5-トルコの影

◆バザールに溢れるトルコの商品
クルディスタン地域は、ヘウレルにしろスレイマニにしろ、大都市では高級ホテルか林立し大型ショッピングモールが建ち並び、表面的には繁栄してるように見える。その真の姿は、混み合ったバザールの中綺麗なショッピングモールで、何かしら製品である商品を手に取り製造国を見ればたちどころに現れてくる。既に述べたように、どの商品を見てもイラク製のものはなく、ほぼ全てが外国製である。クルディスタンの現実は、中東産油国を指して言われる「レンティア国家」だ。輸入品の中で目立つのが、トルコとイランだ。イラン製品に比べれば、トルコ製品はそれほど価格競争力はない。それにイランは制裁を受けていたとはいえ、周囲の市場に恵まれている。イランは、陸続きのアフガニスタンや中央アジアそしてクルディスタン含むイラクに多くの商品を流し、さらに海路でオマーンから湾岸にまで流通させている。果たして中東が安定状態にある時、トルコはどれほどの近隣国市場を見出すことができるだろうか。イランの商品は、ハチミツやデーツ等特定の商品で圧倒的によく見るということはある。トルコ製品は、韓日が席巻する電化製品、車といった耐久消費財以外、ほぼ全ての商品で目にする。表がアラビア語表記でも、裏のどこかには「made in Turkey」または「Türkiye」が書いてある。三つ編みような形のペイニル(チーズ)の裏を見ると案の定トルコ産であった。とある靴商人の荷車の裏には、これみよがしにトルコ国旗柄にデザインされた空箱があるのを見た。酒に関しても、ビール「エフェソ」はポピュラーな銘柄だ。トルコで今後禁酒法が成立するのか定かではないものの、仮にそうなってもタリバンがアヘン生産・流通を黙認するのと同じく、輸出は止めることはまずない。

ショッピングモールには、多くの洋服ブランドの店がある。何気なく見ているだけではわからないが、それらブランドのほとんどがトルコのものである。生産国は中国が主と聞いた。もしかしたら、トルコで問題になった、シリア難民の子供を低賃金で違法に雇用して作らせたブランド服が、クルディスタンに出回っていることも考えられる。クルディスタンがトルコ製品に対価として差し出すのは、ジェイハン・パイプラインを通じて輸出される石油である。バルザニ率いるPDKは、石油利権の分配を仕切る腐敗した封建的指導者である。多くの有力なクルド勢力の中で、PDKは唯一の非民主的勢力と言っていい。PKK、ロジャバ、YNK、またイスラム勢力とも仲が悪い。さらに、イラク中央政府、イランとも仲が良くないので、近隣国ではトルコだけが頼りとなっている。外資を呼び込むことに積極的でも、産業育成計画を立てることはしないし、その能力もない。バルザニが居座る限りで、トルコの市場としてのクルディスタンは安泰なのである。トルコ軍がイラク中央政府のことわりなく兵を進め、モスル近郊のバシーカに勝手に基地を建設しようとも、PKK掃討の空爆でドゥホークのクルド人農民が被害を受けようと、あくまでトルコの肩を持ってくれる。

◆トルコの下心
トルコは、ジャジーラの戦乱に乗じて自国商品の販路を拡大している、と言えないだろうか。ダーイシュは、密造石油をトルコに流しているのが話題になった。ダーイシュの支配地には、住民の生活を支えるだけの生産力はないから、ブラック・オイルマネーはトルコ製品の取引で使われたことは間違いない。トルコのシリアへの軍事介入「ユーフラテスの盾」の序盤で奪取したジャラブルスにおいて、人道支援と称してトルコ側から電線を敷いていた。

                         (出典:CNNTURK)
また、占領した都市各地で勝手にトルコ風の警察を組織していることも明らかになっている。トルコの介入にクルド人勢力拡大を抑えるため、という下心を感じ取るのは容易である。それと並んで大きな目的と思われるが、トルコのインフラ規格、行政機構運営、商品を、アレッポ県に押し付け併合せずとも従属関係におくことだ。クルド人の進出を武力で抑えることと、政治・経済的に地域を依存関係に置くのは、車の両輪のような関係にある。どちらか一方だけでは、トルコが恐れるクルド人の発展を止めることはできない。トルコは、イラク、シリアにおいて、ダーイシュを含め多数のテロリストのパトロンであることは周知の通りだ。トルコは、かつて欧米列強がやっていたのよりもっと汚い手段をもって、政治不安の近隣諸国に介入しトルコ製品のはけ口を見出している。エルドアンの強権政治が目指す「新オスマン主義」の正体を見た気がした。それが、かつてのオスマン帝国と異なるのは、「パクス・オトマニカ」の代わりにテロの恐怖を拡散することだ。

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