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初恋のすべて

母は私の字の下手さを見かねて書道教室に入れた。

はじめは新しいことばかりで楽しくて仕方なかったが、それも束の間。

動き回るのが好きな私には苦痛でしかなく、段々めんどくせぇなー…字なんか下手でも死ぬわけでもないしいいじゃないか!なんて頭の中で文句を言いながら惰性で通うようになっていった。

そんなとき私は彼に出会ってしまった。

彼は光の子供だった。

全身から自信をみなぎらせ、書道教室のしめった空気を吹き飛ばすような生命力を放ち私の前で止まった。

「よろしくな。」

そう言うと彼は自分の手を私に差し出した。

その瞬間私は落ちた。

その日の字は案の定ブレまくりでふわふわふわふわしていた。先生に何度も注意されたがそんなことは関係ない。

これからどうしよう。

子供だぞ!付き合うってのも変だ。でもこのままウズウズし続けるのか…そうするしかないのか…

なんて考えてるうちに6時になり、書道教室が終わった。

また彼は私の前に現れた。

「家どっち?」

「えっと…そっち」

「アホ、そっちってどっちや!」

あぁ好き…これが恋なのね…

「おい、聞いてんのか!!」

妄想の世界から帰ってきた私は彼に家の方向をちゃんと伝えたところ同じ方向だった。この瞬間は人生の中でかなり上位に入る嬉しさだった気がする。

そして私と彼は中学になるまで書道教室の帰りは一緒に帰ることになったのだった…

彼は学校でも光り輝いていた。

水泳の授業以外は…

そう…彼はカナヅチ。5メートルぐらいしか泳げない気がする。

なのに授業で25メートルプールの長辺に並んで向こう岸まで泳ぐとき私の耳元で「俺に合わせろ」と囁いた。

いやなんであわせなあかんねん!!合わせてなんの意味があるんや!なんか嬉しいけど意味わからんわ。と心の中で叫び散らしながら彼の後ろを潜水して追いかける私。

他にもあります。

学校の帰り道で「俺人相見れるんだよね。うーんとお前は…俺と同じだな」

いや同じってなんやねん!見れるなら結果をちゃんと教えてくれよ!

別の日は給食を取りに行く最中、何日か前怪我した右肘を軽くつねるんですよね。さわられるのはうれしいけどなんなんだよ!!結局その謎の行為は怪我が治るまで続きました。

また別の日は、彼に肩を叩かれて、なんか小さい頃って肩叩いて指ぷすってほっぺたに指すやつ流行りません?あれかな?やばい興奮してきたって思ったら硬いんですよねやけに。まさかの削ってない方の鉛筆。ふざけんなよ!!!!!!!!

本当にアホですね。そんなことされても好きでした。脈なんてゼロなのにね。

そんな悶々とした小学生時代も終わりを迎え、中学生になりました。

部活決めないとな。彼陸部に入るっぽいから陸部でええか。と軽いノリで入部。大会の時カメラで彼の写真を撮っていたことで先輩にバレてしまい、変に気を使われそれ以外にも色々あって退部しました。

なんなんだろ。つらいな…

辛いことって不思議と連鎖するんですよね。

その子が私の親友に恋をしてしまいました。

なんて…どうして…何がいいのよ…

何度も何度も自問自答を続けました。

私は何も言えませんでした。

こんなことなら早く言えばよかったのに…

貴方だけが私の光(癒やし)(希望)だったのに。

絶望にうちひかれながら私は普通の人間というレールから転げ落ちていきましたとさ。

めで…たくおわりません。

時は変わって一年前。私は19歳になりました。高校をやめカメラ屋でバイトに明け暮れる日々。

堕落しきった私のもとに再び光を放ち現れたのでした。

「証明写真撮ってよ」

狼狽しまくりました。と言っても表情には出ないタイプでかつ相手は鈍感王。多分バレてない(はず)

僕は震える手を抑えながら淡々とシャッターを切りました。

私だけがあなたを一番美しく撮れるはずなのに…何枚とっても駄目でした…

あのときは…写真写りが泣くほど悪いあなたをあんなにきれいに撮れたのに…おかしいよ…

心の中ではそう思っているのに私の体は決められた動きを震えながらこなすだけでした。

あぁ…また何も言い出せないまま終わるのかな…

いや…終わらせてなるものか。

「このあと空いてますか?」

考えるより先に口が動いてた。

少し時間があるようなので秒で着替え彼のもとに駆け寄った。

そして私達は海の見える道を雪見だいふく片手にしばらく歩いた。

きっと彼は一生間接キスに興奮してる私に気づかないまま死んでいくんだろうな…なんて意味のわからないことを考えながらうだうだ雑談を繰り広げた。

「俺さー童貞なんだよね」

えっ?なんでそれを(一応)女の子の私に言うの…えやっぱり女に見えない?それとも誰かから僕の片思いのこと聞いたのか?ほんとまじでふざけんなよ!!!

という頭の中の声を押し殺し「へー」というつまらない答えを返してしまった。

今だに「じゃあ…してみる?」とかいったらやれてたのかなって思ってることは彼には内緒にしてほしい。

こんなこと言われてしまったあとだからやっぱりこのあと続く雑談も全く身が入らずとうとう彼の目的地についてしまった。

「じゃあね」

「待って。今言わないと私死ぬまでこの気持ち引きずることになる」

「何?」

「あたし今のあなたも、昔のあなたもいいと思ってるよ」

「うん。じゃあね」

私の意気地なし。

一生お前が好きなんだな。

#部活の思い出


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藤原
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