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エシカル消費の消費者価値ーエシカル消費研究会第3回レポート

こんにちは。「Tカードみんなのエシカルフードラボ」事務局です。
「Tカードみんなのエシカルフードラボ」では、食の領域を中心とした生活者のエシカル消費に関してさまざまな視点で研究開発し、その成果を発表していく「エシカル消費研究会」を立ち上げました。
2022年5月31日、流通・メーカー・専門家が一堂に会し、第3回の研究会をオンラインで開催しましたので、その様子をお伝えします。

前回の様子はこちら

第3回「エシカル消費研究会」の参加者 ※五十音順
・味の素株式会社
・株式会社こだわりや
・ハウス食品グループ本社株式会社、ハウス食品株式会社
・株式会社ファミリーマート
・明治ホールディングス株式会社
・河口真理子さん(立教大学・不二製油グループ本社株式会社)
・佐々木ひろこさん(一般社団法人Chefs for the Blue)
・中村優吾さん(九州大学大学院システム情報科学研究院 助教)
・山本謙治さん(株式会社グッドテーブルズ) 
ほか1社

1. エシカルに関する実態調査―「エシカル」認知率が昨年からアップー

昨年に続いて行った「エシカルに関する実態調査2022」の報告を行いました。「エシカル」の認知率は昨年から11.1ポイント上昇し、32.9%でした。
関連するワードで昨年からの変化が特に大きかったのは「SDGs」です。「SDGs」は82.8%と、昨年の52.2%から30.6ポイント上昇して認知率が8割を超えました。

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ですが具体的な事柄への関心や実践については昨年から大きな変化がなく、今後「知る」という段階から一歩進み、より実生活に沿った情報発信が求められる段階にあると考えられます。
今後も定期的に調査を行い、変化を追っていきます。

2. エシカルフードに関する消費者インタビュー

先ほどの調査では、広く定量的に実態を把握することを目的にしていました。
実態調査とは別に、消費者がエシカルフードに対しどのように感じているのか、その価値構造を定性的に把握するためインタビューを行いました。エシカルを意識して食品を買うことがある人に対し、1人60分の個別インタビューをオンラインで実施しました。

その結果、エシカルフードを買うことに対し、消費者の中で以下2つの便益があることがわかりました。
1. 自分に向けられる便益(利己の便益)
2. 他者に向けられる便益(利他の便益)

この場合の「他者」とは、人や組織(特に社会的に弱い立場にいる人や組織)、地域、または地球全体など、幅広くとらえられています。
例えば、包材に関して分解しやすい包材であったり過剰包装でない商品であることに対して、「自分に向けられる便益(利己の便益)」としては、面倒な分別が不要、ゴミ出しが楽、それによって生活が快適になる、といった事柄があります。
一方「他者に向けられる便益(利他の便益)」は、ゴミが減る、有害なガスが出ない、それによって環境によい、といった事柄があります。
どちらか片方だけが知覚されているのではなく、この両輪が揃ってはじめてエシカルフードの消費者便益が成り立っています。

また、「他者に向けられる便益(利他の便益)」が満たされることで、『社会貢献できる喜び』『ちょっと誰かの役にたてた満足感』などといった、情緒的な便益となって「自分に向けられる便益(利己の便益)」にも変換されていました。


これらの便益は、インタビューの中で、
1. 現在・短期的な視点
2. 未来・長期的な視点

の2つの時間軸とともに認識されていました。
「現在・短期的な視点」は、今現在に便益を享受できるものや、現在存在している課題の解決に繋がるものです。たとえば、おいしい、安い、ゴミ捨てが楽、といった利己的な便益の他、地域経済の活性化など利他的な便益もあります。
一方、「未来・長期的な視点」は、現在すぐに享受できる便益ではないが、将来的に発生する便益のことです。たとえば、将来の健康や、自分の子供たちが暮らしやすい環境の維持といった利己的な便益の他、気候変動への対処等すぐに効果の現れるものではない利他的な便益があります。


これらを整理すると、下の図のような4象限の消費者視点があります。

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消費者は、この象限のどこか1つのみを意識しているわけではなく、濃淡のグラデーションはありながら複数の領域を意識している人が多くみられました。
どの領域を強く意識しているかは個人ごとに異なり、さらに個人の中でも商品カテゴリによって異なると考えられます。


また、エシカルフードの購買に至るまでの段階として、以下のような構造が見られました。

エシカル消費研究会第3回レポート

バックグラウンドとして、生まれ育った環境の中での食習慣や養育者の考え方、学校教育からの知識の他、ライフステージの変化によって地方から都会に引っ越した時のギャップや一人暮らし、家族構成の変化など、生活環境からの価値観の変化があります。

