見出し画像

ノスタルジア7 -ルーのオルゴール-

ノスタルジア1   ノスタルジア5   ノスタルジア9  
ノスタルジア2   ノスタルジア6   ノスタルジア10
ノスタルジア3   ノスタルジア7   ノスタルジア11
ノスタルジア4   ノスタルジア8   ノスタルジア12
ノスタルジア13


夜。林の中に駐車されている車。
車の近くには、たき火とその周りに無造作に置かれた荷物。
タープテントを張るウエスト。ルーは車の後部座席に座ったままぼんやりとその様子を眺めていたが、車のノブに手を伸ばす。
ガチャリという扉が開く音が響く。振り返るウエスト。
そこには車から降りようとしているルー。ウエストはルーの様子を
確認するとすぐに作業へ戻る。車から降り、ドアを閉めるルー。
林の奥からワイヤーとチャーリィが現れる。
ワイヤーは右手にバケツを持ち、チャーリィは両手に山菜を抱えている。

ウエスト「なんかあったか?」

ウエストは立ち上がり、二人に近づく。ルーも二人の方へと足を向ける。

ワイヤー「見てよ、ほら」

そう言ってワイヤーはバケツの中身を見せる。

ワイヤー「向こうに、小さい川があったんだな」

ウエストはバケツを覗き込み、それからため息をつく。

ウエスト「一匹だけかよ」


***


バケツをじっと見つめるルー。
ルーの視線に気がついたワイヤーは屈んで、バケツの中身を見せる。
バケツを覗きこむルー。バケツの中では一匹の魚が泳いでいる。
一方、チャーリィ抱えていた山菜をシートの上にばらまく。
ウエストはばら撒かれた山菜を確認する。

ウエスト「こっちも微妙だな」
チャーリィ「何よ、文句があるなら自分で探しに行けば」

チャーリィはウエストを睨みつけ、それから焚き火の方へと向かう。

ワイヤー「ねえ、魚は塩焼きにしようよ」

ワイヤーは地面にバケツを置き、立ち上がる。

ワイヤー「こんな風に棒を刺してさ」

そう言って串を刺すジェスチャーをするワイヤー。

ウエスト「アホか、それだと1人しか食べれないだろ」

ウエストは呆れた声を上げ、無造作に置かれていた荷物の中から
リュックを引っ張り上げる。チャックを開け、リュックの口を下に向け、
中身を地面にばら撒くウエスト。ルーはバケツを覗きこむのをやめ、
ウエストが地面にばら撒いた荷物に視線を向ける。
荷物には缶詰などの食料だけではなく、
銃口にボクシンググローブがついた銃が混ざっている。
ウエストはその中から缶詰を1つを掴み、ワイヤーに差し出す。

