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ノスタルジア13(終) -ノスタルジア-

ノスタルジア1   ノスタルジア5   ノスタルジア9  
ノスタルジア2   ノスタルジア6   ノスタルジア10
ノスタルジア3   ノスタルジア7   ノスタルジア11
ノスタルジア4   ノスタルジア8   ノスタルジア12
ノスタルジア13



巨大な扉の奥。ハバナたちは入り口から部屋の様子を覗き込む。
部屋の奥は真っ暗で何もほとんど見えない。兵士たちは明かりを
準備し始める。シャムもショルダーバッグから懐中電灯を取り出す。

兵士「どうぞ」

兵士の一人がバッグから懐中電灯を取り出し、ハバナに手渡す。

ハバナ「ありがとう」

ハバナは懐中電灯のスイッチを入れ、それからあたりを照らす。
電灯の光が部屋の隅々を回っていく。

ハバナ「何かしら?」

懐中電灯の光が中央の巨大な台を捉える。
ハバナは巨大な台を照らしながら、台に向かってまっすぐ進んでいく。

シャム「足元に気をつけてください」

ルーとシャムはハバナの後に続く。
ハバナは台の前までやってくると、懐中電灯で照らしながら
台の隅々を調べ始める。
大きな台の上にはたくさんのボタンや画面が付いている。

ハバナ「すごい…」

ハバナはボタンに触れてみる。しかし機械の台は全く反応しない。
ハバナの背後から台を見つめるシャム。
ルーもハバナの背後から台をのぞき込む。

ルー「…」

ルーは台の上に無機質に並ぶボタンを見つめる。

ハバナ「ねえ、ルー」

ルーはハバナの方へ顔を向ける。

ハバナ「またお願いしてもいいかな?」

ハバナは台から少し退き、ルーに場所を譲る。
台の前に立つルー。ルーは台のに並んだスイッチを順番に押していく。
特に何の反応もない。

ハバナ「…」

ルーの手元を見つめるハバナとシャム。ルーは台の真ん中の
四角いへこみに目を向ける。へこみには半透明の板のようなものが
敷いてある。手袋を外し、板に手を乗せるルー。
ルーが手を乗せたのとほぼ同時に、かすかな電子音が響き、
部屋全体に明かりが灯る。

「…!」

誰かの息を飲む音が聞こえる。あたりを見回すハバナとシャム。
巨大な台と壁が広がっているだけのがらんとした無機質な部屋。

ハバナ「何かしら、あれ?」

ハバナは、部屋の奥が巨大なガラスのような透明な壁で
覆われているのに気がつく。ハバナはガラスの前に駆け寄る。

ルー「…」

台の前に立ったまま、ハバナの背中を見つめるルーとシャム。
ハバナは透明な壁までやってくるとその奥をのぞき込もうと試みる。
壁の内側は無機質で真っ黒でシャッターで覆われていて
その奥を確認することはできない。

ハバナ「これ、ガラスかしら?」

壁を叩くハバナ。ハバナの近くに集まる兵士たち。

兵士「絶対、奥に何かありますよ」

兵士の1人が呟く。
シャムは透明の壁を見つめていたが、やがてルーの方に顔を向ける。

シャム「ルー、私たちも近くに行こう」
ルー「うん…」

台のボタンをポチポチと押しながら気の無い返事を返すルー。

ルー「あっ」

ルーがボタンの一つに触れると、再び小さな電子音が響く。
機械がぶつかる無機質な音が響き、それからまるでカーテンを開けるように徐々に巨大なガラスの壁の奥にシャッターがスライドしてく。
ガラスの奥にあるものが徐々に姿を表す。

「…」

シャッターが開いていく様子を一心不乱に見つめる一同。

「あ…」

誰かが息を飲む音が部屋に響く。

シャム「これは…」

顔を青ざめながら呟くシャム。

ハバナ「……」

徐々に広がる光景を黙って見つめるハバナ。やがてポツリと呟く。

ハバナ「……生きてるの?」

ハバナは吸い込まれるようにガラスの壁に近づき、
そして手を置き、のぞき込む。
ガラスの向こうには無数の数の透明のカプセルが並んでいる。
何百、何千、何万個というカプセルは奥だけではなく、地下にも続つづき、先が全く見えず、まるで永遠に続いているかのように見える。
そしてカプセルの中にはルーと同じ姿の人たちが目を閉じて静かに
眠っている。無表情でカプセルを見つめるハバナ。カプセルの中の人たちの肺が上下するのが目に入る。

ハバナ「母さん…」

ハバナはぽつりとつぶやく。


***


ルー「…」
他の兵士たちと同様、ぽかんと口を開けながらカプセルを見つめるルー。

ルー「…!」

突然、ルーの顔に光が当たる。
我に帰り、台に顔をむけるルー。巨大な台の上でルーを誘導するように
点滅する一つのボタン。

ルー「…」

ルーはぼんやりした様子のまま、そっとボタンに触れる。
台から薄い小さな光があらわれ、そしてそれはルーの右手に向けて
まっすぐに発光する。

ルー「!」

光が当たるのと同時にルーの頭には、様々な映像が入ってくる。

ルーと同じ姿をした人たち。廃墟で仰向けに倒れている老人と
その老人に必死で呼びかける女性。逃げ惑う人々、その中には
小さい子供を抱きながら走る男性や病人を引率する人など。

場面が変わって照明が落ちた部屋。
部屋はひっくり返したように荒れ果てている。閉じ込められている
メガネの青年、必死に扉を叩き何かを叫んでいるが、扉の先は何の反応も
ない。男は近くで転がっている椅子を手に取り、扉に向けて思い切り
振り下ろすが、扉はビクともしない。男は諦めた表情で座り込むみ、
ふと後ろを見る。
背後には無造作に転がる白い大きなポッド。ポットの扉はハバナの部屋で
ガラクタと一緒に積まれていた円形状の物とうりふたつ。

