思いがけず利他 (中島 岳志)
(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)
いつも聞いているピーター・バラカンさんのpodcast番組にゲスト出演していたいとうせいこうさんが番組内で紹介していた著作です。タイトルも含めちょっと気になったので手に取ってみました。
著者の中島岳志さんは東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授。固定化された視点に囚われない論考はいい刺激になりますね。
さっそく本書を読んで興味を抱いたくだりをいくつか書き留めておきましょう。
まずは、「第三章 受け取ること」から、認知症と診断された高齢者をホールスタッフとして雇用している「ちばる食堂」での試みを紹介している箇所です。
よく「〇〇に “寄り添う”」といった台詞を耳にするようになりましたが、それでは具体的にどうするのかといえば、はっきりとした答えは返ってきません。この「間違いに寛容な社会を作る」ことがそのひとつの回答だと思います。
“間違いに寛容な社会” というフレーズは、情けないことに、私にはとても新鮮に聞こえました。大切な “意識の姿勢” だと思います。
そして、次は本書のタイトルにある “利他” の行為がもつ重要な特性です。
なるほど、そうですね、自分の成した行為が “利他” となるかどうかは、事後的に相手が評価するものです。成した側が評価を強要できるものではありません。
ただ、そうであっても、利他的な行動を意識的に取ろうとすれば、自分の行為が “利他” となる確率を高めることはできるでしょうし、そう心がける気持ちは大切ですね。
さて最後は、今の日本社会に蔓延している「自己責任論」について。
「自己責任論」を振りかざす人の “他者への過剰な非難” を諫める考え方です。
今の世の中に圧倒的に欠けているのが「他者への想像力」です。他者の悩み、他者の苦労、他者の暮らし、他者の立場・・・、そういった実態を知ろうとしない、理解しようとしない。想像する「力」がないのではなく、視野にすら入れない、想像しようとする「気」すらないように感じます。
今の自分は「偶然の産物に過ぎない」という意識、そして「偶然」が「利他」を生む。必然の利他は利己。
「思いがけず利他」というタイトルは、なるほど本書のメッセージを見事に表しているんですね。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?