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ノスタルジア4 -夜に-

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ノスタルジア13


廊下。
背筋を伸ばし、少し険しい顔で一人で歩くシャム。シャムは前方から
二つの影が自分の方へ向かってくることに気がつく。ルーとハバナ。
軽い足取りで歩くハバナとその後に続くルー。
ルーは小さなポシェットを肩にかけている。
ルーはシャムに気がつき「あっ」と小さく声を漏らす。
シャムに駆け寄るハバナ。

ハバナ「あら、シャムさん!」

シャムは立ち止まり、ハバナに愛想笑いを浮かべる。

シャム「おつかれさまです、博士。何か良い収穫はありましたか?」
ハバナ「もちろん! ありがとうね、シャムさんのおかげで助かっちゃった」

ハバナは明るい声をあげ、シャムの手を取る。シャムは一瞬だけ
困ったような顔をするがすぐに笑顔になる。

シャム「それは良かったです」

ハバナはシャムから手を離す。

ハバナ「話も一通り終わったし、ちょうどシャムさんのところへ
伺おうとしていたところなのよ」
シャム「私もちょうどルーを迎えに行くところだったのですよ」
ハバナ「あら、そうなの!」

楽しそうに大げさな声を上げるハバナ。

ハバナ「良かったわ、行き違いにならなくて」

ハバナは振り返って背後のルーを確認し、
それからルーの後ろへと回り、肩に両手を置く。

ハバナ「じゃあね、ルー。また明日」

ハバナは、ルーをシャムの方へと押し出しながらルーのポシェットに
視線を向ける。ルーもハバナにつられて、ポシェットを見る。

ハバナ「それ、がんばってね」

そっとルーの耳元で囁き、それからハバナは踵を返す。
その姿を見送るルーとシャム。
ハバナの姿がほとんど見えなくなった頃、ルーが小さな声を出す。

ルー「あの…」

シャムはルーの方へと顔を向ける。目が合う二人。
ルーはすぐに視線をそらし顔を少し伏せ、片手でポシェット越しの
オルゴールを少しだけ力を込めて握る。

ルー「…」

シャムは少しの間だけルーの言葉を待っていたが、
やがてシャムの方から声をかける。

シャム「疲れたでしょ?」

顔を上げるルー。目の前には柔らかい笑みを浮かべたシャム。

シャム「今日はもう休んだ方がいい」

シャムは静かな声でルーに言う。
ルーは握った手の力を緩め、そしてポシェットをから手を離す。

ルー「…うん」
シャム「ルーの部屋があるから案内するね」
ルー「うん」

ルーは小さな声で返事をする。
シャムは少しだけ困った顔をするが、すぐに歩き始める。

シャム「ついてきて」

ルーはシャムの後に続く。


***


ゆっくりと音を立てて扉が開く。
シャムは扉を開いた後、ドアノブから手を離し、ルーに場所を譲る。
足を一歩踏み出し、扉の前に立つルー。

シャム「ここはルーの部屋だから。
ここにあるものは全部、好きに使ってね」

ルーは部屋を眺める。ベッドと机と椅子、それから窓があるこじんまりとした小さな部屋。床にはじゅんたんが敷かれている。ルーはうかがうようにシャムの顔を見る。シャムはルーに向かってにこりと優しく笑う。

シャム「隣は私の部屋なの。何かあったらいつでも来ていいからね」
ルー「…」

ゆっくりと慎重に部屋に足を踏み入れるルー。
ルーは部屋を見渡す。

シャム「それじゃあ、おやすみ」
シャムの方へ振り返るルー。そこには、今まさに扉を閉めるシャムの姿。

ルー「うん、おやすみ」

バタンと言う音と共に扉が閉まる。

ルー「…」

ルーはあらためて部屋を見回す。
物音ひとつなく、不気味なぐらい静かな部屋。
ルーは机の方へ行き、ポシェットを肩から外して、そしてそれを
椅子にかける。ルーはオルゴールをポシェット越しから少しだけ撫で、
そしてベッドへと潜る。


