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プシュカルという聖地〜俗〜【インド#14】

プシュカルはとにかく聖地だとよく聞いた。
ウダイプルからバスで7時間、アジメールでミニバスに乗り換えて到着した聖地プシュカル。
ここも日が暮れてから辿り着いたので、翌朝まで町の全貌はお預け。
一体どんな聖地なのか。
聖地感を全く感じられないまま、プシュカルが始まった。

宿は、インドのいろんな都市にチェーン展開しているハイクラスなホステル「Moustache」の女性用ドミトリーを選んでみた。
ラジャスタンではずっと個室に泊まっていたし、節約する意味でもたまにはドミトリーでもいいかと思って1泊700円ほどの女性専用の4人部屋をチョイス。
これがなかなか良かった。
中庭がおしゃれで、敷地内に大きな木があり、屋上のカフェも風通しが良くてデザインもおしゃれだった。
ドミトリーの部屋自体は古いし、潰れたコンセントが多くて使えなかったし停電もよく起きたが、ホットシャワーはいつもちゃんとお湯が出るし、ドライヤーがあるし、ヒゲの柄のカーテンでプライバシーも保てるし、4人部屋だけど私ともう1人しか居なかったので、かなり得した気分であった。

宿の中庭に祀られている神様
私の部屋は1階
屋上のカフェ
暗黒のようなホットチョコレート
猿も住んでる宿
猿に引っ掻かれた、という話をフランス人の男の子から聞いてる時に、私が階段で滑ってお尻を強打し、いつまでも笑いあうという平和な宿。
屋上のカフェに何故か犬を連れてくる客。
屋上で洗濯干せる宿は大好き。私と同じ黒の服だらけが干されていたので同じように右側に干した。

同じ部屋のもう1人のゲストは、インドのプネーから来ているITの会社に勤めているインド人のナメタちゃん。
有給休暇中にラジャスタンを一人旅しているらしかった。彼女はノートPCを持って共用スペースで何やら作業をしたり、誰かとテレビ電話をしたりして忙しそうな32歳の女性だった。
ナメタちゃんは、人懐こい笑顔で最初から私にフレンドリーに話しかけてくれた。
なんと日本のドラマや映画が好きらしく、「I like Taishi Nakagawa and Tomohisa」とのこと。
中川大志は漢字に変換してからようやくピンときたが、山Pのことをトモヒサと呼ぶ日本人などほぼいないため、誰なんそれという戸惑いが生まれたが、インド人のスマホの中から山下智久の写真がたくさん出てきてびっくりした。
何を見てその2人が選ばれたのかが、詳しく聞いても英語なので映画のタイトルがさっぱり分からなかったが、なかなか面食いだなと感心はした。

ぽちゃぽちゃした可愛い体で、大きなトランクいっぱいにたくさんの服を持ってきており、しょっちゅうファッションショーのように着替えて「どっちがいいかな?」と意見を求められた。
私は上下3着ずつくらいしか服を持っておらず、しかも、洗濯の都合上乾いたらまた同じものを着るという生活をずっと続けていたので、ナメタちゃんのワードローブの幅広さが羨ましかった。
なので、進んでファッションショーにも付き合っていた。
IT会社に勤める32歳のインド人女性がどういうオシャレをするのかにも興味があったのでそれも垣間見れて楽しかった。

夕方近くになると、毎日ナメタちゃんが大忙しとなる。
夕日を見にデートに出かけるために、シャワーやメイクや服選びにバタバタし始める。
インド人の目力には驚かされることが多いので、アイラインの上手な引き方を、ナメタちゃんの素早く引く技を見て学んだ。

ナメタちゃんの恋バナを初日から夜な夜な毎日聞かされたのだが、こちらもなかなか面白かった。
私と同じようにラジャスタンを旅しているナメタちゃんは、ラジャスタンで出会った2人の男性の間で揺れていた。
ウダイプルで出会ったJamesと、ジャイサルメールで出会ったJamesである。
どちらもJames。
そしてどちらもイギリスから一人旅でインドに来ているイギリス人男性だと言う。
ややこしすぎる。

