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最新3Dカメラを駆使し、小田原城を丸ごとVRコンテンツに!

今回は、ソーシャルイノベーション課でウェブコンテンツの制作を担当する、佐々木理子のインタビューをお届けします! 2022年の入社以来、佐々木が手がけているのは、近年注目されるバーチャルツアーのコンテンツです。360度画像の撮影と3Dモデルの作成ができるカメラを使い、建築物や文化財のデジタル化に取り組んでいます。そんな佐々木に、コンテンツ制作にまつわるエピソードや仕事に対する思いを聞きました。


半年かけて小田原市のVRツアーを撮影

――佐々木さんは普段、どんな仕事をしていますか?

■佐々木:私はウェブサイトのコンテンツ制作を行っていて、コンテンツの一部としてVRツアーというものを作っています。360度画像と3Dデータを取得し、それを組み合わせることによって建物や史跡の中をウォークスルーで見ることができます。
たとえばこちらが、当社が制作した福島県いわき市の「いわきデジタルミュージアム」のVRツアーです。その中の「中田横穴」を見てみましょうか。

画像:中田横穴(いわきデジタルミュージアム)

――おお! 自分が実際に内部に入ったような感じがしますね。

■佐々木:中田横穴は、古墳時代の彩色画が残る装飾横穴墓です。VRツアーでは実際に内部を歩いているような感覚で見学することができます。
このVRツアーの撮影に使っているのが、Matterport(マターポート)という機材です。

■佐々木:カメラを一周ぐるっと回転させて、360度画像を撮影します。画像の撮影と同時に、機材の上のセンサーから赤外線レーザーが出て、カメラから壁までの距離などを測量することができます。

■佐々木:3Dモデルを作成するために、「点群データ」というデータを取得します。黒く写っているところは柱などの死角なので、その部分の点群データも取る必要があります。位置を変えながら撮影して点群データを蓄積し、一つの空間の3Dモデルが出来上がるという形です。

――かなりたくさんの場所を撮影するんですね。

■佐々木:そうですね。施設の広さにもよるのですが、一番多い施設で約500か所の撮影をしたことがあります。小田原市の「おだわらデジタルミュージアム」のVRツアーで小田原城天守閣を撮影した時です。この時は、小田原に半年間住み込んで、小田原城のほか市内各所を撮影しました。

画像:おだわらデジタルミュージアムのトップ画面

――半年がかりですか! それだけの規模の撮影を経験してどう感じましたか?

■佐々木:小田原市全体の文化財を紹介するポータルサイトなので、撮影を通して小田原の魅力を広く知ることができました。
博物館の一つの役割として、所蔵する文化財をいろんな年齢層や属性の人たちに見てもらうことがあると思います。今回、VRツアーの制作を通して、そうした役割に貢献できたのかなと思います。

――博物館や自治体の方の立場としては、素晴らしい文化財の存在を多くの人に知ってほしいですもんね。

■佐々木:そうですね。デジタルコンテンツを通して文化財の魅力を多くの方に知ってもらうことは、すごく意味のあることだと思います。
ただその一方で、やはり現地で見ないと分からない「本物の迫力」というものがあると思っていて。VRツアーなどのコンテンツが、「自分の目で実物を見てみたい」という関心につながっていけばさらにいいと思います。自治体の方々もそういう目的を持って、ウェブサイトやデジタルミュージアムの制作に力を注いでいると思います。

アンモナイトの研究で感じた奥深さ

――話を変えまして、大学時代の専門分野など、佐々木さんの経歴を教えてください。

■佐々木:私は小さい頃から博物館に行くのが好きで、地元の博物館によく通っていました。主に化石に興味があり、将来は博物館に関わる仕事がしたいと思っていました。
そのため、大学では学芸員資格を取るための勉強に力を入れていました。その後、大学院への進学を考えた時に選んだのが、元から興味があった化石の勉強をすることです。アンモナイトの研究ができる大学院を選んで進学しました。

――そこからどのようにナカシャクリエイテブへの就職につながったのですか?