***


朝。廊下。
数人の部下を引き連れて行進するように歩くバーマン
扉の前で立ち止まり勢いよく開ける。
会議室。真ん中に大きな机が1個と椅子数個あるだけのシンプルな部屋。
ハバナを中心に、ルーとシャム、それから何人かの兵士が机を囲っている。
顔を上げるハバナたち。バーマンはどかどかと足を鳴らしながら入室し、
空いている席へと腰掛ける。
バーマンの後に続き、後ろで整列する部下たち。
バーマンはシャムとその隣に座るルーを一瞥する。不安そうにアリスの服の袖を掴むルー。

バーマン「なぜ会議に、シャム准士官が参加しているのだ?」

バーマンはシャムに厳しい視線を向け、それからルーに視線をうつす。

バーマン「それに、この子供は一体なんですかな?」

ルーは肩を震わせ少しうつむき、垂れ下がった前髪の間からバーマンを
覗き見る。目の前にはルーを睨みつけるバーマン。

ハバナ「その子はルーちゃんって言うの!」

ハバナの明るい声が上がる。
ハバナに顔を向けるバーマン。ルーも少しだけハバナの方へ目を向ける。

ハバナ「…それとシャムさんは、人手が必要だったから私が頼んで
ここに来てもらったのよ」
バーマン「…」

バーマンは顔をしかめる。

バーマン「なるほど。
で、そちらの子供は?シャム准士官の隠し子か何かか?」

不機嫌そうに尋ねるバーマン。

ハバナ「その子は明日の遺跡調査に同行してもらうために来てもらったの」

うつむくルー。シャムはルーの様子を横目で見る。

バーマン「はあ?!」

バーマンは乱暴に立ち上がる。
後ろで整列しているバーマンの部下たちが驚いて肩を震わせる。

バーマン「一体どういうことですか、ハバナ博士!
なぜ子供を遺跡に?この子供は一体誰なんです?」

声を荒げるバーマン。
ハバナはきょとんとし、それから考え込む。

ハバナ「…」

バーマンは厳しい顔でハバナを見据える。
ハバナは少しの間だけ考え込んでいたが、やがて小さく「あっ!」という声を上げ、それから顔を上げる。

ハバナ「ルーちゃんは私の従兄弟なのよ!」

明るい声を上げるハバナ。ハバナの言葉に驚いて顔を上げるルー。

ハバナ「ルーはね、私の1番弟子でなの。まだ小さいけど、でも、こう見えてとっても機械に詳しいのよ。ひょっとしたら遺跡を動かすための手がかりを
見つけられるかも知れないと思って、手伝いに来てもらったのよ」

バーマン「…」

唖然とするルー。シャムもルーの隣で少しだけ驚いた顔をしている。
ハバナはルーに視線を向け、そして舌を出していたずらっぽく笑う。

バーマン「…」

バーマン眉をひそめその様子を訝しげに眺めるが、
やがて不服そうにつぶやく。

バーマン「お言葉ですが。博士の従兄弟とはいえ、そんな小さな子供に
何かできるとは思えませんな」

なだめるようにハバナは答える。

ハバナ「ものはためしよ。子どもならでは視点って
案外バカにはできないでしょ?」

シャムはバーマンとハバナのやり取りを黙って聞いていたが、
突然、割って入る。

シャム「よろしいですか?」

シャムは静かな声で話し始める。

シャム「ここ最近、ボルゾイの一党と思われる不審な人物が
遺跡周り村目撃されているようですよ」
バーマン「なにィ!?」

両手を机に振り下ろし、立ち上がるバーマン。シャムは話を続ける。

シャム「ですから、調査を急いだ方がいいのでは。実際のところ、
我々は今行き詰まっています。ハバナ博士の言うようにあらゆる可能性を
試してみるのは悪くないでしょう」
バーマン「連中め、もう遺跡の話を嗅ぎつけたらしいな」

バーマンは忌々しそうに吐き捨てながら、腰を下ろす。

バーマン「もし万が一、ボルゾイに遺跡がわたれば危険だ!」

声を荒げるバーマン。
怒鳴り声に合わせて、バーマンの部下たちが肩をビクリと震わせる。
ルーは不安そうに話を聞いていたルーが、そっとシャムの袖を引っ張り、
そして小さな声でつぶやく。

