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台湾、阿里山を歩き回る④【終着駅とアポカリプス】

阿里山には、隙頂のバス停から更にバスに1時間ほど揺られて到着した。


阿里山のバスターミナルから少し歩くと阿里山駅があり、そこは標高2216mの地点。どうりでポテトチップス類がパンパンに膨れ上がっている。
着いてみて驚いたのは標高よりも空気。
しっとりとした、湿度200%くらいの湿気。ストレートパーマをあてて前下がりのパキっとしたハイヒールリンゴみたいなショートのストレートボブにしている私の髪型は、おてんば天然パーマ野郎へとたちまち変身し、頭も膨張していた。(大げさじゃなく本当だよ、シルエットはまるでキノコの山だったよ。)
眉毛ですら癖毛が出ている。驚異的な湿度であることは間違いない。
歩いていてもしっとりする感じ。
乾燥肌の私の肌が喜んでいるのが分かる。
心なしか鼻の通りもよく、喉の調子もいいような気がする、湿度に関係あるのか知らないけど。
ところどころに霧が立ち込めていて、神秘的な雰囲気。
何なの?この空気…。
マイナスイオンやパワースポットという言葉では足りないくらいに、ここの空気は不思議な感じがする。
ホテルにチェックインし、阿里山駅で翌朝の日の出のための列車を予約しに行ってみることにした。
駅前はお茶屋さんやお土産物屋さんが並んでいたので帰りに寄ろうと思い、明日の日の出列車を予約し一安心してから、いざ、阿里山の森林探検を開始。
どこに行くかは決めていないし知らない。
位置関係もよく分からないため駅の地図を見てみる。
どうやら神木駅、沼平駅付近に色々見所があるらしい。
そこから分岐した眠月線と書いてある線路に大きく赤でバツしてあるのが少し気になりつつ、他の駅の位置関係を確認した。沼平駅と神木駅では神木駅の方が低いところにあるので、沼平駅まで列車に乗って行き、神木駅まで歩き、そこから阿里山駅まで歩いて下って戻ってくるのが良さそうだ。
私は新幹線の嘉義駅からバスで来たが、本来は阿里山森林鉄道で3時間半ほどかけてそのまま上がってこれるらしい。
私の行った時は台風の影響で通行止めの区間があったためバスを選んだが、ゆっくり鉄道で来るのもいいだろうなあと思う。阿里山に着いてから、沼平駅まで片道切符を買っていよいよ阿里山鉄道に乗車。
ああ。
電車というか鉄道という感じ。
インドで乗った世界遺産のダージリン鉄道によく似ている。
電車男、鉄男ではないのでそこまで列車に萌えないが、そんな私でもこの列車は素敵だと思った。木で作られたぬくもりのある台湾最大の木造の駅舎に、赤いかわいい列車。
森の中をゆっくりと走っていく。
もしも私が鉄道オタクののりまき鉄子なら、バズーカ砲並みの一眼レフでこの駅と列車を激写するんだろうな、これまた私のまだ知らない世界ではあるが。

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沼平駅を降りて、地図の通りに遊歩道を歩き、神木駅へと50分ほど散歩をしようと思い進んでいったら、「眠月線」についての看板を見かけた。さっき見た地図に赤でバツされていた路線である。
大塔山という山に向かって進んでいた線はもう長い間、廃線になっているが昔は運搬用の路線だったよう。
看板に写っていた山が、見晴らしが良さそうだなぁと思いつつ、線路沿いの遊歩道を歩いていたら、台湾人のキャンパーらしい若者が数人、遊歩道から線路上に降りて歩いていた。
え?いいの?
ついて行ってみたらすんなり線路上に降りることができた。廃線の眠月線を歩いて進んで行けるようだった。
バックパックを背負った台湾人の若者に「どこに行くの?」と聞いてみたら「Mianyue line(眠月線)」とのこと。
眠月線の線路の上を歩いて突き進んだ先に、ナイスビューな場所があってそこでキャンプをする人が多いらしい。
立ち入り禁止という訳ではなさそうだった。厳密にはどうか分からないが、少なくともそこでのキャンプは台湾のアウトドア好きの間では流行っているようだから、安全な気がする。
へぇー、面白そう。
1時間半くらい歩けば着くらしいので、彼らについていくことにした。
線路上を歩くと、数年前までは映画「スタンドバイミー」気分で「ウェンザナイ!」と歌い出していたものだが、今やすっかり気分は「終着駅」である。
そう、「終着駅」とは、アメリカのドラマ「ウォーキング・デッド」のシーズン4,5辺りに出てくる場所で、ひたすらそこを目指して散り散りバラバラになった仲間たちが線路上を歩いて目指す場所。テルミナスこと終着駅。
台湾の若者とウォーキングデッドの話で盛り上がる。
私の異国の人との共通言語はビートルズとOASISとアメリカドラマなのだが、ウォーキングデッドは見ている人が多い(その代わり途中で見るのをやめた人も多い)から助かる。
まるでテルミナスみたいだね、と話す。それから、どのキャラクターが好きかを話しながら(私はキャロルとグレン)しばらく共に歩いた。
彼らが休憩をすると言うので、ちょうどそろそろ1人で歩きたかった私は、「1人で先に進むね、Be careful of ZOMBIES!」 と言って別れた。
なかなか口にすることのない別れの挨拶だった。