建物の中。たくさんの人たちが不安げな表情で寄り添いながら、天井から
吊り下げられた大きな画面を見つめている。画面の横にはマイクのついた
教壇。教壇には複数の男女が立っていて、そのうちの一人がマイクを使って演説している。演説している人物がマイクを置いたのとほぼ同時に、
画面に数字が表れる。画面は次々と新しい数字を打ち出していく。
画面に表示された数字を見て、立ち上がる人。隣の人を抱きしめる人、
静かに泣き崩れる人など反応は様々。

たくさんの小さなポットが並んだ部屋。
順番にポットに入っていく人々。ポットの前で少年を抱きしめている女性。女性が離れると少年はポットの中へと入る。ポットの前で握手を交わす人など、他にも周りでは、たくさんの人たちが思い思いに動いている。

シャム「ルー!」

ルーは我にかえる。目の前には心配そうにルーを見つめるシャム。

シャム「…大丈夫?」
ルー「シャム…!」

ルーは突然シャムに飛びつき、そしてシャムの服をつかむ。

ルー「この人たちを助けないと!」
シャム「えっ…」
ルー「みんなまだ生きてる!」

ハバナは黙ってガラスの向こうのカプセルを見つめていたが、
ルーの声に振り返る。ハバナの周りの兵士たちがざわつきはじめる。

シャム「助けるって…」

シャムは困惑して少し後ずさる。

ルー「シャム!」

ルーは目を大きく見開き、必死の形相でシャムを見つめる。

シャム「…ちょっと待ってルー。その人たちを起こして、
そのあと、その人たちは…いや、私たちはどうなるの…?」

顔を背けるシャム。

シャム「 それにもっとよく調べてから…」
ルー「…ッ」

ルーはシャムから乱暴に手を離し、手袋を投げ捨て、
それから台の真ん中にある板に手を置く。

シャム「!」

ルーの手のひらを中心に台にに光の筋が走る。光は台だけではなく
部屋中を通っていく。
シャムは、一瞬呆気にとられていたが、すぐさまルーに手を伸ばす。

シャム「ルー、待って!」

シャムが腕がルーをつかむより早く、部屋が振動し大きく揺れうごく。
揺れに合わせてガラスの向こうのカプセルが次から次へと点灯し始める。
兵士たちから、困惑の声が漏れる。バランスを崩し、よろめき倒れる一同。

シャム「くっ…!」

シャムも同じように一瞬だけバランスを崩すが、すぐに姿勢を正し、前に立つルーに顔を向ける。

シャム「ルー…!」

ルーに向かって手を伸ばすシャム。
アリスの手がルーの肩に触れようとしたその時、突然、けたたましい銃声が鳴り響く。大きく吹き飛ぶルーの体。
ルーの手が台から離れたのと同時に部屋の振動が止まり、それから、
カプセルのランプは次々と消灯していく。

シャム「なっ!?」

シャムは驚いて声を上げ、銃声がした方へ振り返る。
そこには銃を構えているハバナ。銃口からは煙が出ている。

ハバナ「だ、だめ、それは…」

足をガタガタと震わせ、なんとかバランスを保った状態で
立っているハバナ。台のそばで俯けに倒れているルー。
少し離れた場所には吹き飛んだ帽子が落ちている。
ハバナの瞳に無機質な地面で倒れこんでいるルーの姿が映る。
体を震わせ、涙を浮かべながらハバナは小さな声で、とりつかれたように
ブツブツと呟き、ハバナは大きく手を震わせながら銃口をルーへと向ける。

ハバナ「わ、私は、私は、機械があれば、みんながもっと、
幸せになれると思って、それで、ずっと…」

手を震わせながらもハバナはトリガーに当てた指に力を込める。


***


巨大な扉の前で行進するバーマン一向。

バーマン「おお!」

開きっぱなしになった巨大な扉を見つけてバーマンは歓喜の声を上げる。
扉からは誰かのやり取りがかすかに聞こえる。
立ち止まるバーマン。バーマンに合わせて兵士たちも止まる。

バーマン「やはりな…思った通りだ。ついに追いついたぞ」

バーマンは勢いよく振り返り、兵士に指示を飛ばす。

バーマン「よーし行け! 全員、構わず取り押さえろ!
機械を回収するんだ!」

バーマンの声とともに兵士たちが次々と駆け足で扉に向かっていく。

ウエスト「おいおい…」

突進する兵士たちに混じりながら、眉をひそめるウエスト。

勢いよく内部に突入するバーマンの兵士たち。部屋には仰向けに
倒れているルーと。巨大なガラスの前で立ち尽くす兵士たち。
バーマンの部隊の兵士たちは様子がおかしいことに気がつき、
足を止め、お互いの顔を見合わせる。