シャム「遺跡は危険なものなの?」

声はルーが思ったよりも大きく響き、そして部屋は静まりかえる。
視線がルーに集まる。狼狽しうつむくルー。

ハバナ「そうね…」

ハバナがつぶやくように答える。

ハバナ「実際のところ、あの機械がどういう物なのか
まったく想像がつかないの」
バーマン「…あれだのけ大きさだ」

ハバナに続くバーマン。

バーマン「一体、中にどんなすごい機械が保管してあるのか…。
ひょっとすると、あの遺跡そのものが武器なのかも知れん」
ハバナ「それもなんだけど」

ハバナはうつむき、考え込む。

ハバナ「もし、あの遺跡が何らかの施設だったとしたら、
設計図のようなものが保管してある可能もあるわね」
バーマン「設計図ゥ?」

訝しげな声を上げるバーマン。ハバナの言葉に眉をひそめるシャム。
ハバナは構わず話を続ける。

シャム「そう、機械の設計図。もしそういったものが見つかれば、これからは発掘に頼らずに自分たちで機械を増やしていけるかもしれない…」
バーマン「おお!」

歓喜の声を上げるバーマン。

バーマン「ならば、ますますボルゾイに取られるわけにはいかん!」
ハバナ「そうね…」

ハバナは考え込みながら、心ここに在らずといった様子で返事をする。
嬉しそうに騒ぐバーマンを冷たい視線で眺めるシャム。
ルーは会議の様子をぼんやりと眺めなら、そして小さな声でつぶやく。

ルー「ボルゾイ…」

ルーの帽子に引っ付いたピンのようなものがキラリと光る。


***


ウエスト「……」

片耳にイヤホンをつけたウエスト。イヤホンのコードはウエストが手にした小さい箱形の機械へと繋がっている。
イヤホンからはハバナやバーマン声が聞こえる。

チャーリィ「どお?」

ウエストを覗き込むチャーリィ。

ウエスト「…」

ウエスト黙ってイヤホンを耳から外し、箱形の機械と一緒に丸め込むようにポケットへと突っ込む。
そして黙ったまま立ち上がり、ボロボロの車へと向かう。
チャーリィは一瞬不満げな顔をし、そして車の前に立つウエストへと
視線を向ける。

ウエスト「それまだ走れそうか?」

車に向かって問いかけるウエスト。
車体の下から、台車に仰向けで乗っかった状態のワイヤーが滑り出る。

ワイヤー「うーん、僕じゃちょっと手に負えないんだな」

そう言って台車から体を起こして立ち上がり、服のほこりを
叩いて払うワイヤー。ワイヤーの答えに顔をしかめるウエスト。

ウエスト「やれやれ」

ワイヤーの代わりに台車へ体を乗せると、ウエストは車体の下へと
潜り込む。ほどなくしてがちゃがちゃと金属がぶつかり合う音が車から
鳴りはじめる。ワイヤーはウエストの様子を不満げな表情で眺めているチャーリィの元へ歩き、そして隣にすわる。

ワイヤー「何か良い作戦が決まったの?」
車から視線を外すチャーリィ。

チャーリィ「さあ?」


***


夕方。発掘拠点地である建物。バルコニーのような場所。
ルーは浮かない表情で、一人で空を眺めている。

シャム「ルー」

呼ばれて振り返るルー。背後にはシャム。
シャムはゆっくりとルーの隣につき、手すりに腕をかけ、空を眺める。
ルー少しだけシャムの顔を眺めていたが、やがて外へと視線を戻す。

