文章のトーンを変える(4)話し言葉で_4トーン比較
「文章のトーンを変える」4回目は、
これまで通り「枕草子」現代語訳を
原文(一般的な現代語訳を私的にアレンジ)に、
女性の口語体に変えて書いてみた。
コピーライターの仕事で言えば、インタビューを行わずアンケートへの
回答をもとに、これを想像で補いながら話し言葉に変換して書くことが
ある。ここでは、その工程を「枕草子」の書き言葉をもとに実践してみる。
既に(1)やさしく(2)硬質に(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく と
3パターンのトーンで書いてきたが、
私自身も最早、過去の文章と記憶のなかで比較しながら
書くことはできない。
したがって、読まれる方も比較しやすいように、
上記(1)~(3)と並記して4番目の「話し言葉で」のパターンを記した。
文末に参考として、4つのトーンの原文とした
「枕草子」私的現代語訳を載せている。
4つのトーンの比べながらお読みください。
【春】
(1)やさしく
春は、夜明けがいい。
窓の外がゆっくりと明るくなって、
遠くに見える山が空と溶けあうあたりが、
ほんのりとあたたかくて、
淡い紫色に染まった雲が、細くたなびくような景色もたまらない。
(2)硬質に
春は、夜明けを推す。
外が徐々に白み、稜線で切り取られた空が少し明るさを帯びて、
淡い紫色に染まる雲が、細くたなびく如き景色が好みだ。
(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく
春は、夜明けにまず指を折るだろう。
世界が、だんだんと白んできて、稜線のラインを引かれた空が、
明るさの容量を増して、
淡い紫色に染められた雲が、細くたなびくように形を変えて流れる
(4)口語体で
春は、夜明けですね。
窓を開けると外の景色がだんだんと明るくなって、
山のシルエットに光が差して、
薄い紫色に染まった細い雲が、たなびくように流れてる感じが好きです。
【夏】
(1)やさしく
夏は、夜がすき。
月がきれいな日はもちろん、新月もいい。
たくさんの蛍がふんわりと飛ぶ姿も、
ほんの一匹二匹が、ちいさく光りながらただようのもいい。
雨が静かに降るなかで感じる闇も、すき。
(2)硬質に
夏は、夜だ。
月が美しい日は無論だが、新月も格別である。
多くの蛍が飛び交かう様も、
僅か一匹二匹が、幽かに光りながら飛ぶ風情にも心動く。
雨が静かに降る闇の中も好きだ。
(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく
夏は、夜の魅力が満開だ。
月が美しく輝く日はもちろん、新月も負けてはいない。
たくさんの蛍が交差するシーンも、
わずか一匹二匹が、精一杯の光を放って夜に浮かぶ。
音を消し去った雨が、闇に溶け込むのを静かに聞いていたい。
(4)口語体で
夏は、夜かな。
月がきれいな日はもちろんだけど、新月もいいなと気づいたんです。
たくさんの蛍が飛んでいるのもいいし、
一匹か二匹が、少し光りながらふわふわするのもいい。
雨がしとしと降る暗闇も意外に心落ち着きます。
【秋】
(1)やさしく
秋は夕暮れにうっとり。
夕陽の赤が空を染めて、
いまにも山にかくれそうなとき、
なじんだ巣へ帰る烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぐうごきにさえ、
しみじみとした趣があって。
もしも連なってはばたく雁が、
遠くに小さく見える景色に出合うときには、おもわず見とれてしまう。
日がすっかり落ちて、風の音、虫の音などがひびく時間は、
もう言葉になんてできない。
(2)硬質に
秋は、夕暮れが一番。
夕陽が赤々と射し、山の輪郭にいまにも沈むかという瞬間、
古巣へ帰る烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぐ風景さえ、
深い感慨に満ちた趣がある。
まして、連続して飛ぶ雁が、遠くに小さく見える景色に胸躍る。
