雇用の常識「本当に見えるウソ」 (海老原 嗣生)
本書の大半を割いて著者の海老原嗣生さんは、「終身雇用の崩壊」「転職の一般化」「成果主義の導入」・・・等々、近年の労働問題の議論において声高に主張される言説に対し、各種統計を駆使してその実体を指摘しようと試みています。
ただ、それらの指摘(反証)は、今までも多くの書物で明らかにされたところを出るものではなく、斬新な切り口とは言いがたい内容です。
私は、書物等で示される「統計数値」というものは、その数字が必然的に何らかの真の姿を語るのではなく、主張すべき内容に合致しした形で、論者が数字に語らせるという不可避的な性格をもっていると思っているのですが、本書もその例に漏れません。もちろん、著者が「俗論」と指摘している主張も同様です。
比較する年度の選択を変えることにより、主張する変化の程度や傾向にかなり幅を持たせることができます。また、たとえば、同じ2%から3%の変化も、「たった1%の変化に過ぎない」というのか、「50%もの増加」というのか、主張したい内容により意味づけは変わるのです。
そういう観点から言えば、統計数字で読み取れる写像と現実の肌感覚との差分を指摘し論を進める方が、より興味深い内容になったのではないでしょうか。
とはいえ、著者のいくつかの指摘には首肯できる点もありました。
たとえば、働く女性の復職支援策についての早稲田大学教授谷口真美氏のコメントを踏まえた著者の指摘です。
また、巻末で「2つの暴論」とあえて名付けた章で紹介されている議論も興味深いものです。
そのひとつは、「限定型正社員」という雇用形態の導入。
もうひとつは、「移民受け入れ政策」の実行。
今後の日本に確実に訪れる「人口減少に伴う経済力・社会基盤の劣化」を回避する策として、著者はこう語っています。
もちろん、これらの対策には検討すべき課題が山積ではあります。しかしながら、今後の社会の大きな潮流を捉え、現状打破的な大胆な政策提言をするということは、その論の是非はともかくとして、非常に重要な姿勢だと思います。
(注:本投稿は2009年のものですが、現在(2022年時点)では、新型コロナ禍において進展しているテレワークの普及とともに、「ジョブ型雇用」の導入といった切り口で様々な議論が交わされています)
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