深夜特急 (沢木 耕太郎)
香港からインドへ
あまり読まないジャンルの本ですが、沢木耕太郎氏の代表作の中でも評判がいいので手にとってみました。
若き日の著者が日本から香港・マカオを経てデリーに入り、そこから陸路ロンドンを目指す旅行体験記です。全行程は、文庫本では6冊のシリーズで描かれています。
まず1冊目は、「香港・マカオ」
この最初の寄港地で、著者は、早くも大きなショックを受けます。それは、自らの「無意識の意識」に対する辱めでした。
香港島の屋台で、知り合った若者とソバを食べました。そして、金も払わずに去っていった若者に対して侮蔑の気持ちを抱いたとき・・・、
2冊目では、タイからマレー半島を下りシンガポールに至ります。
マレーシアのペナンで、著者は、ヒモ生活をしている若者から日本企業批判の声を聞きました。
こういう言葉を交わしながら、訪れた各地で著者は現地での生活にのめり込んでいきます。
さて3冊目は「インド・ネパール」。
ようやく著者はインドに入ります。ここでは、それまでの旅で最大の印象を与えた香港を凌ぐ経験をすることになりました。街で、宿で、駅で・・・、身の回りで起きていること全てが衝撃的でした。
そう思うほど、「見える」事実のインパクトが強烈だということでしょう。
香港からインドへ、旅を進めるごとに、沢木氏の物事を見る「無意識の前提」が揺るがされていきました。
香港での絶対的な経験が、カルカッタの数日で相対的なものに変貌したのです。まさに、沢木氏がインドで受けた衝撃の強さが吐露されたフレーズです。
シルクロード経由ロンドン行き
沢木氏のユーラシア大陸の旅も後半に入ります。
4冊目の「シルクロード」の巻になると、強烈な印象を受けた香港やインドの経験が、次第に沢木氏の感性をよくも悪しくも旅慣れしたスライム的なものに変容させていきました。
旅の中にいると、それまで当たり前のことと思っていた「意識の軸」の基礎が揺らいできます。既存の常識や価値観が相対化されてくるようです。
5冊目の「トルコ・ギリシャ・地中海」の巻では、沢木氏はついにアジアからヨーロッパへと渡ります。
ヨーロッパの息吹は、まずイスタンブールで感じることになります。イスタンブールは有名な名所史跡が数多くあり、見所には事欠きません。が、沢木氏はやはり街の姿、そこに住む人々が面白いと思うのです。
このあたりから、沢木氏は、今まで経てきた自分の旅を振り返るようになります。
そして、「旅」を「人生」になぞらえつつ、少しずつこの旅の終わりを思い始めるのです。
いよいよ最後の6冊目「南ヨーロッパ・ロンドン」。著者の旅はフランスに入ります。
モナコからニース行きのローカルバスに乗って、地中海の美しい海を目にしたときの著者の声は、「これはひどいじゃないですか」でした。
私にも記憶に残る美しい海があります。八重山諸島の竹富島・西表島の海です。これ以上の透明はないというような緑青の水。
40年以上前にその海を見て以来、私はこちら(本土)で海水浴に行ったことがありません。あの澄んだ海と比べてしまうと、到底泳ぐ気が起こらなくなったのです。
さて、文庫本では6冊に及ぶ沢木氏の旅も、最終目的地ロンドンに至りました。
ただ、沢木氏の目は、さらにアイスランドに・・・?
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