ウエスト「スープに入れろ」

ウエストはワイヤーに缶詰を渡すと、
気だるそうに張りかけのテントの方へと戻り、作業を再開させる。

ワイヤー「…」

ワイヤーは不満そうに口を尖らせウエストの背中を見つめていたが
やがてルーの方へと視線を向ける。
視線の先には、おもちゃの銃をじっと見つめるルーの姿。

ワイヤー「それはウエストが作ったんだよ」

ルーは顔を上げ、ワイヤーを見る。ワイヤーはおもちゃの銃を拾い、
そして銃口をたき火の隣で薪を切っているチャーリィの方へと向ける。

ワイヤー「見てて」

ワイヤーが引き金を引くと勢いよくグローブが発射され、
チャーリィの頭をかすめる。

チャーリィ「ちょっとぉ、危ないでしょ!」
チャーリィはルーたちの方へ振り返り、抗議の声をあげ、
そしてまた薪を切り始める。

チャーリィ「まったく…」

肩をすくめるワイヤー。

ワイヤー「ルーもやってみる?」

そう言ってワイヤーはルーにおもちゃの銃を渡す。
ルーは銃を受け取り、そして恐る恐る引き金を引く。

ルー「うわっ」

反動でよろめくルー。ルーは体勢を整え、銃口のグローブを確認し、
そして次は空に向けてグローブ発射させる。

ワイヤー「気に入った?」
ルー「うん…ウエストは他にも何か作るの?」
ワイヤー「作るよ!ウエストはこういうガラクタを作るのが得意なんだな」

得意げに鼻をならすワイヤー。

ルー「そうなんだ…」

ルーはおもちゃの銃を見つめる。ワイヤーをルーの様子を満足げに
眺めていたが、ふと思いたち、声を上げる。

ワイヤー「ねえウエストー!」
ウエスト「ああ?」

ウエストは作業する手を止め、ワイヤーの方へと振り返る。

ワイヤー「これルーにあげてもいいよね?」

ワイヤーはルーの手にあるおもちゃの銃を指差し、声を上げる。

ウエスト「好きにしろー」

面倒臭そうに答えるウエスト。
ワイヤーはルーに向かっていたずらっぽく笑う。

ワイヤー「くれるって」

ルーは頬を紅潮させ、おもちゃの銃を色々な角度から眺め始める。
ワイヤーはルーの様子に満足し、
そしてバケツを手に持ち、その場を後にする。


***


ルーは一心不乱におもちゃの銃を触っていたが、いつの間にか
ワイヤーがいなくなっていることに気がつく。周りを見回すルー。
ワイヤーは少し離れた場所に座りこんでいる。
ルーはワイヤーを見つけると、おもちゃの銃をポシェットにしまいこむ。
銃はルーのポシェットには少し大きいため、入りきらずはみ出る。

まな板の上に魚を置き、包丁を片手に唸るワイヤー。

ワイヤー「うーん、とりあえず頭を切ればいいかな?」

ワイヤーは背後に気配を感じ振り返る。

ワイヤー「あ、ルー」

ルーはじっとまな板の上の魚を見つめている。
ルー「…やってもいい?」
ワイヤー「えっ?」

そう言うとルーを手を出し、ワイヤーが包丁を手渡すのを待つ。

ワイヤー「でも、危ないし…」

オロオロすると視線を彷徨わすワイヤー。
ルーはワイヤーをじっと見つめている。

ルー「…」

ワイヤーはおずおずと包丁を渡し、体を退かせる。
ルーは包丁を受け取ると、まな板の前に立つ。そして手を置き、
魚に包丁の刃先をつける。

薪を抱えたチャーリィがルーとワイヤーの背後を通る。
チャーリィは二人の後ろを通りすぎようとするが、2人の様子が気になり、戻って後ろから覗き込む。

チャーリィ「へぇー」

チャーリィ感心した声を上げるが、ふと魚をおさえるルーの手元に
目がいく。ルーは手袋をつけたまま、包丁を握っている。

チャーリィ「…」

ワイヤーに顔を近づけ、小声で尋ねるチャーリィ。

チャーリィ「…ね、この子、手ぶくろは取らないの?」
ワイヤー「あ、うん。僕も取った方がいいって言ったんだけど、
でもルーは手袋がないと落ち着かないんだって」

チャーリィはルーの背中を見つめ、そして眉をひそめる。

チャーリィ「ふーん…」


***


鍋を囲む4人。
ウエストとチャーリィとワイヤーの3人は雑談している。
口にスプーンを運びながら黙って3人の話を聞いているルー。

ルー「ねぇ」

突然、ルーが声を上げる。
雑談をやめ、食事の手を止める3人。視線がルーへと集まる。

ルー「おじさんたちは、ボルゾイっていう悪い国から
メインクーンにやってきたんでしょ?」

顔を見合わせるウエストたち。

ワイヤー「たしかに、僕たちは悪党かもしれないけど…どうなんだろう?」
チャーリィ「子どもをさらわせてるんだから、悪い国なんじゃない?」

チャーリィとワイヤーが唸る。二人の様子を眺めるルー。

ウエスト「メインクーンもボルゾイも大差ねえだろ、
良いも悪いもあるかよ」

ルーはウエストの顔を見る。

ルー「ボルゾイは悪い国じゃないの?」
ウエスト「メインクーンは悪い国だと思うか?」

ウエストはルーをまっすぐ見据えながら問いかける。
ルーは少しうつむき考え込む。
ルーとウエストの様子を交互に見るチャーリィとワイヤー。

ルー「ううん」

ルーが顔を上げる。

ルー「思わないよ」
ウエスト「じゃあ、ボルゾイも悪い国じゃないな」

ルーはきょとんとした顔でウエストを見る。

ルー「…メインクーンとボルゾイは同じなの?」
ウエスト「そうだな…」

ウエストは顎に手をつき考える。

ウエスト「同じじゃないが、なんとなく似てるとは思うぜ。
…まあ、強いて違いを言うならボルゾイの方がはるかに田舎だな」

そう言うとウエストは食事を再開し始める。
ルーはぽかんとした顔でウエストを眺めていたが、やがてウエストと同じようにスプーンを動かしはじめる。

ルー「そうなんだ」

ルーは小さく呟く。


***


深夜。からっぽの鍋とその周りに散乱する食器。
たき火からはほんの少し離れたタープテントの下で
眠るチャーリィとワイヤー。
ルーは二人からは少し離れた場所で木にもたれ掛かって眠っている。
3人からは少し離れたところにある岩の上に座っているウエスト。
ウエストの膝の隣のには無造作にランプが置かれている。ランプの明かりを頼りにオルゴールを修理するウエスト。神妙な面持ちでオルゴールを
いじっていたが、やがて蓋を閉じネジをしめる。
ウエストは注意深くオルゴールを確認しながらそっとネジを回す。
オルゴールから小さな音が流れ始める。
ウエストは大きく息を吐き、そして立ち上がる。
眠っているルーのところへと向かい、それからルーの手元にオルゴールを
置こうとしゃがみむ。