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(ウォーキングデッドから画像拝借)


私は森や山の中に入ると、ついついウォーキングデッドの影響で、ゾンビがいつどこから出てきても戦えるように脳内にシュミレーションする。
線路上を、ゾンビと戦うための長い木の棒が落ちてないか慎重に探して歩き続けた。
時々、森の隙間や線路の向こうの方から突然霧が立ち込めてきては、何も見えなくなり、しばらくするとクリアになる。そんな不思議な現象を繰り返し、1時間半ほどすると、森を抜けて山の見晴らしのいい場所に出た。
と言っても霧が凄すぎて何も見えなかったが。
畏敬と恐怖の間くらいの感情になり、霧が薄くなったり濃くなったりする様子をずっと立ちすくんで見ていた。
霧が出ると今度は私は映画「ミスト」を思い出して怖くなる。アポカリプス系のジャンルの映画が好きで、救いのないあの映画が私は特に大好きなのである。


あの映画のことを考えるたびに、結局恐ろしいのは人間であり、世界がどんなことになっても自分自身を失わないように気をつけよう、と思うのだ。
そんなことを考えながら、霧が少し薄くなった時に進み、岩が崩れていて、フェンスで行き止まりになっているところまで来てしまった。
なんだ、ここまでか。
そこで、座って、さっきのコンビニで買ったパンパンに膨らんだポテチとペットボトルの台湾茶で休憩することにした。
多分足元の下には絶景が広がっている場所で、霧で灰色の世界になっている中にポツンと1人、なぜかこの日に限って真っ黒な服を着た女が1人。
なんだかいかにもゾンビ・アポカリプスの主人公のような気がする、私。
ウォーキングデッドで辿り着いた終着駅は地獄だったが、私のこの終着駅は悪くないな、と思った。

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(半径100m圏内に人間がいないと分かるとセルフタイマーを使って自分を撮影するという気取ったことができる。1人旅あるある。カメラ目線で写るほどの勇気はない。)



暗くなるとこの霧では無事に帰れない気がしてきたので、急いで道を引き返すことにした。
途中でキャンパーの若者と再会し、「フェンスで行き止まりになってたよ」と伝えると、「そのフェンスを越えてデンジャラスなゾーンを越えた先にキャンプをする場所があるんだよ」と言う。
それは恐ろしすぎる。
私が行けば転落するのはゾンビに襲われるよりも確率が高いし、日本のみんなから、阿里山で神隠しにあったと思われてしまう。あそこでやめてよかった。
ゾンビ以外にもくれぐれも気をつけてね、と彼らに言って別れた。
だんだん暗くなり、神隠しにあうリスクがまだまだあったため大急ぎで戻る。
道標も霧で見えないし、常に早歩き。
ここでゾンビに襲われたら倒せる自信がない、焦りは禁物、と自分に言い聞かせながら見えない敵と戦い、無事に阿里山駅に戻ってきたら、もう10m先も見えないくらいの霧に包まれていた。
無事に戻れて本当に良かった。
予定していなかった「霧の眠月線歩き」は、なんだかよく分からないけど、すごく興奮した。
まるで自分がゾンビを倒しまくり、終末世界を1人生き延びて取り残されたような、それでも生きていくと誓ったような、そんな映画やドラマの主人公になったような不思議な時間だった。

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阿里山の森林の中のメジャースポットを歩き回るのは、翌日にまわすことにしてこの日は真っ直ぐ宿に帰り温かい鍋を食べた。駅前のお店の散策は、霧で全く見えなくてこの日は出来なかった。

続く。


(※眠月線のその先の線路やキャンプについて、気になって今ネットで調べてみたものの、台湾語の情報はあったが、日本語のものは見つからなかった。写真だけ見ても、どう考えてもその先の道は、私が生きて帰ってこれる場所ではなさそうだった。)








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