ナメタちゃんの話は全て「This is long story…」で始まる。何か聞くとすぐそれを言うので、質問するにも覚悟が必要だ。
その言葉通り、毎回長い話を聞かされるのだが、ダブルJamesについては、ジャイサルメールJamesの方がナメタちゃんは好きなんだけど、ウダイプルJamesの方がかなり積極的にナメタちゃんをデートに誘ってきているという状況らしい。
ややこしいのでジャイサルメールJamesをJJ、ウダイプルJamesをUJと略す。
JJはナメタちゃん的には脈がありそうだったけど、もうすぐ別の町へ移動するらしく、来月にプネーのナメタちゃんの家に遊びに来る約束をしているがイマイチ距離を詰めれていない様子。
一方のUJはナメタちゃんに猛烈アタックをしてきてナメタちゃんを追ってプシュカルに来て、同じ宿に泊まっているらしい。
文字にするとJJとUJが似ていて余計にややこしくなったので元に戻す。
ウダイプルJamesが毎日、夕日だの朝日だのを一緒に見ようとナメタちゃんを誘い、ナメタちゃんももうすぐプシュカルを去るジャイサルメールJamesよりもウダイプルJamesの方に気持ちがなびいていて、どうしよう…と揺れているというLong storyを毎日聞かされた。
ある日の夕日を見に行く時の服のナメタちゃんのチョイスが、お乳丸出しですやんなワンピースだったので、「ワーオ、セクシー過ぎるよナメタ。どうなっても知らないよ。」と私から忠告したら、その晩、ナメタちゃんは部屋には帰って来なかった。
翌朝早朝に帰ってきたナメタちゃんにわざわざ体を揺すられて起こされ、一線を超えた報告を受けた。

あのー、寝起きにそのロングストーリーを聞かないといけませんか。

そうは思ったが、浮かれたナメタちゃんが可愛くて、なんだか自分たちがアメリカのヤングなドラマの登場人物のような錯覚が起きて、こちらも楽しくなって青春白書を聞いてあげていた。

ナメタちゃんは、日本人の普通の感覚で言うとぽっちゃりという概念をかなり超えたボディーだったが、笑顔が可愛いのと、メイクや服が可愛いのと、可愛くなろうという全力の努力が感じられて好感が持てた。
ある時、宿の屋上のカフェでウダイプルJamesを見かけたのだが、かなりイケメンでビックリした。
ナメタちゃんが遊ばれていないか勝手に心配になったが、ナメタちゃんはまだ若いし、旅先のそういうロマンチックなことはどんどんやればいいよという考えを私は持っているタイプなので、「やるじゃんナメタ」というスタンスで話を聞きつつ、「ジャイサルメールJamesはどうすんのよ」と突っ込んだりして2人でどうすべきか一緒に考えたりした。
そして毎回、「次に男性に会ったら、まず国と名前を聞きなさいね。イギリス人のJamesとの恋バナはややこしいので、これ以上は禁止ね。」と私が釘を刺しては、ナメタちゃんがころころと笑った。

私がとても疲れていて早めに寝た夜、深夜に帰ってきたナメタちゃんに、「ねぇ」とわざわざ起こされて、「ウダイプルJamesと数時間後に朝日を見に行くことなったんだけど服装どっちがいいかな?」と言われた時だけは、「うーん。朝日の時間帯は真っ暗だし、服は何でも一緒だと思うよ。悪いけど寝るよ、おやすみ」と冷たく背を向けてしまった。
でも「朝日の時間は暗くて危ないから、これ持っていきな」と私のヘッドライトを貸してあげたらナメタちゃんは喜んでいたからまあいいか、と思ってはいるが、ちょっと冷たすぎたかも知れない。
ごめんねナメタちゃん。

ナメタちゃんとウダイプルJamesの夕日デートの報告を受けた次の日に、私はその場所へ1人で行って夕日を見るというのが、私の変なルーティンになっていた。
ウダイプルJamesがなかなかいいサンセットポイントを知っているので、私も彼に従い、2人がデートした場所を1日遅れで訪れて、1人で美しい夕日を堪能させてもらった。

特に、湖畔にあったサンセットポイントは、私のお気に入りになった。
日が沈むかなり前からそこに行って座って、ポテチを食べながら、インド人の子供と戯れている旅人を見たりして、ぼんやり過ごす時間が好きだった。
プシュカルでは、私の青春とも言えるバンド、Hi-STANDARDのドラムのツネが亡くなったという知らせを受けた。
私の青春がまた消えてしまった。
あのツネの唯一無二の変則的なドラムの音がこの世から消えてしまったのかと思うと、とても悲しかった。
4年前のライブでも聴いたハイスタの「Brand new sunset」を聴いて、夕日を見ながら、タフボーイではないのでちょっぴり泣いたりもした。
これからこの曲を聴くたびに、プシュカルの夕日を思い出すだろう。そうやってまた刻まれていく。
毎日、プシュカルの湖の向こうに沈む夕日を見たが、全く同じ夕日ってないし、全く同じ1日もないし、毎日が新しい日なんだなあとか、生きていくしかないんだなど思って、毎日感傷に耽っていた。

Here on the beach no one's around
A seabreeze blows right through my heart
I see now my bicycle has rusted
There's no turning back now
Nowhere to return to
Yes now I realize

The words that you said
They turned me into a man,I think
It's brand new sunset
I won't cry, cry, cry
Cause I'm a tough boy
「Brand new sunset」