■佐々木:当初は学芸員として博物館で働くことを考えていたのですが、そうした働き方とは別に、企業の立場で博物館を支援する道もあると知りました。博物館関係の仕事をしている会社を探す中で、ナカシャクリエイテブを見つけました。 

――アンモナイトの研究というのはどういうことをしたんですか?

■佐々木:アンモナイトというとグルグルとした渦の形をイメージすると思いますが、あの部分はアンモナイトの殻です。アンモナイトは、成長するにつれて少しずつ殻を付け足して大きくなります。成長の記録が保存されている殻を調べることで、アンモナイトがどのような生き物だったかが分かります。

同じ種類のアンモナイトを何十・何百と調べて殻を計測し、その生き物の特徴を数値で表現し生態を明らかにする研究をしていました。

――化石からいろんなことが分かるんですね。

■佐々木:はい。今も生きている生物だったら生態を観察して情報を得ることができますが、アンモナイトは絶滅した生き物なので、化石からしか情報を得ることができません。そのわずかな情報から「どういう生き物だったのか」を調べていくところに面白さを感じていました。

――学生時代の経験が今の仕事にどうつながっていますか?

■佐々木:今は直接アンモナイトに関わる仕事はないのですが……。しいて言えば、いわき市アンモナイトセンターという施設があって、その施設のVRツアーを制作しました。

画像:アンモナイトセンター内化石包蔵地

■佐々木:VRを公開する前に、ちょうどこの場所の堆積環境に関する論文が出ていました。そういう事前知識があったので個人的には楽しかったです。
当社は文化財関連の仕事がメインですが、文化財に関する資料だけではなく自然史の資料を扱う機会もあります。そういう場面で私の知識が役立つこともあると思います。

「自然と人の関わり」をストーリー化する

――歴史に関する資料だけでなく、化石のように数千万年とか数億年前の資料も残していく必要があるわけですね。

■佐々木:そう思います。総合博物館など歴史に関する資料と自然史の資料を両方扱っている博物館は数多くあります。歴史と自然は学問上では別の分野ですが、一つのストーリーとして見てみると、そこに連続するものがあると思います。

――「連続する」というのは?

■佐々木:たとえば、扇状地では堆積面の隙間から湧き水が出ることがあるんですけど、その湧き水を利用してお酒造りが行われるなど、地形が人々の生活に影響することがあります。そういう「自然と人の関わり」みたいなことをうまく伝えられたらいいなと思いながら仕事をしています。

――NHKの「ブラタモリ」もそうですもんね。まちの歴史と地層が関わっているとか

■佐々木:そうですね。「大昔の火山活動でできた凝灰岩があり、その柔らかい岩石が加工しやすいため、街の歴史的建造物に使われている」といった関わり方ですね。
たとえばいわき市は、石炭が採れて炭鉱業が栄えていたまちです。石炭というのは大昔の植物が堆積して地中に埋まり、長い時間をかけて熱や圧力を受けることによって出来上がります。そうした地質的特徴が産業の基盤になって、まちが発展したということが言えると思います。

――なるほど! いわき市の自然環境が、産業や歴史にもつながっていると。

■佐々木:そのあたりを表現することは、当社でも数少ない自然史系の知見を持つ人間として、特に意識していきたい部分です。今後携わるコンテンツの中に、うまくストーリー化して紹介できたらいいなと思います。
たとえばデジタルミュージアムだと“モノ”ベースで紹介する場合がありますが、そのモノの背景とか、モノ同士の関連性とかをうまく伝えていけば、「歴史は好きだけど自然史のことは知らなかった」という人にも気づきを与えることができると思います。

――今の佐々木さんはそのためのベースを築いている感じでしょうか。

■佐々木:はい。入社2年目の今はVRツアーの撮影に関することなど、基本的な技術を積み重ねている段階です。次の段階として、撮影したものをどうやって効果的に見せるのか、どういう伝え方をしていくのか、ということを考えて仕事をしたいと思っています。分野横断的な表現の仕方を意識しながら、まち全体を魅力的に紹介する方法を提案できるようになりたいと思います。

文:堀場繁樹
写真:奥村要二