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天才の時間 (竹内 薫)

 竹内薫氏の著作は、以前にも「99・9%は仮説」「仮説力」「世界が変わる現代物理学」と読んでいて、本書で4冊目です。

 本書では、著者が「天才」と位置づけた13人が登場します。
 アイザック・ニュートン、アルベルト・アインシュタイン、スティーヴン・ホーキング、チャールズ・ダーウィン、シュリニヴァーサ・ラマヌジャン、グレゴリー・ペレルマン、マウリッツ・エッシャー、イマニュエル・カント、ルートヴィヒ・ヴィトゲンシュタイン、カール・グスタフ・ユング、宮澤賢治、鈴木光司、北野武。

 それらの天才を熟成した「時間」という切り口から、各人のエピソードを紹介した読み物です。章によっては、科学史・哲学史等の観点からの解説もあり、なかなか興味深く読めました。

 たとえば、ニュートンの場合。

(p7より引用) 実は、ニュートンは、1665年から66年の1年半の間に、『プリンキピア』をはじめ、微分積分学、光学といった、彼が生涯に成し遂げた研究の中身をほぼすべて考えてしまったといわれています。彼は1642年生まれですから、この時期は24歳からの20ヶ月にあたります。・・・天才たちには、その天才性を開花させるための熟成期間があるのですが、ニュートンはこの時期が、文字通りの「休暇」にあたります。

 だとすると、ペストの流行に伴うケンブリッジ大学の休校がニュートンにもたらしたこの20ヶ月の休暇は、人類の科学の発展に非常な影響を与えた時間ということになります。

 著者は、「天才の時間」を以下のように定義しています。

(p99より引用) 極度の集中力を発揮する。現実世界との接点を断ってしまって、本当に自分の精神世界に沈潜していく。

 天才は、それぞれの広がりは異なっていても確固とした「自分の土俵」をもっています。

(p120より引用) 天才は、多かれ少なかれ、自分の土俵をもっています。そして、あらゆることを自分の土俵にもってきて解決してしまう。・・・自分の流儀でやっていまう。決して他人のふんどしで相撲をとることがない。・・・
 天才たちは自分の好きな世界にのめり込んでいきます。

 その他、本書で登場する「天才」どうしの関わりの中で、私が興味をもったものをご紹介します。

 まずは、「相対」という観点からのアインシュタインとカントとの関わりについて。

(p143より引用) アインシュタインの相対性理論が受け入れられるのに時間がかかった理由は、世界は客観的に単独で存在しているだろうという思い込みが激しかったからです。そうではなくて、同じ世界であっても見る人(観測者)によって違う見え方になるのだ、というのがアインシュタインの言っていることです。これもカントのコペルニクス的転回と同じ構図なのです。ようするに、見られる側だけでなく、見る側も世界をつくっているのだということです。

 もうひとつ、やはりアインシュタインと、今度は宮澤賢治との関わりについて。
 賢治は、科学好きで相対性理論に非常な関心をもっていたといいます。著者は、賢治の作品「春と修羅」の序文のフレーズに相対性理論からの影響を指摘します。

(p207より引用) 「過去とかんずる方角から」は、アインシュタインの四次元の世界について述べています。この作品が発表された当初は、だれにもこの言葉の真意は理解されませんでした。

 また、有名な「銀河鉄道の夜」や「よだかの星」には幾つもの星座が登場します。
 これらの星座に埋め込まれている賢治の意図の著者による読み解きは、非常におもしろいものがありました。


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