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「日本」ってどんな国? ― 国際比較データで社会が見えてくる (本田 由紀)

(注:本稿は、2022年に初投稿したものの再録です。)

 最近Podcastで聞き始めた「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送)に著者の本田由紀さんが登場して、この本の内容のさわりを紹介していました。
 ちょっと気になる内容だったので手に取ってみた次第です。

 本田由紀さんは東京大学大学院教育学研究科教授。専攻は教育社会学とのことです。
 本書において、本田さんは、政治・経済をはじめとして、社会運動・家族・ジェンダー等々に係る様々なデータを世界各国と比較し、「今の日本の実態」を顕在化させています。

 そういった比較データの中から、特に私の興味を惹いたものを覚えに書き留めておきます。

 まずは、「学校」の章で示された「日本における “学校の意義”」について語っているくだりです。

(p135より引用) 多人数の児童生徒がひしめく教室で、「学力」を効率的に高めることに躍起になり、できるだけ難易度が高い高校や大学に進学させることに注力してきた代償は、相当に大きかったのではないでしょうか?・・・
 日本の「学校」は、在学生や卒業生にとって総じて意義のあるものと感じられていないだけでなく、「学校」を終えた者が送り出されてゆく産業界にとっても、求めるスキルを身につけた人材が見つからないという欠乏の度合いが大きいことも問題です。表3-3の中で、「仕事に必要な技術や能力を身に付ける」という項目でも、日本は他国と比べて非常に低い意義しか感じられていません。

 このコメントの根拠となる国際比較数値もそうですが、日本の値は全体傾向から飛び抜けて乖離しているものが目立ちます。
 その特殊性にも拘わらず、多くの国民や政治家・官僚らが日本の実態に疑問を抱いていない状況が大きな問題です。

 「教育」は、“主体的な個の確立” において重要な成長プロセスであると同時に、戦前の教育で明らかなように権力側からの意図的なコントロールが及び易いところでもあります。
 「教育」の改善や自律は、日本における根本的課題のひとつでしょう。

 そして、次は「友だち」の章での「友だちでない他者にも冷酷な日本」という考察。

(p164より引用) 2015年にアメリカの世論調査会社である Gallup 社が世界140カ国で実施した 「Global Civic Engagement調査」には、「過去1ヶ月の間に、助けを必要としている見知らぬ人を助けましたか?」という質問が含まれています。これに「はい」と答えた比率は、日本では25%で、調査対象国140カ国中139位でした。

(p166より引用) このような様々なデータからは、日本の社会が他国と比べて、人への冷淡さや不信が強い国であることがわかります。日本の中では「絆」とか「団結」とかが称賛されることがしばしばありますが、社会の実態はそれらとはほど遠く、ばらばらに切り離され相互に警戒し合うような関係のほうが、広がってしまっていると言えます。

 このあたりのデータと解説は、“意外で驚き” というよりもむしろ “実感として納得” という印象を持ちます。(恥ずかしながら、正直、私にも我が身を省みるに少々心苦しいところがあります)
 さらに、そういった状況は近年より強まっているという肌感覚ですね。生きていくだけで厳しい状況に陥ったとしても、ともかく、まずは「自助」や「自己責任」が叫ばれる社会ですから・・・。

 最後は、「「日本」と「自分」」の章での「昨今の若者の意識」について。本田さんはこう概括しています。

(p245より引用) 松谷さんの分析によれば、「平成世代」に固有な特徴は、「愛国心」の強さではなく、「権威主義」の強さにあるということも明らかになっています。「権威主義」とは、要するに「エライ人には従っとけ」という意識です。・・・
 日本という国の仕組みによって打ちのめされている若者は、日本という国を特に好きなわけではありません。でも、打ちのめされているからこそ、強そうで安定した存在には従順に従う傾向があるようです。それは結局、この国のだめだめ・ぐだぐだな現状をもたらしたり、少なくとも解決できてはいないくせに、なぜか威張っている大人たちに、強烈なNOを突きつけることができない現状をもたらしていることになります。

 この現状は、主権者としても明らかに寂しく情けないものでしょう。では、どのようにして脱していくのか?

 その出発点として、本田さんは、本書で、家族、ジェンダー、学校、友人、経済・仕事、政治・社会運動について世界各国データと比較し「日本の酷い現状」を直視することから始めました。

 そして、どんなことからでもいい、まずは意識を変え、行動する。ともかく、たどり着くには果てしなく困難なゴールに向かって「決してあきらめない」で取り組む。
 そう自ら決意するとともに、私たちにも強く訴えているのです。



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