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恋した剱岳、そして限界へ②【雷鳥沢2021夏 2日目】

剱岳(通称ツルギくん)にアタックするための剱沢キャンプ場まで、剱御前小舎から40分と確かに書いてあったし、はっきりとお姉さんもそう言っていた。


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だが、歩けども歩けども40分で辿り着けそうにない道。
いや道というか岩がゴロゴロした斜面。

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そういえば余談だが、剱岳の「剱」という字が前から気になっていたが、「剣」ではなく「剱」で、時々「劒」もある。
「剱」の右側が本当にツルギっぽくて格好良い。

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ぼーっとした頭でそんなことを「剱沢」の看板を見て思ったりしていた。

下りの坂道は普段は大好きなのだが、疲れが足元に来ていてうまく下れず、全然進めない。
不安定な岩の上に足を置いてしまってグラっときたり、どこに進めばいいか悩んで立ち止まったり。
道なき道の下りは非常に難しいということを嫌でも知る羽目になった。
トレッキングポールを最長に延ばして、足代わりに使って下っているから膝への衝撃は軽く済んでいたが、腕が疲れてくる。
急な崖のような斜面を下っていけば下っていくほど、帰りはこれを登らないといけないのかと考えてしまって、泣きそうになってくる。
今でももう既に相当疲れ果てているのに、帰り道、登れるのかなあと、弱っちいネガティブな私は先のことを考えて不安でいっぱいになってくるのである。

1時間くらい下って、やっと、だいぶ先の地の果てにいくつかのテントが見えた。それでも、まだまだ下やんか…と泣きそうになる。
この行程をサクサクっと40分で下れる猛者でないと剱岳に近づくことすら許さないぞという意味だろうか。
そうだとしたら、私のような軟弱者はもうギブアップです、と両手を上げたくなっていた。
しかし、手も上がらない程疲れていたのが現実。

時々出てくる雪渓部分がまた私を緊迫させる。
つるつると滑ってしまい普通のスピードでは下れないため、1歩1歩、全集中・雪国の呼吸(注:鬼滅は見てない)で足を置いていかないといけない。
そうやっていても、実は3回ほどスッテンコロリンしているのだが、こけるたびに体に変に力が入ったり打って痛かったりして嫌になるし、身も心も消耗していく。
「こける」っていうのは私は平坦な道でもよくやらかすのだが、こういう登山の途中にこけるととっても気持ちがダウンしてしまう。
疲れが足にきてもう足がうまく動かせない気がしてくるし、次にこけるときは転落死ではないか、という不穏な想像をしてしまう。
フラフラするし、空気も薄くてうまく呼吸ができない気がしてくるし、登りの道よりも汗が出ないし、不思議と喉も乾かないし、雪渓の上を通り抜ける風が冷たくて心地良かったのだが、だんだんと寒気すらしてくる。ヤバいフラグが立ちまくっている。

それでも何とか頑張って下り続けることができた理由はたった一つ。
この景色がだんだん目の前に近づいてきたから。

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最後の最後の雪渓を一度も転ばずに渡り切り、平らな場所に到着。
テントを張っている人がいる。
ここが剱沢キャンプ場か…。
40分のところをおよそ2時間かけて辿り着いた。
のろまな亀でも歩けば進むのだなあと我ながら感動。

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おお。

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剱沢。
確かにすごい場所である。
目の前にツルギくんがドドン。
この場所は凄すぎる。
へなへなへなと岩に座り込み、しばらくただじっとツルギくんを見つめる。
風が強く、雲がどんどん流れていき、時々ツルギくんを隠したりしながらも、丸腰の剱岳が常にそこに鎮座していた。
ここには剱岳しかない。
ツルギだけ。
ONLYツルギ。
なのに、なんて素晴らしい場所だろう。
しびれるぜこの野郎。
剱岳に一目惚れした1年前。
あの時は遠くに見えるカッコいい山だったが、
まさか1年後にここまで近くに来られることになるとは。
健康に1年間、生きてこられて良かった。
自分とツルギくんに祝杯をあげたい。

昼もとっくに過ぎているし、カレーヌードルを食べるため、お湯を沸かすことにした。
幻ボトルに入ったぬるいお湯をもう一度沸かす。

またもや余談。
「幻ボトル」とは、東野幸治の「幻ラジオ」のオリジナルグッズである。

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私は幻ラジオのリスナー「幻民」だったため、速攻で購入。ダディこと東野幸治も「東野登山隊」というyoutubeをやっているから親近感がある。
幻ボトルは、タイガーのボトルでクオリティも良いし、デザインもシンプルで、カーキ色も格好良い。
何よりも、ボトルのどこにも「東野幸治」と書いてないのが良い。分かってらっしゃる、東のり。
今回の旅から私のお馴染みのギアへ、レギュラーメンバー入りした。

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そんな幻ボトルと、いつものスノピのマグでお湯を沸かしカレーヌードルに注ぎ、ちゃんと3分待つ。
ツルギくんを見てるだけで飽きないし、雲の流れも早いし、あっという間に経つ。
その間、お菓子をボリボリ。
疲れ果てていても、食欲はむちゃくちゃあるらしい私。
山でラーメンを食べる時、汁を捨てられないからお湯を少なめにしないといけない、というルールがあるが、私には関係がなかった。
ラーメンの汁を捨てるなどというのは私の辞書にはない。
常日頃から一滴残らず飲み干し系なのである。

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ああ。

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人生最高の味。
ツルギくんに乾杯。

すごく美しい。
ずっと見ていたい。

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人も少ないし、風の音しか聞こえない。
本当にツルギくんを独り占めしてカレーヌードルを食べた。
最高に贅沢な時間、空間。
ここにテントを持ってくれば、一日中ずっと剱岳を見ていられるのに。次はここに泊まろうかな。
軽いリュックの今日ですらあんなによろよろでやってきた私が、テントを担いでここまで来れるわけがないのに、そんなことを思いつく。
よし、やるか、肉体改造。
思うのは簡単であった。
しかし、現実には、簡単に来られないからこそ、この地に価値があるのだなあと思う。

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左前の剱岳の本当の麓の麓に山小屋が見えた。
「剣山荘」という場所らしく、ここから30分くらいで行けると言われた。
行きたい。
あそこまで行けば、どんな剱岳が見られるのだろうか。
興味はある。
しかし、さすがに今回は諦めた。
40分と言われた場所に2時間かかった女である。
30分くらいと言われている距離を進む力はもうどこにもなかった。
帰りの分の体力すら残っているかどうか怪しい。
1時半までにはここを離れないと明るいうちに帰れないかも知れない。
そう頭で分かっていても、なかなかツルギくんにお別れができずにいる私に、「早く帰れ」と言わんばかりにツルギくんは雲の中に隠れていった。
剱岳をこの目に焼き付けて別れる覚悟と、あの道を登って戻る覚悟ができるまで、私にはまだもう少し、時間が必要なのであった。


もう少しだけ、続く…


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頂上まで行ってないくせに、登ってもいないくせに、堂々と喜んで私は「劔岳頂上」のスタンプを押した。







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