ウエスト「こいつ、寝る時まで帽子をかぶってるのかよ」

そう言ってウエストはルーの帽子に手を伸ばす。

ウエスト「…」

目を見開くウエスト。
ウエストは静かに帽子をルーの頭へと戻す。


***


朝。荷物を車に詰めるウエストとワイヤー。
運転席でハンドルにもたれかかっているチャーリィ。
チャーリィは視線だけを動かして、車を見回しため息をつく。

チャーリィ「この車、本当にボルゾイまで持つのかしら….」

ルーは岩の上に座り、熱心にオルゴールを触っている。

ワイヤー「ルー!そろそろ行くよー」

ワイヤがルーに声をかける。ルーはオルゴールをポシェット詰める。
ルーのポシェットはおもちゃの銃とオルゴールのせいでパンパンに
膨れ上がっている。
ルーは岩から降りると、車へと駆け寄る。

ルー「あの」

助手席へ向かうウエストに、ルーは背後から声をかける。
振り返るウエスト。

ルー「オルゴール、ありがとう」
ウエスト「…」

ウエストは返事をする代わりに、神妙な顔つきでルーを見つめる。

ルー「…?」

首をかしげるルー。
ウエストはすぐに気を取り直し、踵を返す。

ウエスト「いや、何でもない」
ルー「…」

きょとんとした様子でウエストの背中を眺めるルー。

ワイヤー「ルーはこっちだよー」

ワイヤーが手を振りながらルーを催促する。


***


ルーが車に乗り込み、扉を閉めると、チャーリィはエンジンをかける。
車は発進し、昨晩キャンプした場所が遠くなっていく。
ルーは体を乗り出し、眺めていたがキャンプ跡地が見えなくなると、
前を向き座り直す。

ウエスト「なあ、ルー」

ウエストは助手席から声をかける。

ウエスト「お前、家族はいるのか?」

顔を上げるルー。ルーの目の前にはウエストの背中。ウエストはまっすぐ
前を向いたままルーに話しかけているので表情を読み取ることはできない。

ルー「おじいちゃんがいるよ。…ずっと前に死んじゃったけど」
ワイヤー「そうなんだ…」

ルーの隣で話を聞いていたワイヤーが困ったように肩を落とす。

ルー「おじいちゃん、ある日突然いなくなちゃったんだ」

小さな声で呟くように話すルー。

ルー「しばらくしてから、おじいちゃんが死んだっていう手紙が来て…」
ウエスト「…他に家族はいないのか?」
ルー「うん。おじいちゃんがいなくなってからは、ずっと1人だよ」
チャーリィ「えっ!アンタ、あそこに1人で暮らしてたの!?」

チャーリィが驚いてルーの方へと振り返る。チャーリィが前方から目を離したことでハンドルを握る手元が狂い、大きく揺れる車。

ウエスト「おい、何やってんだ!」

チャーリィは慌てて前を向き、ハンドルを持ち直す。
車がまっすぐ安定して進み始める。

ルー「…」

気まずい空気が流れ、静まり返る車内。エンジンの音だけが響く。

ルー「…ねえ、これから遺跡に行くの?」

沈黙を破り、隣に座るワイヤーに問いかけるルー。

ワイヤー「えっ?」

ワイヤーは驚いてルーの顔を見みたあと、口ごもる。

ワイヤー「あー…えっとぉ」
チャーリィ「…」

運転席ではチャーリィは顔を強張らせている。

ウエスト「遺跡には行かねえよ」

ルーの質問にウエストが答える。ウエストの方へ視線を向けるルー。
ウエストはまっすぐ前を向いているため、ルーには表情を読み取ることが
できない。

ウエスト「行くのはボルゾイだ」

ウエストはハッキリした口調で答える。

ルー「…そうなんだ」

落胆した声をもらすルー。
ワイヤーは少し身を乗り出し、会話に入り込む。

ワイヤー「…安心して!ボルゾイもメインクーンもそんなに変わらないし!」

明るい声を上げるワイヤー。

ワイヤー「きっと悪いようにはしないと思うから大丈夫なんだな!」
ルー「うん…」

ルーが小さく答え、そしてうつむく。

ワイヤー「…」

困ったように眉を下げるワイヤー。
呟くように助手席からウエストが声をあげる。

ウエスト「…お前は遺跡に興味があるのか?」

顔をあげるルー。ウエストは相変わらず、まっすぐ前を見ているので
ルーにはウエストの背中しか見えない。
少し考え込み、それから返事をするルー。

ルー「うん」
ウエスト「そうか」

そう言ったきり、黙りこむ二人。

ワイヤー「…」

ワイヤーはなんとなく気まずくなりルーとウエストを交互に見る。
それからポケットからお菓子を取り出しルーに差し出す。

ワイヤー「…あの、ルーもお菓子食べる?」

ワイヤーからお菓子を受け取るルー。ルーはお菓子かじり、
それから風景を眺める。ワイヤーはルーがお菓子をかじるのを確認すると、ポケットからもう一つお菓子を取り出し、自分も食べ始める。