ウエスト「ん?どうしたんだ?」

突然足を止めた兵士たちにウエストは不審そうに眉をひそめる。
兵士たちの間を抜けて、前に出るウエスト。

ウエスト「!」

ウエストは倒れているルーを見て目を見開く。

バーマン「お前ら、何をぐずぐずしてるんだ!」

扉から勢いよく、バーマンが現れる。
バーマンは扉付近で立ち尽くす兵士たちの間を割って前に出る。

バーマン「一体何をして…」

バーマンの目に、仰向けに倒れているルーと、
ルーに銃を向けるハバナが映る。

バーマン「ああ!? なんだ? どうした!?」

困惑した声を上げるバーマン。


***


シャム「博士!」

シャムが悲鳴に近い声を上げる。

ハバナ「う、動かないで!!」

震える声でハバナが叫ぶ。

シャム「…っ!」

シャムは怯んで少し後ずさる。

ハバナ「きっと、こうした方がいい…!」

ハバナは悲鳴のような声で叫ぶ。ハバナを見据えるシャム。
シャムの目に銃の引き金を引こうとするハバナが映る。

シャム「くっ…!」

シャムはルーの元へ駆け寄ろうと地面を蹴る。
再び響く銃声。
兵士たちの息を飲む音。


***


硬い物が床に転がりおちる音が響く。呆然とした表情で立ち尽くすハバナ。
ハバナの手に銃はなく、血がにじんでいる。ハバナから
少し離れた場所に転がる銃。

ハバナ「…」

ハバナは手を押さえながら放心したように膝をつく。

シャム「ルー!」

シャムはルーに駆け寄り、そして抱き上げる。
ルーの体を確認するシャム。ルーは気を失い、そして額には
擦り傷がついているが、他にこれといった怪我は見当たらない。

シャム「よかった…」

シャムは胸を撫で下ろす。
唖然とした様子で、シャムたちを見つめる兵士たち。
ルーを見つめながら、兵士の一人がつぶやく。

兵士「そっくりだ…」

その言葉を皮切りにざわつき始める兵士たち。兵士たちはルーと
ガラスの向こうの人達を見比べる。


***


同じく、バーマンの部下たちも動揺し、ざわめいている。
動揺する兵士たちの中に銃を構えているウエストの姿。銃口からは
煙が上がっている。兵士たちはウエストから距離をとる。
バーマンは兵士たちの間を割ってウエストの方へと向かう。

バーマン「何をやっているんだあ!!」
ウエスト「!」

バーマンはウエストに掴みかかる。ウエストから帽子が滑り落ちる。
目を見張るバーマン。

バーマン「貴様ァ!一体どうやってここに!」

声を荒げ、バーマンは首根っこを掴んだままウエストを引きずる。

バーマン「なぜ、貴様がここにいるんだ!?他の奴らはどこにいる!?」

ウエストを地面に叩きつけるバーマン。

ウエスト「ぐっ…!」

ウエストは素早く地面に手をつき、そして顔を上げる。
目の前には剣を引き抜くバーマン。
顔をしかめるウエスト。

ウエスト「こんなところで見つかるなんて、やっちまったな…」


***


シャム「!」

バーマンたちのただならない様子に気がつきシャムは視線を向ける。
そこにはウエストに向かって剣を突きつけるバーマン
シャムは急いでルーを床に寝かせ、立ち上がる。

シャム「お、おい! ちょっと待て!」

慌てて、バーマンたちの方へと足を向けるシャム。
ざわめくハバナの兵士たち。

シャム「!」

背後では、兵士たちが不審そうにルーを見つめていることに
シャムは気がつく。シャムは足を止め、背後を伺う。
ハバナの兵士たちはお互いの顔を見合わせながら、何かを話し、
そしてうなずきあう。ルーの方へと向かってくる兵士たち。

シャム「…」

シャム腰の剣へ手を伸ばす。


***


<監視カメラの視点>
争っているウエストとバーマン。そして二人を取り囲む
バーマンの部下たち。それからルーの前に立ちはだかるシャムと、
シャムたちの方へと向かうハバナの兵士たち、そして放心した様子で
座り込むハバナ。
それらがサーモグラフィーのような色で監視カメラに映る。
機械はルー以外のすべての人たちに標準をつける。


***


ウエストを掴み上げるバーマン。バーマンの手には剣が握られている。

ウエスト「う…!」

ウエストから呻くような声が漏れる。

シャム「…!」

シャムはバーマンたちの方へ顔を向ける。
シャムは腰の剣を握り、バーマンと背後の兵士を交互に見比べる。

突如、建物中に鳴り響く警報音。

シャム「!」

剣の柄から手を離すシャム。シャムは素早く周りを確認する。
同じく他の兵士たちもが動きを止め、辺りを見渡す。

バーマン「なんだあ!?」

バーマンもウエストを掴んだまま、キョロキョロと辺りを確認する。
ハバナだけが、何の反応も示さずぼんやりと床に座り込んでいる。


***


「あっ」

バーマンの部下の一人が、壁の一部が開いていくのに気がつく。

「なんだこれ…?」

空洞の周りに集まる数人の部下たち。

「…」
そのうちの一人が壁にできた空洞へと近づき、そして覗き込む。

「!」
「あ、おい!」

突然、奥へと引きずり込まれる兵士。
他の兵士が困惑した声を上げる。

一方、ハバナの部下たち。兵士たちはあたりを見回している。
バーマンたちがいる方向から悲鳴が上がる。
兵士たちはその方向へと一斉に顔を向ける。

「!」

背後で無機質な機械音が近づくのに気がつく一人の兵士。

「…?」
兵士は振り返り、背後を確認する。
背後の壁に空洞に気がつく兵士。兵士は目を細めながら、空洞に近づく。

「!?」

兵士の体が突然吹き飛ぶ。


***


シャム「…」
あちらこちらから上がる悲鳴。
ルーを庇うよう注意深く周りを確認するシャム。

シャム「…!」

壁の一部が開いていく様を、シャムの目が捉える。
壁からは次々と、機械の兵隊があられ、そのうちの数体がシャムの方へと
顔を向ける。

シャム「!?」

素早く剣を引き抜くシャム。シャムの剣と機械が衝突する。


***


バーマン「何が起こったァ!?」

部下たちの動揺する声が響く中、バーマンはウエストを掴んだまま、
あたりを見回す。バーマンの目にハバナの姿を捉える。
まっすぐハバナの方へと向かう機械の兵隊。
ハバナは腰を落としたまま、どこか遠くを見つめていて
背後の機械には気がつかない。