通りから見た夕暮れの空
サンセットポイントでポテチを食べて待つ
プシュカル湖に沈む太陽
次は、あの山の頂上へ夕日を見に行く
そしてあの山の頂上までロープウェイ。
往復券を買ったけど揺れまくって途中で止まったロープウェイが怖過ぎて、歩いて山を降りた。
プシュカルの大地
宿の屋上のカフェからの眺め。あの山。
屋上からの朝日
屋上のカフェで独り占め朝日。



ウダイプルと言えばジュンさんだったが、
プシュカルと言えばナメタちゃん、そしてもう1人はファラフェル屋のミコだなと思う。

宿のすぐ近くのいつも通る道にイスラエルのファラフェル屋さんがあって、私が通るたびに声をかけてくれたオーナーのミコ。
初めて通った時に足を止めて、ファラフェルロールを食べてみたらとても美味しかったのだが、これを毎日食べるのもなぁと思って一度きりになっていた。
それでも毎回通るたびに「チャイ飲もうよ」と誘ってくれて、小さい紙コップにチャイを入れてくれて、毎日店先に座ってごちそうになった。

ミコとミニ紙コップのチャイ



新しい町に移動してくると、知り合いが誰もいないところから始まるから、いつも出だしはちょっとだけ寂しい。
そんな中、ミコとチャイを飲みながらおしゃべりし、他の旅人とも話す機会も持てた。
ミコのファラフェル屋は旅人に人気で、いつも誰かがいる。
プシュカルは土地的にラジャスタンの真ん中辺りのため、私のように西から旅してる人と、逆ルートで東から旅してる人とが交わることが多かった。
そのため、私が通ってきた町へこれから行く人たちにおすすめの宿やレストランを教えてあげたり、逆に私が反対ルートで来ている彼らにこれから行く予定のジャイプールのおすすめを聞いたりした。
バスの時間や値段などもここで情報を得られたし、ミコのファラフェル屋は情報交換の場所としても役立った。
そうやって日に日に町に知り合いが増えていって、1週間もいれば歩いていると名前を呼ばれたり声をかけられることが増えていく。挨拶する相手も増える。
だけど、5日以上いると、知り合いの旅人もまた別の場所へ移っていったりして、なんだか顔ぶれが入れ替わったなぁなど思ったりして、私も街を去るタイミングがくる。
そんなペースの旅が続いているなぁとプシュカルで改めて感じた。
小さな町であれ、どの町も1週間くらい滞在しているから、かなりゆったりしたペースで私は旅をしている。
時間のない旅人が2日で全部回るところを、私は1週間かけて過ごしているから、ぼんやり過ごす時間も多いし、おしゃべりして時間を潰すこともあるし、ただ毎日同じ道を散歩ふることもある。
プシュカルではまた生理が来たので、生理痛で寝込む日もあったし、ダラダラと過ごす時間も多かった。
聖地と呼ばれるプシュカルで、聖地らしい場所になかなか行かない(行けない)まま、宿の屋上のカフェで夜中まで映画を見たり、ナメタちゃんと2人きりのドミトリーの部屋でお喋りしたり、早起きして屋上で朝日を見たり。
プシュカルの聖地らしさを全く味わえないまま1週間を過ごし、最後の日の前日にようやくブラフマー寺院や沐浴場などの聖地巡りをしたのだが、私にとってのプシュカルは聖地というよりは、もっと通俗的な、ナメタちゃんとのおしゃべり、ミコと飲むチャイ、毎日1人で見た夕日。そして、通り過ぎていった旅人たちとの会話。
そういう日常だった。

ファラフェルロール
ベルギー人が隣で飲んでた洒落たジュース
ミコの相棒とシャールク
(インドのコーラ、サムズアップ)



追記:
最近のナメタちゃんだが、有給休暇を終えてプネーの家に帰り、現在、無事に本命のジャイサルメールのJamesと再会できたというメッセージが届いた。
ナメタちゃんの家にジャイサルメールJamesは泊まったらしいので、おそらくそこにもLong storyがあったのだと思う。
そのLong storyを、また夜にベッドに2人で並んで腰掛けてまた聞きたいなぁと思った。
今度はいくら眠くても何時であろうと、ちゃんとその話を聞くのになとも思った。
今はもう戻らない、たわいもないあの時間のことを、私はなぜだかとても懐かしく思った。


プシュカルはいわゆる聖地なのだが、今回は聖なるものではなく、俗な話を「俗」編として書いた。
また、プシュカルはお買い物天国とも言われており、いい雰囲気のカフェも多かったので、次回は、買い物欲、食欲などの欲を爆発させた「欲」編を。
最後に、聖地らしく「聖」編を書く予定。




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