ルー「…」
無言で空を眺めるルー。オレンジ色の空とだだっ広い野原が広がっている。

シャム「…ルーは明日、遺跡に行くのが不安?」

シャムがうかがうように尋ねる。
ルーは視線を落とし、小さな声で答える。

ルー「うん…」

シャムは外の風景に視線を向けたまま話を続ける。

シャム「…もう知ってると思うけど、
もしもボルゾイに遺跡が渡ったら大変なことになるんだ」
ルー「…」

ルーは俯いたまま何も答えない。

ルー「ルーの力をかしてほしい」

シャムは空を顔を向けたまま、はっきりした口調で言う。

シャム「…」
ルー「それに、もし何かあっても、ルーにはハバナ博士やメインクーンの
人たちがついてるから大丈夫」

シャムは少し俯き、そしてやわらかい声で小さく告げる。

シャム「それから私も」

シャムの方へ顔を上げるルー、そして小さな声で返事をする。

ルー「うん」

***

深夜。発掘拠点地である建物。
建物に寄り添うように駐車されている車。
車のボンネットからは少しだけ煙が上がっている。

チャーリィ「大丈夫なのかしら、これ」

チャーリィ運転席からボンネットを眺めながらつぶやき、そして助手席に
視線を落とす。助手席には簡単に修理されたマジックハンドのような
おもちゃ(が無造作に置かれている。

チャーリィ「こっちもボロボロだし…」

スマートフォンのような四角い機械を手に持ちながら建物の塀の近くに
立つウエスト。
ウエストは真っ黒なウェットスーツとベルトを着用している。

ウエスト「…やっぱりこのあたりが一番近そうだな」

ウエストは手の中の機械を確認する。画面上では小さな光が点滅している。
建物を見上げるウエスト、バルコニーと窓が見える。

ウエスト「おい、そろそろ行くぞ」
ワイヤー「ちょっと待って、なんか服がきつくて…」

車の後部座席でごそごそと動くワイヤー。

ウエスト「早くしろよ」

ウエストは淡々と返事をし、それから腰のベルトに引っ掛けて
ある変わった形の銃を取り出す。銃の発射口には吸盤のようなもの
がセットされている。ウエストは銃口を自分の方に向け、
人差し指で吸盤に触れる。ウエストは吸盤から指を離そうとするが、
吸盤は指に強く引っ付き、伸びるだけで全くはがれない。

ウエスト「おおっと」

力を入れて勢いよく腕を引くウエスト、指が吸盤から剥がれる。

ワイヤー「お待たせー」

ウエストの隣に駆け寄るワイヤー。
ワイヤーはウエストと同じ格好をしている。

ワイヤー「まったく、きついし、着づらいし、
この服、嫌になっちゃうよ…」

ワイヤーは腰回りの布を引っ張りながら不満そうにつぶやく。

ウエスト「何も忘れてないよな?」

横目でワイヤーを確認するウエスト。
ワイヤー「大丈夫」

ワイヤーはにっこりと笑い、腰のベルトから吸盤のついた銃を取り出す。

ウエスト「んじゃあ、行くぞ」

ウエストは腕を高く上げ、堀に銃を向ける。


***


ルーの部屋。
ルーは窓に顔を向け、ベッドに潜っているが眠れないでいる。
反対側に寝返りをうつルー。小さな机と椅子が目に入る。
ルーはベッドの中から椅子にかかったポシェットを眺める。
ルーは起き上がりベッドから降りて、机に向かう。
ポシェットからオルゴールを取り出し、そして机の上にオルゴールを置く。
ルーは慎重な手つきで少しだけ、オルゴールのネジを回す。
ルーの手つきに合わせてカチカチと言う音が鳴り響き、手を離したのと
同時に消え入りそうなほど小さな音楽がオルゴールからゆっくりと
流れ始める。目を細めながらオルゴールを眺めるルー。
そこへ、突然ガタンという物音が部屋に響く。
ルーは慌ててオルゴールをポシェットへとしまい、
ポシェットを椅子へとかける。そして上半身を傾け、扉を確認する。
扉の隙間からは光一つ漏れておらず、静まりかえっている。
ほっと息を吐くルー。そして再びポシェットへと視線を戻す、
しかし、それとほぼ同時にルー背後の暗闇から手が伸びる。

ルー「!?」

両手で腰を掴まれ、闇へと引きずられるルー。驚いたルーは
とっさに椅子にかかったポシェットの紐を掴む。
ポシェットは椅子の背もたれを引っ張っぱり、そして、がしゃんとけたたましい音を立てて、椅子が倒れる。