バーマン「!?」

ウエストを乱暴に放し、バーマンはハバナの方へと駆ける
げほげほと咳き込みながら膝をつくウエスト。

ウエスト「クッソ…」

ウエストはゼイゼイと息を切らせながらも顔を上げる。
少し離れたところに、倒れているルーとその周りで剣を構えるシャム。

ウエスト「…」

シャムたちを見つめるウエスト。


***


次々と壁のあらゆる箇所が開いていく。開いた壁からは、
ぞろぞろと機械の兵隊が現れる。目の前の兵士たちを
容赦なくなぎ払う機械の兵たち。
兵士たちから動揺する声が漏れる。

兵士「な、何だこいつら…?」

剣を引き抜く、構える兵士たち。


***


ぼんやりと座り込むハバナ。ハバナの背後から次々と現れる機械。
そのうちの一体が、ハバナをとらえる。

ハバナ「…」

機械の兵隊はハバナにゆっくりと迫りながら、銃口を向ける。

バーマン「博士ーッ!!」

機械の兵隊に突進するバーマン。
バーマンは機械の兵隊と共に勢いよく転がっていく。
光線はハバナを逸れ、上部へと駆け、そして天井で火花を散らす。

ハバナ「…!」

顔をあげ周りを見渡すハバナ。 
ハバナはバーマンと共に機械が転がっていった方へと振り返る。

バーマン「無事ですかあ、博士!?」

機械を押しのけ、立ち上がるバーマン。

ハバナ「バーマンさん…」

かすれた声でハバナが呟く。
バーマンは周りを見渡す。
周りではたくさんの機械が兵士たちを襲っている。

バーマン「何なんだ、この化け物共は…?」

バーマンは額に汗を滲ませながら、そして顔をしかめる。


***


シャム「くっ…!」
機械の兵隊が振り下ろした腕を剣で受け止めるシャム。
シャムは機械の腕を弾き、そして機械の兵隊に素早く剣を叩き込む。
しかし機械の装甲は厚く、刃は通らない。
再度、シャムに向かって腕を振り下ろす機械。

シャム「!」

シャムはそれよりも早く機械の兵隊のボディを蹴飛ばす。
兵隊はバランスを崩し、後ろに倒れ込む。シャムの背後からは
新たに現れる機械の兵隊。シャムは背後の兵隊に向かって剣を振る。
シャムの剣が機械の兵隊の腕の付け根に刺さる。
剣先を機械に突き刺したまま、勢いよく剣を回すシャム。
シャムの動きに合わせて機械の兵隊の腕が、ねじ曲がり、
そしてその腕はねじ切るように切断される。
腕を切断され、動きが鈍くなる機械。シャムはつかさず、
機械の足の付け根に剣をたたき込み、同じように勢いをつけて剣を回す。
バランスを崩し、倒れ込む機械。

シャム「…」

シャムは動かなくなったの機械を一瞥し、それから兵士達に向かって
声を張る。

シャム「みんな!ひとまず足を狙うんだ!」

シャムの背後で新たな機械の影が近づく。兵隊の手には銃が握られている。
シャムに銃口を向ける機械。

シャム「!」

シャムは地面を蹴り、兵隊の銃口に剣先向ける。
強い力で銃をはたき落される機械。銃を奪われた機械の兵隊は
代わりとばかりに、シャムに向かって腕を振り上る。
シャムは素早く蹴りを入れ、機械がよろけた隙に、剣を突き刺す。

