見出し画像

「夜好性」という音楽カルチャー

1月が終わってしまった。早いものだ。暦の上ではもう春だとういうのに、まだ寒いではないか。むかしむかしあるところに、誰かが「春はあけぼの」と言ったそうだが、おそらくそれを言った者は、ぬくぬくとした部屋にいたにちがいない。(たぶんそんなことはない)

ニュースを見れば数字だけが示される某ウィルスの感染状況ばかり。お国から引きこもれ!といわんばかりに、1月は引きこもっていた。自分の職業柄テレワークとはならないので、自宅と会社の往復だけの1月となっていた。しかしありがたいことに1月は休みが多く、ゆとりのある生活を送っていた。ほぼ週休3日。有給を消化すべく使いまくった。働き方改革だ!ホワイト企業バンザイ!なのである。

また某ウィルスの感染が猛威を振るっており、外出しづらいし、人の多いところを避けるようになってしまった。日本の医療技術をもってしてでもこんなことになってしまったのかと。ここ2年間驚きを隠せないでいる。

電車で通勤されている方はさぞ大変な思いのなか、私は去年から車での通勤に変えたのである。行きも帰りもプライベート空間が保たれているのは大きい。ここ半年電車で通勤はしていないと思う。

帰りの時間、すっかり日も落ち、街はすっかり夜になっている。夜の街中を車で颯爽と走らせるのは気持ちいい。(あくまでも法定速度で)

夜の街中を走らせて、カーステレオで音楽を聴いていると、感性を揺さぶられることが多い。とくに夜の時間帯。そういえばアーティスト名に「夜」がつく(含む)アーティストが増えた気がする。

YOASOBI、ずっと真夜中でいいのに、ヨルシカ、夜の本気ダンス、yonige、などがあげられる。これらのアーティストを好む人を「夜好性」というらしい。




「夜好性」なるアーティストという括りがあるのは驚いた反面、たしかにこういうのが好きになる理由がわかる。

『万葉集』や『古今和歌集』においても「花」のことを詠った歌が多く、季節折々の「花」を好む日本人の感性をよく表していると思う。

梅の花 咲きて散りぬと 人は言へど 我が標結ひし、枝にあらめやも
『万葉集』第400より
梅の花 咲きて散りなば 桜花 継ぎて咲くべくなりにてあらずや
『万葉集』第829より

それと似たかのように、音楽という界隈で「夜」を想起させる楽曲が多く、天候と人物の心理状況を重ねあわせることで、(とくに)若者の感性をよく表しているのがおもしろい。

夜を抜けて夢の先へ
辿り着きたい未来へ
本当に?あの夢に、本当に?って今も
不安になってしまうけどきっと
今を抜けて明日の先へ
二人だけの場所へ
もうちょっと
どうか変わらないで
もうちょっと
君からの言葉
あの未来で待っているよ
「あの夢をなぞって」YOASOBI

彼のことを好きなのにという恋心を、夜の情景や描写にかけて歌っている例である。昔の恋人との思い出や好きな人を思い浮かべてこの曲を聴くと、「私もそんな風になりたい!」とか「爽快なメロディなのに切ない歌詞で好き」とか思うだろう。「夜」というのは人間の奥底に眠る本能的な気持ちを表すメタファーになっているのである。

「夜」のことを歌った楽曲でいえば、「染まるよ」(チャットモンチー)、「クロノスタシス」(きのこ帝国)、「夜の踊り子」(サカナクション)、「ミッドナイト清純異性交流」(大森靖子)、「夏夜のマジック」(indigo la End)、「桜の降る夜は」(あいみょん)、「たばこ」(コレサワ)、「ベテルギウスの灯」(the HIATUS)、「オドループ」(フリデリック)、「ファンファーレ」(sumika)、「春を告げる」(yama)、「夜にダンス」(フレンズ)、「STAY TUNE」(Suchmos)、「歌舞伎町の女王」(椎名林檎)、「SATURDAY NIGHT」(BLANKEY JET CITY)、「ムーンライト銀河」(相対性理論)、「Neon Lightの夜」(DE DE MOUSE,TANUKI,一十三十一)、「Climax Night」(Yogee New Waves)

新旧問わず、思い出せる範囲だけでもこんなにある。

脱線するが小説でも同様の傾向がみられる。

『真夜中乙女戦争』(F)、『夜は短し歩けよ乙女』(森見登美彦)、『夜行』(森見登美彦)、『夜が明ける』(西加奈子)、『何もかも憂鬱な夜に』(中村文則)、『夜のピクニック』(恩田陸)、『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)、『明るい夜に出かけて』(佐藤多佳子)、『よるのばけもの』(住野よる)、『犯人のいない殺人の夜』(東野圭吾)

この「夜好性」という記事を書く中で、小説でも同じように「夜」とつく書名を調べてみたら、ほとんど自分が読んだことのある小説で驚いた。「夜」とつく小説は往々にして面白いということがわかるカタルシス。

夜というのは人の内面に潜む激情を不意につかれることが多い。例えば

  • 夜のテンションに身を委ねてポエムを書く

  • 好きな人とのLINEを見返す

  • どうでもいいことを思い出してブルーになる

  • 自暴自棄になって暴飲暴食する

夜は基本的に「リラックス」している時間帯である。そのようなときに、自分の内面に秘められた感性を揺さぶるのは、夜という情景が影響する。これを別の言葉で言い表すなら「チルい」ということだろうか。または「エモい」と言ってもいい。夜だからついイケナイことをしてしまいがちな、そんなことを歌う楽曲は、人間に潜む本能がむき出しになる。YOASOBIを聴いてると特に感じることである。ちなみに私はというと、上記であげた「クロノスタシス」(きのこ帝国)がとくにそれ・・になる。

「クロノスタシス」(きのこ帝国)をYouTubeで聴くと、そのコメント欄がすごい。

特別な夜に聴く曲じゃなくて
いつもの夜が特別になる曲
私のことを初めてインスタグラムに載せてくれた彼氏が
クロノスタシスって一言添えてくれてて知らない言葉だったけどそういうことだったんだな。
もうクロノスタシスは私たちの間にはないけど幸せになってください、だいすきだった
"時計の針は0時を指してる"って部分、ただ深夜を指していると思って聴いていたけど、長針と短針が重なるのを自分と相手に見立てていて、その状況に対してクロノスタシスだと言っているのか…!!
夜に外でビールを飲みながら、この曲を聞くと、気分が何とも言えない良い感じになり最高です。
夜散歩しながらこの曲聴いてたばこすると不思議な気分になるのが堪らなく好き

夜に思いを馳せる人たちの共感の嵐や昔の恋人との思い出話、歌詞の考察でいっぱいである。

人間は本能的に「ありのままの自分でいい」と思える性質をもっていて、楽曲の多くには「夜」という情景によって表現され、たばこを吸っているときも、お酒を飲んでいるときも、恋人と一夜を過ごすときも、良くも悪くも「素のままでいられる自分が好き」。そんな気持ちにさせてくれるということを暗喩的に表現してそれが10代、20代の若者の性癖や心情に刺さっているんだと思う。こういった夜のことを歌ったジャンルやそのジャンルを好む人を「夜好性」というのである。

今日はここまでです。他の記事はこちらからどうぞ。


この記事が参加している募集

よかったらサポートもしていただければ嬉しいです!いただいたサポートは読書に充てたいと思います!