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さるのうた

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詩歌です。霊長類はじめ動物を主題にした作品が多いです。
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【短歌連作】粉微塵――微塵の子Ⅱ

【短歌連作】粉微塵――微塵の子Ⅱ

ふたり暮らし。それは楽しいことだけじゃない。次第にぶつかり合うことも増えた。ぶつかった後、やり直すための時間が思うように取れないまま、すがりつくこともあった。

教育的配慮だったな。あの笑顔。あの励まし。あの、あれは、あなたの

一、換気。二、給湯器の主電源。三、継続は力。と、あなたは

内心で永平寺。と唱えていたらまるで永平寺なの。あなたが

遅くなります、返信は不要です、帰れない、変われないと

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【短歌連作】微塵の子

【短歌連作】微塵の子

一秒も惜しむあなたが明晰に湯を沸かす音で目覚める六時

いくつかの家財を捨てる アリバイはある 僕なりのその日暮らしの

寝室に物を置かない 寝室で布団畳めば広がる余白

目の前に落ちている塵片付けるあなたの指がただしく動く

真四角に服を畳めず生きてきたことに一緒になって気づいた

アイニージュー買えない愛のまぼろしを見わたすために百均へ行く

丁寧な暮らし(パンくず、髪の毛の束、指先の荒れ)と

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【短歌】羽根はなくても

【短歌】羽根はなくても

晴れたなら光が入るはずだろう津田沼パルコ曇天の下

大寒にケトル震わせ海竜の今際の声を放ちつつ朝

三万円 罰金刑に処せられるのも怖いから 束ねたら薔薇

ぬるま湯で溶いたじごくにまみれそう やわこく地獄、めんこく地獄

板橋と呼んでほとんど差し支えないほど北の、そうなの、来たの

さざんがく、さざんがくって唱えたら散々な夜にひらくさざんか

豆の数だけ歳を取り 鳩、ぼくら、よわよわしくていい、と

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【短歌・自選百首】幻猿図鑑

【短歌・自選百首】幻猿図鑑

むかしむかしあるところにはあるという愛を探した柴刈りでした

世界一美しい猿も水辺にてわれは猿だと思うだろうか

海獣の骨格だけが知っているかつて入江であった日のこと

パーで勝つ。パイン、パインと歩みよる。ち、よ、こ、れ、い、と、を、ぼくにください

翼よ、とリンドバーグになり切って指差す名無き街や街の灯

カテーテルつながれた駅 地下鉄も持病抱えて走り続ける

【取り急ぎ】【至急】【緊急】わく

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【動物園歌会ふたたび】徳山動物園吟行補遺/安佐動物公園吟行

【動物園歌会ふたたび】徳山動物園吟行補遺/安佐動物公園吟行

アカアシドゥクラングール世界一美しい猿も水辺にてわれは猿だと思うだろうか

サバンナシマウマ舎の鳩 しましまの脚の随(まにま)に藁を食む鳩の気持ちでつましく暮らす

徳山を発ち、広島に宿る。バスセンターから1時間ほど揺られて安佐動物公園に着く。徳山は歌会の共同主催者である友人とふたりで巡ったけど、安佐ではひとりだった。安佐動物公園は、いまはもういない僕に短歌を教えてくれたひとが「いつか行きたい」と

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【短歌】テレポーテーション

【短歌】テレポーテーション

こんにちは港 今度はテレポートしようよ鈍のトランク抱え

選ぶこと。欲求があることにだけ救われる日のカタログギフト

にんげんの形をたもつ(たもつだけ)みんな遠くて声はたのしげ

TKYKN 通知が来ても悟られぬように小声で呼ぶ、たくやくん、ねぇ

となり合うために電車でなくバスで行く 約十五分後ので行く

すーすーな飴を買いたい空港で 数年後には忘れる朝の

虫のような愛し方だったから虫のように

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【動物園歌会ふたたび】徳山動物園吟行(2022/9/24(土)実施) 

【動物園歌会ふたたび】徳山動物園吟行(2022/9/24(土)実施) 

 2022年9月24日。新幹線で山口県は周南市までやってきました。
 ようやく辿り着くことができた、という思いでした。

 
 昨年11月オンラインで開催した「動物園歌会」を、今度は実際に動物園に足を運んで実践したいという思いから立ち上がったこの企画。
 ことし1月に開催を予定していたものの、オミクロン株の拡大により断念。
 日程を再調整した上で「短歌修行」を行い準備していた8月も、オミクロン株の

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【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #9

【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #9

四十一日目
自由詠
フーコーの振り子 惑っているうちに紛れちゃうよほらいま、今だ行け うーたん

動物の説明を見ている父と動物を見ている子が並ぶ ぽめ

四十二日目

題「無花果」
秘すれば花 干し無花果と共に飲むビールがぬるい午後のまどろみ うーたん

題「風鈴」
風のない昼の神社に吊るされた風鈴の青まじまじと見る ぽめ

四十三日目

題「えて」
覚えてる?隣の庭のよく吠える大型犬がこわかった

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【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #8

【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #8

三十六日目
題「両」
両えくぼ欠けていく月満ちる月半分だけのほんの気遣い うーたん

題「月」
本棚に並ぶ詩集と哲学書きみと私が見る同じ月 ぽめ

 

三十七日目
題「戦争を止める方法」
戦争を止める方法 まずわたしそしてあなたと和解すること うーたん

題「牡蠣」
牡蠣殻に溜まった汁が美味しくて海に思想も教訓もない ぽめ

三十八日目
題「花火」
好きだってあとから気付く空が鳴るころにはスター

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【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #7

【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #7

三十一日目

題「んじゃう」
傷んじゃうから桃を剥く痛いのは桃じゃないのにささくれた指 うーたん

題「日曜日」
夏服のマネキン達の目の前を夏服の人通る日曜 ぽめ
 

三十二日目

題「おっぱい」
おっぱいを持たない蛙 ひんやりとして透き通る青白い胸 うーたん

命日だ胸の谷間に一筋の冷たい汗が流れた夏だ ぽめ

三十三日目

題「パンツ」
致命的にショートパンツが似合わないまま歩いてた 羽を拾

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【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #6

【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #6

二十六日目

題「海」
海獣の骨格だけが知っているかつて入江であった日のこと うーたん

題「船」
どこかからどこかへ向かう船の上はためいている火のような旗 ぽめ
 

二十七日

題「SDGs」
どうしたらゴール?倦怠期の日々も持続可能な開発目標 うーたん

題「逃」
シャボン玉割れて閉じ込められていた青が静かに空へと逃げる ぽめ

二十八日目

題「針」
避雷針付き発電機は問う、稲よ妻と呼ぶの

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【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #5

【動物園歌会ふたたび】短歌修行 いちにち一詠 #5


二十一日目
題「第一」
連絡先交換はいつも月面の第一歩 いつも進歩しないの うーたん

題「腕」
友達になろうよ腕に蚊の跡がおそろいになるまで話そうよ ぽめ
 

二十二日目

題「めっちゃ」
滅茶苦茶にしないで触れたくない過去もめっちゃさわれるタッチプールで うーたん

題「ぎん」
ぼろぼろの筆箱の内ポケットに忘れ去られた銀のエンゼル ぽめ

二十三日目

題「濾過」
美化委員だったあなたが濾

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