シャム「…」

シャムは機械の兵隊が停止するのを見届けた後、
顔を上げ、周りを確認する。壁から絶え間なく、現れる機械たち。
そのうちの一体がルーに近づくのが見える。

シャム「くっ!」

ルーに向かって駆けるシャム。
シャムが届くのよりも一歩早く機械の兵隊が手がルーに伸びる。

シャム「!」

突然よろめく機械。続いて足が吹き飛び、機械の兵隊は崩れおちる。
振り返るアリス。そこには銃を構えた満身創痍のウエスト。

シャム「お前は…」

シャムは眉をひそめながらウエストに近づく。

シャム「なぜ、ここに?」
ウエスト「…そこのガキンチョにちょっと用があってね」

ルーに目を向けるウエスト。
シャムは眉をひそめ、そしてウエストに向かってまっすぐ剣を突き立てる。

ウエスト「いい!?」

反射的に目を閉じるウエスト。
アリスの剣はウエストの肩を抜け、背後の機械に突き刺さっている。

ウエスト「…」

目を開け、冷や汗をかきながら背後を確認するウエスト。
ウエストの背後で崩れおちる機械の兵隊。

シャム「話してる暇はなさそうだ」

シャムは機械から剣を引き抜く。
シャムたちの背後や隣からは、休む間もなく機械の兵隊たちが
出現している。

ウエスト「あ、おい、うしろっ」

シャムの背後を指差すウエスト。
ウエストが言い終わるよりも早くアリスは素早く、剣を回し、
次々と機械を破壊する。

ウエスト「…」
あんぐりと口をあけるウエスト、それから顔をしかめる。

ウエスト「うへえ、とんでもねえな」


***


機械の兵隊と戦う兵士たち。
協力して機会を破壊する者。
床に倒れ込み、生死が分からない者などもいる。

ハバナを庇うように剣を振るうバーマン。
ハバナとバーマンを取り囲む複数の機械たち。

バーマン「クソ… !」

バーマンは息を切らせながらも、次々と機械の兵隊たちを破壊していく。

バーマン「博士ェ!ワシからできるだけ離れんでくださいよ!」

振り返りハバナに安否を確認するバーマン。

ハバナ「…!?」

目を見開くハバナ。
機械の兵隊たちが一斉にバーマンに飛びかかるのが見える。

ハバナ「ひっ…!」
ハバナは小さく悲鳴をあげる。

バーマン「!」

あまりの量の機械に、圧倒されるバーマン。
バーマンを何とか機械の兵隊の攻撃を受けとめ、
破壊つつも、徐々に壁の方へと押されていく。

バーマン「おのれぇ…!」

壁際に追い詰められるバーマン。

ハバナ「…っ!」

バーマンと機械たちの様子を青ざめながら見つめるハバナ。
ハバナはあたりを見渡し、何か武器になりそうなものを探すが、
これといったものは見当たらない。

ハバナ「…」

ハバナは自身のポシェットに目を向ける。


***


バーマン「!」

バーマンに向かって武器を振り下ろす複数の機械たち。
バーマンは兵隊たちの攻撃を剣で受け止め、つかさず蹴りを入れる。
転倒する機械。同じ要領で機械たちを次々と転倒させていくバーマン。

バーマン「くそっ!」

すぐに起き上がる機械の兵隊たち。
バーマンは息をきらせながら、機械たちを睨みつけつつ、後ずさる。

バーマン「…」

バーマンの背中にガラスのように透明な壁が当たる。
横目で背後を確認するバーマン。

バーマン「なっ!?」

ガラスの向こうのカプセルで眠る、おびただし量の人間が
バーマンの目にうつる。バーマンは目を見開き、
そして倒れているルーを見る。ルーはカプセルの中にいる人たちと
同じ姿をしている。

バーマン「!」

バーマンに向かって飛びかかる機械。
剣を構え、慌てて受け止めるバーマン。

バーマン「…っ」

お互いの体を押し合う機械とバーマン。
バーマンは額に汗を滲ませながら、横目でルーを睨みつける。


***


壁から絶えず出てくる機械の兵隊。

シャム「…」

剣を構えながら、肩で息をするシャム。

ウエスト「きりがねえな」

ウエストは銃のエネルギーを確認する。

ウエスト「そろそろまずいな…」

息をきらせながら、呟くウエスト。

ウエスト「これは早いとこ、ルーと脱出したほうがよさそうだ…」

ウエストは足元のルーに目を向ける。

ルー「…」

ルーの顔は穏やかで、気を失っているというよりも、
深く眠りこんでいるように見える。


***


ゆっくりと目を開けるルー。
ルーは自分がベッドの上で眠っていることに気がつく。
起き上がり、周りを確認する。
ベッドの周りは見覚えのある家具で埋め尽くされている。

ルー「…」

ここが自分の家のだと気がつくルー。
ルーは周りを見回しながらベッドから降り、そして部屋から出る。

台所。
シンクの前でしゃがみこむ背中が見える。ルーにはその背中に見覚えがある。

ルー「おじいちゃん!」

背中に向かって駆け寄るルー。
かがみながら、巨大な白い円形状の機械を触る男。男は工具を床に置くと、立ち上がって振り返る。

ルー「…!」

驚いてあとずさるルー。
ルーの予想と反して、立ち上がった男は若い。大きなメガネが反射して
顔をよく見ることができない。

ルー「だ、誰…」

怯えた声で呟くルー。
男は訝しげにルーを見つめていたが、突然、破顔させる。

男「ルーじゃないか!」
ルー「…!」

目を見開くルー。
男はルーの様子には気も止めず、少しうつむき顎に指をあてて唸る。

男「…そうか、アクセスしたのか」
ルー「…」

若い男は、少しの間考え込んでいたが、やがて顔をあげ、
そして眉を下げる男。

男「ごめんなルー、ずっと留守番させてて…」
ルー「…」

ルーは用心深く男の顔を見つめる。

男「…」

若い男は、困ったように微笑みながらルーを見つめる。
しかし突然、思い立ったように声をあげ、そして前のめりになる。

男「あ、そうだ!まだ明るいし、外を見てきたらどうだい?」
ルー「外って…」
男「うんうん、そう、外!それがいい!行っておいでよ!」
ルー「…」
男「…ルーもいつも家で待ってるだけじゃ、退屈だろ?」

マイペースに微笑む男。

男「ね?」

ルーは根負けし、小さく頷く。

ルー「…うん」

男はにこにこしながら、ルーを玄関へと導く。
ゆっくりとノブを回し、玄関の扉を開く男。

ルー「…」

不安げに男を見つめるルー。

男「ーさあ、行ってらっしゃい!」

男はルーの背中をそっと押す。
ルーは男に促され、外へと足を踏み出す。

ルー「…!」

息を飲むルー。外には、青空と、そしてたくさんのモダンなビルが、
整頓され美しく立ち並んでいる。
足元の地面は全て綺麗に塗装されており、チリ一つ落ちていない。
太陽の光がビルの間から差し込み、ルーの顔を照らす。
荒野に覆われたメインクーンとは対照的に、
そこは明度が高くそして鮮やかな色で覆われている。

ルー「…」

ルーは目を細め、そして辺りを見回しながら、歩き始める。
ルーの隣を制服を着た少女がかけていく。恐る恐る、街の中を進むルー。
街には制服を着た少年少女や、スーツの人たちが行き交かっている。
服装こそは違えど、人々はみんなルーと同じ姿をしている。

ビルや店などが立ち並ぶ繁華街。
ルーはガラス張りのビルをそっと覗き込む。ビルには子供のための
おもちゃ、靴や服などが煌びやかに飾られている。
ガラスにそっと手を触れるルー。ガラスにルーの指が写りこみ、
おもちゃにルー影が重なる。