そこからきっかけ、定着へと進むステップで二つのパターンが見られました。
ひとつは、仕事や天災、病気など偶発的な体験により自分事化したエシカルな課題を発見し、その課題に貢献する消費行動が定着するパターンです。
もうひとつは、利己の便益を理由に買っている商品が、実はエシカルな課題に貢献する商品である「利他の価値」もある商品だったことを知った時、自身の行動の承認・肯定が得られたと感じて消費行動が定着するパターンです。

今後エシカル消費の普及に向けては、フードチェーン全体の情報戦略によるバックグラウンドの強化、消費者価値のバランス設計、「利他の価値」を伝えるコミュニケーションなどが方策として考えられます

3. 参加者からのコメント 

実態調査、消費者インタビューを踏まえての、参加者からのコメントをご紹介します。

メーカー企業
・利己と利他の話は、この研究会の前から注目していた。消費者価値=お客様価値が大前提じゃないかと感じている。エシカルな商品で価格が高くなっても買おうとなる時、利他の価値が動機になるのか、人によっては利己の価値なのかが気になった。

・農産や畜産を原料として扱っている企業は森林破壊、児童労働、生物多様性が社会課題と考えるが、メーカーとしていかに社会課題としてわかりやすく解決して消費者価値を伝えていかないと、と改めて感じた。サスティナビリティをやっていても我々の自己満足になってしまい、お客様の価値観に結びつかないなと思った。

・本来の製品価値は生活者とって大事な視点と思いつつ、実は生産工場も環境的な取り組みもやっているのでどう伝えるかが課題だと思った。サスティナブルや環境にいいことをしていること自体それを理由に買ってもらうのは、難しいがどう伝えるかについて考えさせられた。
流通企業
・お客様と接する業種ではあるが、やはりエシカルだけではすぐに販売に結びつくわけではないことは理解している。そのままアピールするのではなくおいしさを含めて訴求できないと、今は受け入れていただけないと理解している。

・さりげなく買ったものがエシカルと気付くのは素晴らしいが、便益と味は、トレードオフはないというのはやっぱりそうかと思った。消費者は味と便益に妥協できないことを実感した。おしゃれやトレンドなどは、20、30代で、他の年代には刺さらないんだなとも思った、色んな立場や、ライフステージできっかけが違うこともよくわかった。

・刺さった言葉は「応援消費」。小売としてお客様に共感してもらわないと難しいので、ここをどうくすぐれるか?最初は、フルエシカルは難しいので、プチエシカルで週1や、月1でそこについて考えてみる、というのがやれることなのかな。気がついたら、プチエシカルが役に立つと気づいてもらい、このお店やるじゃん!というように、プチエシカルブームを作って、ムーブになるストーリーが小売のできることだと思った。
専門家
・利他的なことをすると、自分の満足度が上がる、つまり人間はいいことをするとドーパミンが発生する、幸せになると脳科学的に言われている。情緒じゃなくて自分として心地よいという、本人の満足度が高くなるという解釈の仕方もある。利己と利他が相反するということよりは、自己満足を高めるために利他をする考え方もあるかなと思った。

・先月の『ネイチャー人間行動』誌(https://www.nature.com/articles/s41562-021-01283-6)に掲載されていた内容で、これまで人生に意味をもたらす三要素として、
①目標があること、
②必要とされていること、
③社会と繋がっている実感、が基本とされていましたが、
④経験的感謝(=環境や状況に感謝する気持ち)が4つ目にして最も大切な要素であることが言及されていたようだ。自分ごととしての利他はストーリーとして展開できる可能性があると感じた。

・エシカルとSDGsの認知度と並べるとやっぱりそうなんだと思った。SDGsの国連の計画は政府広報や学校教育の政策の着実な成果だと思う、本来エシカルはSDGsの上位概念だと思うが曖昧に捉えられている。フェアトレードも利己的な部分が優先される傾向が垣間見れた。おいしさがないとダメというのも日本人的。北欧などは美味しさの前にエシカルということを言う人もいるわけなので、日本人らしく「消費者が一番偉い」という考えが根底にあると受けた。どう変化させるかはすごく難しいなと感じた。

・利他、利己の話がすごくそうだなと思った。私自身の活動とリンクさせると、ヨーロッパでエシカルが進んでいる国があるが結構まだら。イギリス、北欧、ドイツ、オランダは進んでいるが、スペイン、イタリア、フランスは遅れている。2つのグループの大きな違いは宗教。プロテスタントとカトリックの流派が違う。プロテスタントは利他の精神が強い傾向。カトリックの国は美味しさを重視する傾向。かなり日本とリンクしていると感じた。ヨーロッパの後発の国でも最近は昔ほど差が大きくないと言われているので、おそらく何らかの手立てを講じたのだと思う。その中で情緒的な便益を使っているかもしれない。その流れを研究することで何か見えてくるのではないか。

エシカル消費研究会では、今後、今回のインタビューで明らかになった事柄の検証を行い、「消費者へ向けてエシカルフードのどのような価値をどう伝えていくべきか」をテーマに研究を進めていく予定です。今後も進捗状況についてはこちらでレポートしていきます。



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