せえ一杯に無理して、勇気を出した夫のことを。

 

「私はとても幸せです!」

そう、夫に伝えてやりました。

©NPО japan copyright association Hiroaki

coucouです。みなさん、ごきげんよう!「夢売り娘」シリーズは前6作となっています。すべて実話に基づいて作成されたものです。

160.私のような老婆でも、少しは世の中に役立つ場合もあるのかもしれないわ。
161.ああ、神さまなんて、この世にはいないのよ!
184.私はね、花売り娘、いえ夢売り娘です。
185.兄さん、兄さん、100万円、100万円当たったんだよ!
186.私の若い頃はね、とても可愛くて人気者だったのよ!
187.今日は私の最後の日、今日でお別れとなりました。



今日も、最後まで読んでくれて

みんな~

ありがとう~

今戸神社HPより

 「今戸神社」のある隅田川西岸の今戸地域は焼物に適した粘土が採取されたため、昔から今戸焼という焼き物が盛んでした。その今戸焼で招き猫がつくられていたため「招き猫発祥の地」として知られています。今では人とお金の縁を招く「縁(円)結び」のご利益で人気のパワースポットとなっています。

ADP(エーディーピー)社HPより
ADP(エーディーピー)社HPより  
 ADP(エーディーピー)社HPより

東京都墨田区の布製品専門のプリント工場 ADP(エーディーピー)社では、繰り返し使えるポリエステル製のマスクに印刷して製作。「今戸神社招き猫マスク」は境内の招き猫を。「秀じいなりきりマスク」のイラストはハロウィンジャンボ時に掲示している似顔絵看板を元にマスク用にデザインして販売している(一部宝くじ売り場にて配布中)。
HP:https://print-ya.com/

 

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