繁華街を抜け、やがてルーは噴水のある公園にたどり着く。
公園にはたくさんの木と花が咲きみだれ、そこではルーと同じぐらいの
子供たちが元気よく駆け回っている。
ルーは噴水の前に腰を下ろす。

ルー「…」

ぼんやりとうつむくルー。

「大丈夫?」

突然、頭上から声がかかる。

ルー「え?」

顔を上げるルー。
そこにはルーと同じぐらいの子供。

「具合悪いの?」
ルー「…」

ルーの顔を見つめる子供。

「…ここ寒いし、もう帰ったほうがいいよ」

子供はルーに手を差し出す。

「立てる?」
ルー「うん」

ルーは、その子供の手を取る。


***


ルー「…」

ゆっくりと目を開けるルー。高い天井と無機質な壁が広がっている。

ウエスト「おう、気がついたのか」
ルー「ウエスト…?」

ゆっくりと体を起こすルー。目の前には銃を構えるウエスト。

ウエスト「動けそうか…?」

ウエストはルーに手を差し出す。

ルー「うん」

ルーはウエストの手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
体を起こし、周りを見渡すルー。

ルー「…!」

ルーの目の前に広がる光景。
少し離れた場所で剣を構えるシャム。他の兵士たちも機械と戦っている。
兵士たちの中には地面に倒れ、全く動かない者たちも少なくない。
ルーは目を大きく見開き、そして苦々しく顔を歪ませる。

ルー「なにこれ…」

ルーは声を絞りだす。

ルー「…ねえウエスト、なにがあったの?」
ウエスト「…」

視線を落とすウエスト。

ウエスト「…どうやらこの遺跡を怒らせちまったみたいでな」
ルー「…」

ルーは顔を伏せ、立ち尽くす。

ルー「…」

そしてやがてルーは何かを決意したように顔を上げ、歩き始める。

ウエスト「あ、おい?」

困惑した声を上げるウエスト。ルーに向かって手を伸ばそうとするが、
機械の兵隊のがウエストに向かって突進する。ウエストは、ルーに伸ばした手を引っ込め、機械に銃を向ける。
大きな台に向かってまっすぐ足を進めるルー。


***


機械の兵隊たちと戦うシャム。
シャムはルーが自分の方に向かってきていることに気がつく。

シャム「ルー?気がついたのか?!」
ルー「…」

黙ったままシャムの隣を通りすぎるルー。

シャム「…?」

シャムは眉をひそめる。
シャムは腕をおろし、ルーの方へ顔を向ける。

シャム「ルー…?」

しかし、機械の兵隊は休む間もなくシャムに向かってくる。

シャム「くっ…!」

シャムはすぐに剣を構え、機械を受け止める。

シャム「ルーは何を…」


***


大きな台座の前。ルーは台の前に立ち止まり、深呼吸をする。
顔を上げ、ガラスの向こう側を見つめるルー。

ルー「…」

透明な壁の奥に並ぶ無数のポット。ガラスを隔てた向こう側は、
まるで別世界のように穏やかで静かに見える。
ルーは目をとじ、そっと台に手を乗せる。
ルーの手のひらを中心に台にに光の筋が集まる。
やがて光はルーの手のひらから発射されたかのように、
猛スピードで部屋中を通っていく。


***


機械の兵隊と戦うシャム。

シャム「!」

シャムに向かって腕を振り上げていた機械が突然、動きを止める。
機械の兵隊たちはそっと腕を下ろし、そしてシャムに背を向ける。

シャム「…」

剣を構えたまま動きを止めるシャム。
機械たちは、まるで何事もなかったかのように、静かに壁の中へと
戻っていく。アリスは立ち尽しながら、その様子を見守る。

一方、機械の兵隊たちと戦う兵士たち。

兵士「…!」

シャムの時と、同じように他の機械たちも次々と腕を下ろし、
どこか穏やかな様子で壁へと戻っていく。

兵士「…」

兵士たちは動きを止め、ぽかんとした様子で機械の兵隊たちを見つめる。
機械の兵たち達を収納し終えると、何事なかったかのように閉じる壁。

兵士「助かった…」

ぽつりと呟やく声が響く。


***


壁へと去っていく機械の背中を見つめるウエスト。
ウエストは機械たちから顔をそらし、そして銃を腰にしまいこむ。
それからウエストは、台の前に立つルーに視線を向ける。

ウエスト「…」

目を細めながら、ルーの背中を見つめるウエスト。


***


機械たちが立ち去った後、シャムは部屋の真ん中に設置された台の方へと
視線を向ける。シャムの瞳に台の前で手をかざすルーが映る。

シャム「ルー…!」

シャムは腕を下ろし、それから顔で歪ませて微笑む。
突然、シャムの近くを横切る影。

シャム「…?」

シャムは影の方へと顔を向ける。
そこには近寄り難いな空気を滲ませながら、腕を振り、
堂々した足取りで進むバーマン。

シャム「?」

シャムは不審げにバーマンの背中を見つめる。
バーマンの手には剣が握られている。


***


少し離れた場所からルーの背中を見つめるウエスト。

ウエスト「さて、早い事ズラからねえとまずいな…」

ウエストはポケットからタバコを一本取り出し、そして咥える。

ウエスト「ん?」

ウエストは、一つの大きな影が
まっすぐルーに向かっていることに気がつく。


***


徐々に閉じていくガラスの奥のシャッター。
やがてシャッターは閉まりきり、人々が収納されたポットは
全く見えなくなる。

ルー「…」

どこかぼんやりとしたその様子でガラスの壁を見つめるルー。
やがてルーは悲しげにうつむき、目の前の台を見つめる。
台には無数のボタンが規則ただしく並んでいる。
そっとスイッチに手を乗せるルー。