ウエスト「やばいっ」

ルーを脇にかかえながら声を上げるウエスト。
ルーの右手からはポシェットがぶら下がっている。


***


シャムの部屋。
ルーの部屋と似ているが少しだけ部屋が広い。
仰向けでベッドに眠るシャムの目が勢いよく開く。
シャムは飛び起き、ルーの部屋がある壁に耳をあてる。
ルー部屋からはわずかだが、ガタガタという音が鳴り響いている。
シャムは乱暴に窓を開き、下を見る。
建物の近くに駐車されたウエストたちの車。
シャムはすぐさまベッドから飛び降り、机の上に無造作に置いてある剣をひっつかんで、部屋を飛び出す。

ルーの部屋。
バルコニーの柱に結び付けられた長いロープを引っ張り強度を
確認するワイヤー。ウエストがルーと一緒にバルコニーへ出てくる。
ルーはガムテープのようなもので口を塞がれた状態でウエストに
抱えられている。ルーの肩にはポシェットかけられている。

ワイヤー「うん、いけると思うよ」

ワイヤーはウエストに顔を向けのんびりとした口調で話す。
突如、ルーの部屋の扉に凄まじい勢いのノック音が鳴り響く。

シャム「ルー!」

ドア越しからシャムの声が響く。

ワイヤー「ウエスト…!」

驚いたワイヤーはウエストに顔を向け、不安げなに声をもらす。
同じく唖然とした顔をしているウエストだが、すぐに気を取り直して
手すりへと向かう。

ウエスト「急げっ」

右腕にルーを、左でにロープを握りながら軽やかに
堀を飛び越えるウエスト。飛び越えた勢いでポシェットが揺れ、
堀にぶつかり、ガチャンという無機質な音が響く。

ルー「っ!?」

目を大きく見開き、そして体をばたつかせるルー。
ウエスト焦った声を上げる。

ウエスト「くそっ、暴れるな。落ちたらどうする」

ウエストの言葉に驚き、固まるルー。
ウエストの続いて、ワイヤーもなんとか塀を乗り越え、ロープを掴む。


***


ルーの部屋の前。
懸命に扉を叩くシャム。

シャム「くそっ…!」

シャムはドアのノブを乱暴に回そうとするが、鍵がかかっているため
ノブは回らない。シャムは一歩下がり、扉に向かって体当たりをするが、
扉はビクともしない。扉を開くことを諦め、廊下へと駈け出すシャム。
シャムは廊下を走りながら壁に設置されている警報機のスイッチを
殴りつけるように拳で押す。
けたたましいサイレンが鳴り響き、そして書く部屋からは兵士たちが
眠気まなこでぞろぞろと顔を出す。

シャム「3-○○(部屋番号)に侵入者だ!扉を破る必要がある、急げ!!」

走りながら叫ぶシャム。
走るシャムの前方で、壁沿いの部屋の扉がゆっくりと開く。

ハバナ「何事…」

寝ぼけた声で、パジャマ姿のハバナが姿を表す。

シャム「侵入者です!ルーがっ!」

シャムはハバナに向かって短く叫び、止まることなく走り去る。
残されたハバナはきょとんとした表情で立ちつくす。

ハバナ「…え?」

ぽかんとするハバナ。

***

ルーの部屋の一つ下階のバルコニーに着地するウエストとワイヤー。
建物内ではサイレンが鳴り響いている。ウエストは腰のベルトから銃を
取り出し、3階から伸びているロープを打つ。
銃はロープを撃ち抜き、千切れたロープがゆらゆらと空を舞う。

兵士「下だっ!」

ルーの部屋のバルコニーからメインクーンの兵士たちの怒鳴り声が上がる。

ウエスト「完全に見つかったな」
ワイヤー「どうしよう…!」

ワイヤーが焦った声を上げながら体をわたわた揺らす。
ウエストはワイヤーを無視して、バルコニーの手すりまで歩き、
そしてベルトから5cmぐらいの小さな懐中電灯を取り出し、
堀の向こうの地面に向けて照らす。
複数の足音がドタドタと音を立てて、ウエストたちのいる部屋に
近づいてくる。