ワイヤー「ルーは景色を見るのが好きだね」
ルー「うん」

ルーはお菓子を頬張りながら答える。


***


メインクーンの発掘拠点地。会議室。
小規模な部屋で机を囲むシャムとハバナとバーマン。
他にも数名の兵士が席につき、机には地図が広げられている。

バーマン「まだ見つからんのか!」

イライラした様子で怒鳴るバーマン。

兵士「国境周辺の町に駐在している者全員に連絡を取り、
すでに手配書を配らせました!」

兵士の中の一人が敬礼する。

兵士「新たな兵も捜索に向かわせております!」

兵士は緊張した面持ちでバーマンの顔色を伺う。

バーマン「まったく、忌々しいボルゾイめ…」

バーマンは兵士を一瞥し、それから椅子に深く座り、
シャムを横目で睨みつける。

バーマン「…本当に、あんな子供が遺跡の調査に必要なんだろうな?」

シャムはバーマンに顔を向けることなく淡々と答える。

シャム「どちらにしろ、ハバナ博士の甥っ子を
このまま放っておくわけにはいかないだろう」
バーマン「フン」

バーマンは鼻を鳴らし、それからハバナの方へと顔を向ける。

バーマン「しかし博士。大変言いづらいのですが、奴らがすでにメインクーンから出ていたらお手上げですぞ」

ハバナはバーマンの視線に気づかず、腕を組みただ黙って考え込んでいる。

ハバナ「…」

眉をひそめるバーマン。

バーマン「ハバナ博士」

突然、ハバナは顔を上げる。

ハバナ「…あの車、煙すごかった」

独り言のように呟くハバナ。

バーマン「…は?」

ハバナの突拍子もない発言に眉をひそめる一同。
机に手を置き立ち上がるハバナ。

ハバナ「ほら、ルーを連れ去ったあの車!」
バーマン「はあ」

困ったように息を吐くバーマン。
ハバナはバーマンの反応には全く気をとめず、話を続ける。

ハバナ「あれじゃあ、あと少ししか動かない思う」

シャムはハバナの方へと視線を向ける。

シャム「ルーを連れ去ったあの車は、
ボルゾイまで持ちそうにないですか?」

唸るハバナ。

ハバナ「私はそう思うけど…」

机に手をつき、勢いよく立ち上がるバーマン。

バーマン「つまり、連中はメインクーンからは
出れないということですか!」
ハバナ「…」

ハバナはバーマンの質問には答えず、黙って俯くがすぐに再び顔を上げる。

ハバナ「車が修理できるところはあるかしら?」
シャム「…修理ができるかどうかまではわかりませんが」

地図を見つめるシャム。

シャム「未回収のジャンク品を調達できて、そしてなおかつ国境付近の
町なら場所は限られてきますね…」

兵士「バーマン隊長!」

突然、部屋へと飛び込んでくる兵士。
一同は話を止め、兵士の方へと顔を向ける。
兵士に視線が集まる。

バーマン「何事だァ!?」

兵士の方へと一歩足を踏み出すバーマン。敬礼する兵士。

兵士「〇〇(町の名前)に駐在している兵士から、
例の3人に似た連中を見たという連絡がありました!」
バーマン「確かか?!」

バーマンは勢いよく前のめりになる。

シャム「〇〇(町の名前)…」

うつむき、逡巡するシャム。
シャムはすぐに顔をあげ、近くの兵士に声をかける。

シャム「▽▽▽区域の地図はあるだろうか?」

兵士は緊張したように、目を見開き、そして背筋を伸ばす。
不審そうにシャムと兵士を見つめるバーマン。

兵士「は、はい! しばしお待ちを!」

声をかけられた兵士は慌てて部屋から出て行き、
やがて地図を脇に抱えて戻って来る。机に地図を広げる兵士。
地図を覗き込むシャムにハバナ、そして数人の兵士たち。
バーマンは面白くなさそう眉をひそめたあと、同じように地図を覗き込む。
地図を見つめながら目を細めるシャム。

シャム「そうだな…」

シャムは考え込みながら地図の上で指を彷徨わせた後、
とある一点を指差す。シャムの指に集まる視線。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?