ルー「?」

突然、巨大な影がルーに落ちる。
顔を上げるルー。

ルー「!」

ルーの瞳に憎しみの形相で、剣を振り上げるバーマンの姿が映る。

ウエスト「…なッ!?」
シャム「待て!!」

ルーの耳に、シャムとウエスト声が響く。
ルーは強く目を閉じ、そして真っ暗になる。


***


ゆっくりと目をひらくルー。
足元には倒れこみ、気を失っているバーマン。

ルー「…」

ルーは、ゆっくりと顔を上げる。
バーマンの背後にはおもちゃの銃を構えたハバナ。
銃口からはボクシンググローブが伸びている。

ハバナ「…」

肩で息をするハバナ。やがてハバナの手からおもちゃの銃がこぼれ落ち、
ハバナは膝をつく。

ルー「ハバナ…」

台から離れ、ハバナの方へとルーは駆け寄る。
ルーの足音が部屋に響く。

ハバナ「行って!」

ハバナの鋭い声が部屋に響きわたる。
ハバナは顔を俯いたまま、そしてそっと出口を指差す。
肩を縮こませ、足を止めるルー。
ルーは遠慮がちにハバナの方へと手を伸ばす。

ルー「あのっ…」
ハバナ「早く!!」

声を荒げるハバナ。

ルー「…」

手を伸ばしたまま、眉を下げ、ハバナを見つめるルー。
ハバナは俯いているので、ルーにはハバナ表情を見ることができない。
行き場をなくしたルーの手が、背後から両手で包まれる。
ルーの手を握るシャム。

シャム「ルー」

シャムは優しく囁く。

シャム「行こう?」
ルー「…」

顔を上げ、シャムを見つめるルー。

シャム「…」

シャムはルーに向かって苦しげに微笑む。
やがてルーは小さく頷く。

ルー「…うん」

シャムはルーの手を引き、出口の方へと足を向ける。

「…」
シャム達の様子をぽかんとした表情で見つめる兵士達。
兵士達は固まったまま動かない。

ルー「…」

ルーはシャムに連れられながらも、何度か振り返り、
ハバナの姿を確認する。
透明な壁の前で1人小さくうずくまるハバナ。
やがてシャムとルーの姿は見えなくなる。


***


ルーの帽子を拾い、それからうずくまっているハバナに歩み寄るウエスト。
ウエストはハバナの隣で、透明な壁に目を向ける。
真っ黒なシャッターに覆われているため、もう中のカプセルを
見ることはできない。ウエストは壁を見つめたままつぶやく。

ウエスト「…なあ、これからどうするんだ?」

ハバナは顔を上げ、そして透明な壁を見る。

ハバナ「…」

ハバナは何も答えない。
ウエストは少し悲しげな表情でハバナを一瞥し、それから踵を返す。
ウエストには目もくれず、取り憑かれたように
ガラスの奥を見つめ続けるハバナ。


***


遺跡の前。遺跡の周りで作業する数名の兵士たち。
林の中を進むシャムとルー。その後に帽子を深く被った兵士が続く。

兵士「あ、シャム准士官、お疲れ様です!」

兵士の一人がシャムに声をかける。

シャム「…」

シャムは兵士に返事をせず、ただまっすぐ林の中を歩いていく。

兵士「…」

不思議そうに首をかしげる兵士。兵士はシャムとルー、その後につづく
帽子を深く被った兵士の後ろ姿を見つめる。
どんどん遠く、小さくなっていくシャム達。

兵士「…」

兵士は少し眉をひそめながらシャム達の背中を見つめていたが、
やがて自分の持ち場へと戻る。


***


遺跡から少し離れた茂みの中。車の中で待機している
ワイヤーとチャーリィ。
運転席に腰を下ろしながら、何度も時計を確認するチャーリィ。
ワイヤーは後部座席でそわそわとあたりを見回している。

ワイヤー「あっ」

突然、ワイヤーが声を上げる。茂みから現われるウエスト。
ウエストに続きルーとシャムも姿を表す。

ウエスト「…」

扉を開け、車へと乗り込むウエスト。

ワイヤー「ウエスト!それにルーも!よかった、無事だったんだな」

ワイヤーは明るい声を上げるが、
ルーを見た途端、気まずそうに視線を落とす。

ワイヤー「ルー」

うつむくワイヤー。

ワイヤー「えーとあのね…。ルーに謝りたいことあって。
ほらあの、メインクーンに捕まる前でのことなんだけど…。
えっと、あれはね、ただ初めて見たから、ちょっと驚いただけで…」