ワイヤー「どうしようウエスト、来るよ…!」
ウエスト「…」

ウエストは緊張した面持ちで手すりから前のめりに地面を覗き込んだまま
微動だにしない。真っ黒な地面で小さな光がチカチカと光るのが見える。
突如、乱暴な音を立てながら勢いよく開くドア。廊下にはたくさんの
メインクーンの兵士たち。兵士たちはウエストたちの姿を確認すると、
彼らに向かってまっすぐ突進する。

ワイヤー「ウエスト!!」

ワイヤーが悲鳴に近い声を上げる。

ウエスト「ワイヤー、とび降りろ!」

ウエストは懐中電灯を口で挟み、それからバルコニーの塀を乗り越え
勢いよく飛び降りる。

ワイヤー「ええっ!」

ワイヤは困惑した声をあげ、一瞬、躊躇して振り返るが、すぐ背後まで
迫ってきているメインクーンの兵士たちを見て、慌てて飛び降りる。
ワイヤーに向かって手を伸ばし、勢いよくバルコニー
になだれ込む兵士たち。
間一髪で逃れるワイヤー。ワイヤーはホッと胸を撫で下ろすが、
すぐに自分が地面向かって落下していることに気がつき顔を青くし、
そしてきつく目をつむる。
突如、自分の体が宙に浮くのを感じるワイヤー。
おそるおそるワイヤーは目を開く。
目の前には巨大なマジックハンドに抱きかかえられるように挟まれているウエストとルー。
ワイヤーはウエストに手首を掴まれ、宙吊りになっている。
地面から高く浮き上がった3人を、
マジックハンドを構えながら見上げるチャーリィ。

チャーリィ「まあ、なんとかなったわね…」

チャーリィは息を吐き、そしてマジックハンドを操作する。
三人はゆっくりと地面に降りていく。

急いで車に乗り込むチャーリィとウエスト。ウエストの腕にはルーが抱えられている。よろよろとしながらも、2人に続づいて後部座席に乗りこむ
ワイヤー。呆然とした表情で着席し、それから腰を抜かしたように
ずるずると腰を落とす。

ウエスト「チャーリィ、車を出せ!」
チャーリィ「オッケー!」

チャーリィは鍵を回し、エンジンをかける。

ウエスト「お前はこいつを見とけ」

ウエストは腕に抱えていたルーを、後部座席のワイヤーへと渡す。

ワイヤー「オッケー…」

ワイヤーはシートに深く座ったまま、力なく答える。
ハンドルを握り、険しい顔で前を見据えるチャーリィ。

チャーリィ「じゃあ、出発するわよ」

車が発車する。


***


息を切らせながら、寝巻きのまま廊下を走るハバナ。
扉が無造作に開きっぱなしになっているルーの部屋に飛び込む。
部屋では数名の兵士たちが忙しなく動き回っている。
ハバナは兵士たちには目もくれずバルコニーへと走り、飛び込むような
勢いで塀から顔を出す。外には大量の煙を出しながら走り去っていく車。

ハバナ「…」

小さくなっていく車をまっすぐ見つめ、顔をしかめるハバナ。


***



広野。
バイクにまたがり、猛スピードで走るシャム。
シャムはわずかに残る煙を追う。

シャム「くっ…」

煙はメイクーンの拠点である建物から少し離れた森林へと続いている。
シャムは躊躇することなく林へと突っ込む。
車によって乱暴に荒らされた道を進むシャム。何本かの枝がシャムの
顔や手足を擦る。シャムは気にとめることなく、猛スピードで木々の間を
進むが、やがて林から飛び出る。
飛び出た先にはだった広い荒野が広がっている。
バイクから飛び降りるシャム。身体中に葉っぱや小さな木の枝をつけ、
髪の毛はボサボサ。
シャムは荒野を見据えるが、タイヤの後や煙など、ウエスト達の痕跡を
何一つ確認することができない

シャム「くそっ…!」

シャムは両手をきつく握り、悔しげにうめく。

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