日が完全に落ち、風の音、虫の音などが響く時間は、
言葉で表現不可能なほどだ。
(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく
秋は夕暮れにこそある。
赤々とした夕陽が、山と夕空の境を染め上げて、
古巣へ向かう烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぎながら羽ばたく情景は、
心に沁み入る。
まして、列を成してはばたく雁が、遠くに模様のように
刻まれる景色には、思わず瞳を動かすのを忘れる。
日が落ちて陰影を濃くし、風の音、虫の音などが空気を震わせる頃など、
言葉を忘れさせてしまう力を感じる。
(4)口語体で
秋は、夕暮れがいいな。
夕陽が真っ赤になって、山と空の境目辺りに消えていくころに、
お家に帰っていく烏が、二羽とか三、四羽、急ぐように飛んでいくのが
いじらしいなと思う。
連なってはばたいていく雁が、遠くに小さくなっていく景色には
胸がキュンとしちゃいます。
日が落ちて暗くなって、虫の鳴き声や風のそよぐ音が
響いてくる時間があって、言葉にできないほど心が動くんです。
【冬】
(1)やさしく
冬の朝は早いほどいい。
雪が降る日はもちろん、霜がいちめんに白く降りても、そうでなくても、
こごえるように寒い夜明け、大急ぎで起こした炭火を
運んで回るうごきは、とっても冬の朝らしい。
昼になっていつの間にか寒さがゆるんで、
火鉢の炭火が白く灰につつまれてしまってはつまらない。
(2)硬質に
冬は、早朝である。
雪が降る朝は言うまでもないが、霜が一面に白く降りている朝も、
そうでなくても、
凍えるように寒い夜明け、大急ぎで起こした炭火を
運んで回る動きは、いかにも冬の朝だ。
昼が来ていつの間にか寒さが緩み、
火鉢の炭火が白く灰をかぶるに至っては興ざめである。
(3)ドキュメンタリーの冒頭らしく
冬は、明けて間もない朝。
雪降る朝、そして一面に白いベールがかかる霜の朝も、
身震いするような夜明けに、大急ぎで起こした炭火を
運んで回る動きにも、冬がある。
昼を迎えて、いつの間にか寒さがどこかに消えてしまう頃、
火鉢の炭火は白く灰をかぶるようになって、心動くことはなくなる。
(4)口語体で
冬は、朝早い時間ですね。
雪の朝は最高なんだけど、霜が一面に降りた真っ白な朝も、
もちろんそうでなくても好き。
凍えちゃうような夜明けの寒さに、炭火を大急ぎで起こして
運んで回るのを見ると、ああ冬の朝だなと思います。
やっと昼になって、寒さが緩んだことに気づくころは、
火鉢の炭火が白く灰をかぶってしまって、つまらないなと思うんです。
※元にしたのは下記の「枕草子」私的現代語訳です。
↓
春は、夜明け。
あたりがだんだんと白んで、稜線で切り取られた空がほんのり
と明るくなって、
淡い紫色に染まった雲が、細くたなびくような景色がいい。
夏は、夜。
月がきれいな日はもちろん、新月もいい。
たくさんの蛍が飛び交かう情景も、
ほんの一匹二匹が、ほのかに光りながらただようのもいい。
雨が静かに降る闇にいるのも好きだ。
秋は、夕暮れ。
夕陽が赤々と射して、山の輪郭にいまにも沈もうというとき、
古巣へ帰る烏が、三羽四羽、二羽三羽と急ぐ風景さえ、
しみじみとした趣がある。
まして、連なってはばたく雁が、遠くに小さく見える景色はたのしい。
日がすっかり落ちて、風の音、虫の音などが響く時間は、
言葉に尽くせないほどだ。
冬は、早朝。
雪が降る朝はもちろん、霜が一面に白く降りている朝も、そうでなくても、
凍えるように寒い夜明け、大急ぎで起こした炭火を
運んで回る動きは、いかにも冬の朝らしい。
昼になっていつの間にか寒さが緩んで、
火鉢の炭火が白く灰をかぶってしまっては興ざめだ。
「トーン」については、こちらのnoteでも語っています。
リライト論[第二章]リライトの定義(1)トーンを変える
https://note.mu/noriyukikawanaka/n/nea9bef184705