ルー「気にしてないよ」

ワイヤーに向かって微笑むルー。

ワイヤー「…!」

ワイヤーは顔をあげ、安心したように顔を綻ばせる。

ワイヤー「と、とにかく、ルーも早く車に乗りなよ!」

助手席に腰を下ろすウエスト。運転席で胸をなでおろすチャーリィ。

チャーリィ「はあ、無事に戻ってきて本当によかったわ…」

チャーリィはウエストに声をかける。

チャーリィ「ね、どうする?このまま一気にボルゾイまで逃げる?」
ウエスト「…」

ウエストの背後では後部座席に乗り込むルー。シャムもルーに続く。

チャーリィ「!」

驚いた表情でシャムを見つめるワイヤーとチャーリィ。
車に乗り込むシャムに、ワイヤー唖然としながらも奥へと詰める。
チャーリィは顔をしかめる。

チャーリィ「は? ちょっ…何なの、あんた?」

チャーリィは訝しげな視線でシャムを睨みつける。
静かに声を上げるウエスト。

ウエスト「ボルゾイには行かねえ」

あんぐりと口を開けるチャーリィ。

チャーリィ「ええ!?」

チャーリィはウエストに詰め寄る。

チャーリィ「ちょ、ちょっとウエスト!何言ってるの!?」
ウエスト「ルー」

ウエストはチャーリィには気をとめず、ルーに声をかける。

ウエスト「あのオルゴールを見せてもらってもいいか?」

ルーは一瞬きょとんとするが、すぐにポシェットに手を入れる。

ルー「あ」

ポシェットを漁る手を止めるルー。

ルー「オルゴール、シャムにあげちゃった」

ウエストは顔を真っ青にさせる。

ウエスト「な、なにぃ!?」

勢いよく立ち上がるウエスト。

ウエスト「シャム!?誰だそいつ!?」

ウエストはそう言って頭を抱え、そしてしゃがみこむ。

ウエスト「嘘だろっ…!」

ウエストの隣でチャーリィが叫ぶ。

チャーリィ「そんなことよりウエスト、
何がどうなってるのか説明してよ!?」
シャム「…」

シャムはキョトンとした様子でウエストとルーを交互に見た後、
自身のバッグに手を伸ばす。

シャム「これだろうか?」

シャムはバッグからオルゴールを取り出し、ウエストの前に差し出す。
顔を上げるウエスト。

ウエスト「あっ…」

オルゴールを確認し、ずるずると腰を深く落とすウエスト。

ウエスト「なんだ…」

ウエストは息を吐き、それから気をとりなおして、座り直す。

ウエスト「それ、ちょっと借りてもいいか?」

ウエストにオルゴールを手渡すシャム。
ウエストは箱形のオルゴールを受け取ると、胴体を回転させる。
真ん中で割れるオルゴール。その様子を食い入るように見つめる4人。
オルゴールの真ん中にはスイッチがある。スイッチを押すウエスト。
すると勢いよく立体映像が現れる。
立体映像には様々なアイコンが表示されている。

ルー「すごい…」

ルーが呟く。

ウエスト「見てろよ」

アイコンの1つをタップするウエスト。
アイコンが並べられた画像が機械の設計図に切り替わる。
映像をスワイプするウエスト、ウエストが指を走らせるたびに映像が
切り替わり、次々と新たな図面が現れる。4人は立体映像を見つめながら
感嘆した声を漏らす。ウエストは再びオルゴールの表面に触れ、
映像を閉じ、それからオルゴールを閉める。

ウエスト「ほらよ」

ルーに向かってオルゴールを放り投げるウエスト。ルーはオルゴールをキャッチし、それから手の上にある四角い機械を見つめる。
オルゴールを覗きこむワイヤーとシャム。

ウエスト「これを馬鹿正直にボルゾイに差し出すのはアホみたいだろ?
安値でブン取られて終わるぜ」

チャーリィが運転席で唸る。

チャーリィ「た、たしかに…」
ワイヤー「すごいや、ウエスト!
ねえ、これ一体どうやって見つけたんだな!?」
ウエスト「ああ、ほら、オルゴールを修理してる時に…」
チャーリィ「はあ!?」

前のめりになりウエストを睨みつけるチャーリィ。

チャーリィ「そんな前から知ってたの!?なんでずっと黙ってたのよ!?
というか、なんで馬鹿正直にオルゴール返してるのよー!!」

ウエストを睨みつけながら、チャーリィはため息をつく。

チャーリィ「まったく、おかしいと思ったのよ。
こんな危険を冒してまで遺跡に入ろうだなんて…」
ウエスト「取り戻してきたからいいだろ!それよりさっさと出発しろよ!
メインクーンのやつらに見つかったらどうする!」
チャーリィ「…」
不満そうに顔をしかめ、チャーリィはエンジンを入れる。

車が振動し始め、そしてゆっくりと前に発進していく。
茂みから徐々に車体が現れ、そして車が発進する。

ルー「…」

風の抵抗を受け、ルーの髪が揺れる。
徐々に車は遺跡から遠のいていく。

ウエスト「…お前さ、どこか行きたい場所とかある?」

ウエスト、振り返りルーを見つめる。

ルー「え?」

ルーは少しキョトンとした後、顔を伏せ考え込む。
やがてルーは顔をあげる。

ルー「…僕、どんなところがあるのか全然知らないや」
ワイヤー「じゃあ、◯◯(町の名前)なんてどうかな?
綺麗な海があって、美味しいものもたくさんあるんだな!」

顔をあげ、目を輝かせるルー。

ルー「行ってみたい…!」
シャム「◯◯(町の名前)ならメインクーンやボルゾイとは
何の縁もないから、ちょうど良いな」

頷くシャム。チャーリィはバックミラー越しにシャムを睨みつける。

チャーリィ「…というか、何であんたが一緒についてきてるのよ」
シャム「このオルゴールは私の物なのだが?」

チャーリィに向かって意地悪げに笑うシャム。

チャーリィ「…」

チャーリィは顔をしかめ、シャムを睨みつける。
シャムは澄ました顔でチャーリィを受け流す。

ウエスト「…そうだな。じゃ、ひとまずそこへ向かうか」

どんどん遺跡から離れて行く車。
ルーの顔に風が当たる。
ルーはふと振り返り、さっきまで自分がいた場所の方角を見つめる。
遺跡が眠る森をながめながらルーは、少し悲しげに眉を下げる。
遺跡の森はみるみる小さくなって行く。

ルー「…」

ルーは再び前を向き、そして目を閉じた。



(おわり)


ここまで読んでくれた方本当にありがとうございます!!
稚拙な文章ですが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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